<第20回日本絵本大賞「ふしぎなともだち」>作者たじまゆきひこ氏が語る自閉症児を育てる親の思い

ヘルスケア

たじま ゆきひこ(絵本作家)
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第20回日本絵本大賞受賞『ふしぎなともだち』。この絵本は絵本作家・たじま ゆきひこさんが、淡路島に住む自閉症の青年とその同級生に取材を重ね4年の歳月をかけて誕生しました。「共に育ち、共に生きる」ことを描いた、ふたりの少年がおりなす友情の物語です。今回は特別に作者であるたじま先生から、絵本が創られるまでのお話をご寄稿いただきました―——
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国際障害者年(1980年から10年間)に、京都教職員組合障害児部会の先生たちと絵本『あつおのぼうけん』(童心社)を創りました。脳性まひのあつおが海辺の養護学校から逃げ出して、漁師の少年と心を通わせる絵本です。
その後、40年間住みなれた京都から淡路島へ越してきました。島の元校長、小南先生から『あつお…』を20年前に見て力づけられ、障害児を一般の小学校で一緒に学び育てる教育を進めてきたことを聞きました。
先生の教え子たちは、今では町で元気に働いています。知的障害のある自閉症のかあくん(31)は、得意の自転車でメール便の配達をしています。
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突然大声を出したり、届け先でパニックを起こしたり、失敗も多いけれど、まわりの人たちに助けられて頑張っている姿が、ぼくに新しい絵本の発想をくれました。段々畑の道に、懸命に自転車を走らせてメール便を届けるかあくんたちの姿を、淡路島の美しい海を背景に描けたら、大きな感動を伝えられると思ったのです。
島の小学校や、作業所を訪問させてもらいながら、図書館へ通って、自閉症についての勉強も始めました。中でも、『自閉症の息子と共に』(明石洋子著・ぶどう社)の3部作には、母親の深い愛の力で、社会の偏見や無理解に打ち勝ってゆく姿が、明るく感動的につづられていました。
かあくんが小学校1・2年生の時、受け持たれた上田先生は、両親との交換日誌を持ってきてくれました。障害児教育の経験のなかった先生の、700日に及ぶ手さぐりの記録でした。
繰り返し読みましたが、プライベートな文章なので、なかなか頭に入ってきません。3回目に読んだ時、「うえだひろこせんせい、はいおしまい、はいおしまい」というかあくんの言葉が、しみこんできました。
上田先生が壇上で、かあくんの2年間の成長に胸をつまらせ、涙で言葉が出なかったとき、かあくんは、飛び出してきて、先生の手を握って、叫んだのです。かあくんの心を、この日誌から教えてもらいました。
それでも3年たっても、絵本創りはなかなか進みませんでした。ある日、かあくんと保育園から一緒に育った小田君が訪ねてきました。
「ぼくは、かあくんを障害児だと思ったことはありません」小田くんは、言葉でない言葉で、かあくんと、通じあっているのでした。ぼくは、かあくんのことを特別な目でしか見ていなかった自分自身に気づいたのです。かあくんと小田くんとの友情を物語の軸にすることを決めて、絵本はやっと動き出しました。
たくさんの人たちに助けられて、絵本『ふしぎなともだち』は完成しました。たくさんの読者から、感動の言葉が届きました。とくに現在、自閉症児を育てられている親御さんたちからは、自分の子どもが、明るく働いている未来を見せてくれたという言葉をいただいています。絵本を描いてこんなに喜んでもらえたのは、初めてです。

(日本自閉症協会「いとしご」より転載)

 
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