<現実の銀行はドラマより奇なり>横領をもみ消して昇進までさせようとする支店長の話


柴川淳一[郷土史家]

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団塊世代のある銀行の支店長の話。

その支店長は営業戦略のない人だった。仕事にビジョンもポリシーもなく、派手な突撃ラッパだけは元気に吹くことができた。飴と鞭で部下を煽てたり、賺したりして支店長職に成り上がった人だから、顧客から見ても頼りないイメージだった。何しろ愛読紙はスポーツ新聞で日経新聞なんぞ見たこともない。

若さと勢いと男気だけはあるような演技の上手い男だから、無知無能な役員から目をかけられていた。「俺のケツモチを誰や思うてんねん!!」こういうたんかを切って引退した芸能人に似ている。

こういう支店長には、不思議と「デキの悪い部下」が集まって来る。ある部下などは、実家が事業に失敗し、金に困った父親の為に銀行の金に手を付けてしまった。もちろん、「デキの悪い」現金横領はすぐに発覚した。

横領した若い男性行員は、くだんの支店長の大学の後輩で新人の時から目をかけられていた。また、この若い横領行員は日頃から、支店長に響応や付け届けをして保険をかけていた。そのかいもあって、支店長は事件をもみ消した。

事件を本部には報告せず、部下の横領した300万円を支店長が100万円、部下の次長が100万円、さらにその下の支店長代理二人に50万円ずつ負担させた。その交換条件として、次長には、次回人事異動で支店長昇格を確約した。

2人の支店長代理のうち年長の代理には同じく次回人事異動において次長昇格を約束し、若い代理にはボーナス評価査定を優秀者扱いにすると約束した。

それで銀行の帳面勘定は合う。しかし、数字があえば良いというものではない。不正のもみ消しには正義感のかけらも見受けられなかった。

しかも愚かなことに、横領をもみ消したその支店長は自分の描いた絵図に大満足した。横領行員は首にならず、100万円の補填をした次長は憧れの支店長職となれる。ベテラン支店長代理はそのあと釜となり、やがて支店長の目も出て来たというわけだ。

後輩支店長代理はボーナス支給額のアップと優秀行員として頭取表彰を受けることになる。そして、くだんの支店長自身は横領事件と言う不祥事の監督責任に問われることなく、万事上手くいった。

誰も不幸にならなかった、めでたし、めでたし、と悦に入っているが、本来は言語道断。もってのほかの悪行である。そもそもこのようなことがまかり通れば、不正をしても、ばれなければ咎めを受けないと言う誤認識が蔓延し、さらなる不正の土壌を産む。

実際に営業成績を上げたわけでも銀行に貢献したわけでもないのに、3名の偽昇格者を出している。それは銀行に大きな損害をもたらすに等しい。

しかし、支店内で不正が罷り通るのを見かねた行員が本部に通報したため、彼らの不正の共同共謀事実は白日の下に曝け出された。くだんの支店長含め5人は処分された。

横領行員と支店長は懲戒解雇の上、告発され、逮捕された。次長と部下の2名の支店長代理は全員降職処分となり、3名とも、本部の現金担当係に転属させられた。来る日も来る日も粉塵の舞い散る現金準備室で一日中、硬貨を袋詰めしたり、担いで現金輸送車に積み込んだりしている。

この3人が行った臆病で愚かな行為の代償はあまりにも大きかった。悔やんでも悔やみきれないことだろう。支店長に恫喝され、口車に乗っただけ等と泣き言を言わずに、あの時、己れの良心と正義感に従って行動すべきだったのだ。

現実の銀行とは、ドラマで描かれるよりは遥かに「奇なり」である。

 

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柴川淳一

柴川淳一。郷土史家。1954年香川県生まれ。明治大学卒業後、地方銀行に37年間奉職。