<トヨタのCMがスゴい>凡庸なCMだらけの中で光る秀作CM「TNGA STORY」


高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

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近頃、テレビCMの質が落ちている。できが悪い。凡庸である。どこが?

CMを見ると15秒後に必ず、企業名か商品名で終わる。当たり前に見えるが、それが凡庸である、工夫がない。CM本来の必要性から言えば、企業名・商品名の前についている10秒程度の映像はいらないと言うことになる。

15秒全部使って「作品としてCM」をつくろうという創り手の覇気が感じられないように思う。

「30秒の狙撃兵」と呼ばれたのはCMディレクターの杉山登志である。数々の印象的なCMをつくった後、

「リッチでないのにリッチな世界など分かりません。ハッピーでないのにハッピーな世界など描けません。夢がないのに 夢を売ることなどは……とても……嘘をついてもばれるものです」

との遺書を残し37歳で自死した。

もちろん、死んではいけない。だが、杉山がCMで夢を売ろうとしていたことには激しく同意する。そんなことを思っていたときに見たのが「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」のCMシリーズである。以下、「TNGA STORY/SAFETY篇」を脚本形式で再録する。

シーン1.新車開発ルーム

開発チームが遠巻きに一台のクルマを取り囲んでいる。

車台と、風呂音が激突で壊れている開発車。

そのチームの中にリーダーの佐藤浩市がいる。

中堅開発部員・鈴木浩介。

新人・黒木華

佐藤「(帽子を脱ぎ、ほとほと疲れて)また、最初からか」

佐藤の脇を「データ、データ、データ」とつぶやきながら通り過ぎていく男。

佐藤、またか、という感じで男を見送る。

男は開発車の壊れた部分にしゃがみ込んだ。

まるで楽しいかのように、鼻歌交じりの男である。

佐藤が怒りを含んだ足取りで男に近づき声を掛けた。

佐藤「データ、データ、データって、お前はデータの犬か」

しゃがみ込んでいた男、ゆっくりと立ち上がり、佐藤の顔を真正面に捉える。

男は開発チームの一員、三浦友和である。

三浦「(犬の真似ではなく、まるで犬の鳴き声を読むように)わん」

三浦が、目の端で笑う。

それをきっかけに佐藤が胸ぐらをつかんだ。

二人のとっくみあいが続く。

誰も止めに入らない。

見ている黒木華。

シーン2.テストコースを疾走する開発車

三浦と黒木がテストコースのベンチに間を開けて座っている。

シーン3.工場裏手のベンチ

黒木「どうしてぶつかるんですか」

三浦、先ほどのもみ合いで壊れたのであろう、先とは違う眼鏡をかけて。

三浦「(分かってはいるが)どうしてだろうねえ、安全と安心は違うんですよ。

データでそう言われたって、心がそう思わなきゃ無意味なんですよ」

考えはむしろ、佐藤に近いのである。

三浦「でもねえ。そこに行き着くためには徹底したデータが必要なんです。基準をクリアしていることを確認するだけじゃあ、ホントのデータじゃ、ないんです」

黒木「なるほど」

三浦「クルマをもう一度発明しようとしているようなもんだからさ」

黒木「そう簡単にはいかない」

三浦「おうっ。わかってるじゃない」

シーン4. 開発ルームを見渡せる廊下

じっと、開発車を見て立っている佐藤。

三浦の声「怒る奴ってさ、何で怒るか分かる?」

黒木の声「いや、なんでか…」

三浦の声「図星なの」

シーン5. 前同・工場裏手のベンチ

三浦「ず・ぼ・し」

シーン6. 開発ルームを見渡せる廊下

激しく、くしゃみをする佐藤

シーン7. 画面取り切りスーパー

「開発は、喧嘩だ」

シーン8. 前同・工場裏手のベンチ

前と同じ、なんだか分からない鼻歌を歌いながら去って行く三浦。

黒木、三浦を追う勢いでベンチから立ち上がる。

歩いて去って行く三浦に。

黒木「(何かが分かったのである)開発は、喧嘩。ですもんね」

三浦、全く振り向く気配は見せないが。

三浦「♪uh,fuh」

背中で手を振った三浦。

遠くで工場を照らす照明が見える。

(以上、2分17秒)

* * *

こうして書き起こすと、きちんとこれがドラマになっていることが分かるのである。この作り手はCMディレクターなのだろうか。映画監督かも知れない。

いや、編集の仕方はやっぱりCM屋さんだろう。

 

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