銀行ドラマの卵『事実は脚色できるほどに奇なり』<銀行コンプライアンス(法令等遵守)の話>もと甲子園球児・エースで四番の行員が絡んだ1億円の台風手形


柴川淳一[郷土史家]

 

銀行にはコンプライアンス(法令等遵守)の独立部門があり、反社会勢力への不正融資や不祥事件の未然防止に努めている。

その昔、元甲子園球児・エースで四番の行員がいた。仮にマー君と呼ぶ。その支店の永年の大口預金者A氏は入行間もないマー君を可愛がった。

ある時A氏はマー君に一億円の手形の割引を依頼した。支店に持ち帰ったマー君に古参の融資課長が言った。

融資課長「期間を見たか?7ヶ月の約束手形。二百十日の超長期、すなわち台風手形だ。振出人は有名な街金業者だ。違法の噂もある。この一億円は、仮にこういう筋書だと思う。街金Bは九千万の運転資金をAから受け取り、Aへの利息一千万と合わせた一億円を、7ヶ月後決済の約束手形にしてAに渡す。Aは街金の金主(スポンサー)だ。Aは、Bから受け取った一億円の手形を当行で割引し、利鞘を稼ぐ。当行の割引料年3%として、一千万円引く、一億円掛ける3%掛ける7ヶ月割る12ヶ月イコール825万円の儲けと言う事だ。Aは当行の大口預金先で外見は温厚で紳士的だが街金の金主で暴力団とも、とかく噂のある人だ。これはまともな商取引で発生した約束手形ではない。君はこの手形が不渡りになったらAはどうすると思う?」

マー君「手荒な事はしないと思います。手形をジャンプ(期限を延長すること)させるだけだと.....。」

融資課長「その通りだ。だが、似非商行為は早晩、破たんする。また、この手形には複数の利害関係人が絡んでいて、彼らがすべて違法行為者だ。回収不能となれば、犠牲者が出る。そんな状況では、いくらA氏が永年の大口預金先だーと言っても、当行ではこの手形を割引く事は出来ない!!」

それから、マー君はA氏の家に一億円の手形を返しに行った。温厚なA氏はマー君を見つめた。そして、元高校球児で未だ銀行業の垢に染まり切っていないこの青年に訊ねた。

A氏「なぜ、割れないのかね?」

マー君「Aさんが今の仕事から足を洗うと約束してくれたら、僕は頭取に頼んで割らせます。しかし………」

A氏「先を話しなさい」

マー君「この手形が元でトラブルになったら、僕はAさんを助けてあげられない。僕は自分可愛さにきっと責任逃れをするでしょう。そしたら、Aさんが可哀想だ!」

A氏「私が可哀想だというのか?そうか分かった。もし、割引するのを止めれば、私の口座は一億円の資金不足になり、私も、もうこの商売は出来ない。しかし、マー君。君の言う通りこんな事を続けていたら、いつかは君の言うような目に合うだろう。有難う!きみの所では割引させないよ。」

それから、間もなく、AもBも手形不渡り事故により、公告がなされた。司直の手でAの大口預金はすべて差押えられた。

 

【あわせて読みたい】

The following two tabs change content below.

柴川淳一

柴川淳一。郷土史家。1954年香川県生まれ。明治大学卒業後、地方銀行に37年間奉職。