<ドラマ「LEADERS」の語られなかった話①>俳優・佐藤浩市、橋爪功、香川照之の「キャリアなき戦い」


貴島誠一郎[TBSテレビ制作局担当局長/ドラマプロデューサー]

 

TOYOTAの創業者を描いたドラマ「LEADERS」では、近来にない規模の長期ロケを行なった。長い地方ロケは俳優部とも、東京では、まずしないような話にまで至ることもあった。

俳優に先輩後輩や年功序列ががあるのだろうか? 最近のバラエティー番組では吉本NSCの先輩後輩がネタになる。宝塚も明確だ。

劇団出身の俳優は劇団内の序列があるが、歌手やタレントなど様々な育ち方をする俳優には、もちろん年齢やキャリアの上下からくる人間的な気遣いはあっても主役と脇役があるだけで、絶対的な上下関係はなくフラットだ。

映像であろうが舞台であろうが主役を目指さない俳優はいない。若くて主役を張る俳優もいれば、主役経験者が脇役に回ることもある。長年、脇役を務めていてもある時、主役を演ずる機会が訪れる場合もある。

俳優にピン芸人やソロシンガーは存在しない。俳優はひとりでは存在しない。相手役があって初めて存在する。ひとり芝居などあり得ない。あるとすれば演出家とのふたり芝居である。

演技をする、芝居をするという同じ板(舞台)に載った以上、どちらが魅力的な芝居をするかであって、年齢もキャリアも関係ない。どちらが先に売れたかも関係ない。喰うか喰われるかのバトルロイヤルだ。負ければ主役の座を降りるだけだ。

多少のキャリアよりも若いほうが魅力と可能性があるに決まっている。若さにアドバンテージがあるハンデ戦。そういう畏れをベテラン俳優は自覚している。

女優さんなら尚更だ。それは自分が辿ってきた道だからだ。俳優は機能としての主役と脇役として互いに相手の存在感を認めあい、ベテランと若手が常にシーソーゲームを展開している。

しかも、そのジャッジをするのは監督やプロデューサーではなく、観客であり視聴者なのだ。技量が上回れば勝負がつく武道やボクサー以上に、技量のあるベテランのほうが謙虚な厳しい職業だ。

ドラマ「LEADERS」の撮影も上海ロケで終盤を迎え、名優・橋爪功さんの記者インタビューが設定された。主演の佐藤浩市さんと三回目の共演となった橋爪さんは、主演としてブレない浩市さんのことを「脇役として大変やり易い」と語った。

主演の役柄として、ああもやりたい、こうもやりたいと悩まぬはずがないのだが、浩市さんは周囲にそういう素振りは見せない。若く経験の少ない主役は自分の役柄や演技に悩んで、現場を止めたりすることも少なくない。

幸運なことに自分のドラマでは、そういう経験はないが、ちょくちょくそんな噂は聞く。おそらく自己中心的で相手役や脇役のことまで思い至らないのだろう。相手役や脇役の演技を引き出すことによって主役が立つことを理解できてない。

演技にひとり芝居はない。演技の質は俳優が決めるのではなく、一次的には現場の監督や演出家が決め、最終的には観客や視聴者が決めるという覚悟がない俳優である。自分の技量以上に演技を良く見せることはあり得ない。

監督や演出家が信用できなくても自分の技量を信じるならば、観客や視聴者に委ねる覚悟というか、諦めを持つのが名優の名優たる所以である。

佐藤浩市(所応和35年生まれ)・橋爪功(昭和16年生まれ)・香川照之(昭和40年生まれ)の共演シーンから撮影が開始された「LEADERS」であったが、揃って前夜は眠れなかったと聞いた。キャリアのある実力派俳優は畏れと謙虚さを持っている。

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貴島誠一郎

貴島誠一郎(きじま・せいいちろう ) TBSテレビ制作局担当局長、ドラマプロデューサー 山一證券を経てTBSに入社、現職。1957年、鹿児島県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。貴島がプロデュースしたテレビドラマは、山口智子、常盤貴子、松嶋菜々子、矢田亜希子ら、多くの女優の出世作となっている。『ずっとあなたが好きだった』(1992年)『ダブル・キッチン』(1993年)、『スウィート・ホーム』(1994年)、『愛していると言ってくれ』(1995年)『官僚たちの夏』(2009年)、『LEADERS リーダーズ』(2014年)など多数。