<良心的任務拒否?>「日本国憲法を遵守」すべき自衛隊が憲法違反と思われている状況で活動する悲哀


両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]

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警察、消防、海保だけでは対応しきれないほどに重大な災害には自衛隊が出動します。災害出動した時の自衛隊はいつでも実に頼もしい存在です。先日の常総市などを呑み込んだ水害でもその活躍は素晴らしものでした。

先日、フジテレビ朝の情報番組「めざましテレビ」を視ていましたら、外国人がインタビューで口々に大絶賛していました。とりわけ大型ヘリで次々と吊り上げて救出する姿には驚嘆したようです。

筆者も取材で数え切れないほどヘリに乗り、空中の一点にとどまるホバリングを何度も経験していますが、実はヘリが空中で完全に静止するのはほとんど不可能なのです。パイロットは前後左右に揺れる機体をミリ単位の操縦技術と集中力によってコントロールしています。

今回、濁流にのまれた家から救出する場合、屋根から吊り上げるには屋上のアンテナや電線などが障害になります。これに吊り下げたロープがひっかかれば吊られている人間はもちろんヘリ自体が危険になります。

ベランダからの救出だと、せり出した屋根やひさしに吊り下げたロープはもとより二人の人間がぶつからないように吊り上げるのは危険と隣り合わせの高度な技です。こうした困難で危険な作業を悪天候の中で何度も何度も繰り返すのですから、自衛隊員の精神力と体力と錬度には頭が下がります。もちろんヘリのみならず、地上では泥水の中での救出など、3・11でも視た光景が今回も繰り広げられていました。

こうした厳しく辛い仕事を黙々と、そして高度にこなす自衛隊員には強い使命感と誇りがあふれているようです。この使命感と誇りの源はどこにあるのでしょうか。

自衛隊員は例外なく自衛隊法施行規則によって定められた「服務の宣誓」をしています。

「私は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身をきたえ、技能をみがき、政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行にあたり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います。」

これでわかるように結局のところ自衛隊員は、「国民の負託にこたえること」を誓っています。災害出動は国民が救助してほしいと自衛隊に強く「負託」しているのですから、それが大いなるモチベーションとなり、どれほどつらく苦しい作業であっても、自衛隊員のみなさんは強い誇りと使命感を持って事に臨めているのだと思います。

この度の安保法制によって自衛隊は海外活動が大幅に拡がることになりました。場合によっては武力行使により、自衛隊員が死ぬ可能性も、殺す可能性も生じることとなります。筆者は「服務の宣誓」をされた自衛隊員のみなさんやそのご家族の中には複雑な心境の方が少なくないのではないかと想像しています。

そして、もしかすると、「そのような任務に対しては宣誓していません」と言い出す自衛隊員が現れるかもしれないと感じています。それなりの理由があります。

繰り返しますが、「服務の宣誓」で自衛隊員が誓っているのは結局のところ「国民の負託にこたえること」です。

ところが、9月14日の参院安保特別委員会・集中審議で民主党の北澤議員は、さまざまな世論調査で今回の安保法制は「反対」60%、「賛成」30%、「今国会での成立反対」80%という数字を安倍総理に示し、廃案もしくは解散を求めました。これに対し、安倍総理はこの世論を「そのとおり」と率直に認めた上で、それでも法案の実現を期すと答弁しました。

この時に限らず、安倍総理は今回の安保法制に国民の多くが反対であることを何度も答弁の中で認めています。ということは、この法制を根拠とした自衛隊員の任務は少なくとも現時点では「国民から負託されていないこと」を安倍総理自らが認めていることになってしまいます。

さらに、宣誓文冒頭には、「日本国憲法及び法令を遵守し」とあります。しかし、今回の安保法案に対し、国民の多くが憲法違反と考えていることが各種の世論調査ではっきりしています。安倍総理は合憲を主張しつつも、国民の世論傾向を認めています。

そういう状況で自衛隊員やご家族がこの法制による任務は「日本国憲法及び法令を遵守し」ている任務だと確信できるのかどうかはなはだ疑問です。

自衛隊員やご家族の心配要素はほかにもあります。安倍総理は「服務の宣誓」から「事に臨んでは危険を顧みず」というフレーズを何度も引用し、自衛隊員は元々危険な任務にあたっており今回の安保法制によりリスクは増えることはなく、むしろ軽減することもある、と答弁し続けました。

しかし、今回の法制で自衛隊の活動は質、量、地域ともに拡大し、一部武力行使にも道を開いたのですから隊員のリスクが増すことは明白です。ですから、内心では政府の言うとおりのはずはないと心配する自衛隊員やご家族も少なくはないはずです。

加えて、武力行使などで負傷はおろか殺し殺されるリスクが増えるばかりでなく、自衛隊員のみなさんには「そんなバカな!」と言いたくなるようなリスクも指摘されています。

たとえば海外で任務遂行中に誤って一般市民を殺傷してしまった場合、その罪は隊員個人に科される可能性があるとか、万が一自衛隊員が捕虜になった場合、ジュネーブ条約による捕虜保護の対象にならない可能性がある、というような指摘です。

このように、今回の安保法制は、いろいろな面で自衛隊員やそのご家族にとっては心穏やかならぬものであることは間違いないでしょう。

もしかしたらご近所も親戚も友人もこの法制による任務に反対であり、憲法違反だとさえ思っているのではないか・・・、という不安を払拭できないまま「事に臨んでは危険を顧みず」と危険な任務を命じられたら、ご本人もそのご家族もあまりにお気の毒に思えます。

今回の法案に対し、「残念ながら国民の理解は進んでいない」と安倍総理がたびたび答弁するほどに国民の意思は明かなのですから、できるだけ早く国民の考え方を変えるか、国民が納得するように法を変えるかのどちらかをしないと、自衛隊員のみなさんは災害出動のように一点の曇りもなく誇りと使命感を持って任務遂行にあたることができません。

尊重すべきは現在の議席数による結果だけではなく、現在の国民の本当の意思でしょうか。なぜなら自衛官が「服務の宣誓」で「事に臨んでは危険を顧みず」と誓ったのは、安倍総理も与党も国会もなく、あくまで「国民の負託にこたえる」ことなのですから。

真の「国民の負託」に心しないかぎり、良心的兵役拒否ならぬ「良心的任務拒否」をする自衛官が現れてもなんら不思議はないような気がします。

 

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両角敏明

両角敏明(もろずみ・としあき)テレビディレクター、プロデューサー。 バラエティ、報道、情報、すべての番組を手がけてきた。