<政治資金使途を参院選の争点に>舛添騒動でわかった「政治資金規正法はザル法」

政治経済

両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
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一連の舛添騒ぎでメディアで盛んに言われたのが政治資金規正法をはじめとする政治資金関連諸法がいかにザル法であるかということでした。
とりわけ、政治資金の集め方には法的な規制があっても使い方には何も縛りがない、という法的不備への指摘はまさに「耳タコ」状態でした。ならば政治資金規正法などの「政治資金使途規制」改正提案は参議院選での票稼ぎにもってこいのはずですから、各党こぞって主張するのかと思ったのですが・・・。
参院選公示日前日である6月21日、フジテレビ系、NHK、日本記者クラブ、テレビ朝日系で党首討論がありました。
すべての場を通じて政治資金にかかわる法改正にふれたのは「おおさか維新」のみ、それもほんのちょっぴり。ほかの党はぼぼ全面的に無視でした。これほどの舛添騒ぎの中にもかかわらず、メディア側もこの点を突っ込んで質すことはなく、聞く方も聞かれる方も、政治資金の使途規正などどうでも良いような党首討論でした。
【参考】<報道の危機?>政権に及び腰の「お行儀よすぎる記者会見」の常態化に危惧
そしていよいよ選挙戦突入です。各党の公約に政治資金の使途に関わる法改正が含まれているかどうかを見てみました。
自民党『自民党 参議院 公約2016』=記述なし。
民進党『民進党政策集2016』=「文書通信交通滞在費の使途を公開する法律と、国会議員関係政治団体の収支報告書を名寄せし、インターネットにより一括掲載することを義務付ける法律の制定」という記述はあるものの政治資金の使い方に関する規制にはまったくふれていません。
公明党『参院選重点政策』=「政治資金規正法を改正し(中略)政治家の監督責任を強化します」などとあるものの政治資金の使い方の規制についてはまったくふれていません。
共産党『2016参議院選挙政策』=「カネで政治をゆがめる企業・団体献金(中略)を禁止します。 政党助成金を廃止します。」とあるものの、使途規制については記述はありません。
もともと政党助成金制度そのものに反対だからかもしれません。
おおさか維新の会『2016参院選マニフェスト』=企業・団体・組合からの献金禁止や文書交通通信滞在費の使途公開、政治団体の世襲制限などを謳っています。政治資金の使途規正についての記述はありませんが、松井代表は第一声で「家族で旅行に行くのも政治資金。ルールがおかしいのに変えない。(中略)国において第一の仕事は政治資金規正法改正案を出すことだ。」と訴えています。
そのほか、社民党『参議院選挙公約2016ダイジェスト版新党改革 『2016 約束』日本ののこころを大切にする党『政策パンフレット生活の党 『政策パンフレット』のいずれにも、政治資金の使い方に対する規制についての記述は見つかりませんでした。
各党は政治資金の使途規制改革は票にならないと踏んだのでしょうか、それとも己に火の粉が来るのを怖れたのでしょうか、どの党も腹の立つほど消極的です。おおさか維新がやや積極的なだけでは法の改正はまず望めません。
【参考】<参院選が公示>すべての立候補者にリポート提出を求めよう
しかし、だからと言って、正月の家族旅行や中国服やマンガ本を買っても政治活動費だなどという理不尽さがこれからもまかり通る世の中はやはり不健康です。法で規制できないならほかの手はないものでしょうか。
そもそも、政治活動は法で規制されるべきではなく、ひろく自由であるべきものです。その自由が侵された時どれほど怖ろしいことが起きるかは戦前・戦中の歴史を思い起こせば充分身にしみます。
ですから法で規制するとしても自由に対する高度な配慮が求められます。それでもなお不適切な現実を放置すればいつか強権によって利用され、その大切な自由が踏みにじられることになりかねません。
こうした点で、まさに「政治活動の自由」は「表現の自由」や「報道の自由」と同じ性格を持つものと言えます。
今回の舛添騒ぎですが、政治資金規正法の公開義務規定により数々の問題点が明るみに出ました。そして世の中に怒りが巻き起こり、法によらず世論によって舛添知事は辞職を余儀なくされました。
結果として、政治資金規正法はザルであっても底の抜けたバケツではなく、わずかに存在価値はあったのでした。ならば政治家がひどく消極的で改正など望めないザルのままでもうまく利用すれば役に立つこともありそうです。
舛添知事が雇った厳しい第三者の弁護士さんは政治資金規正法にてらして「違法でもなく、不適切でもない」とか「適切とは言えないが違法ではない」などという判断をしました。
その判断が大甘で舛添批判はさらに燃え広がったのですが、あんな「舛添的第三者」ではなく、客観的な判断をする第三者組織なりシステムがあって、その判断を公開することで世論の審判を受けさせることができれば法の改正はなくとも世の中の役に立ちそうです。
【参考】<舛添辞職「炎上」の要因>舛添氏はショーンKや佐村河内と何が違うのか?
放送界にはこうしたシステムにやや似た第三者組織があります。放送倫理・番組向上機構(BPO)です。放送による人権侵害や放送による被害の指摘について、自主的に検討し報告、勧告する組織です。
放送各社はBPOの勧告にはほぼ無条件に従います。こうした組織により、放送界は放送により人権侵害や放送被害が起きないように自身を戒めるとともに、放送への権力介入を防ぎ、放送の自律性を担保しようと努めています。
このBPOの政治資金版である仮に政治資金・倫理向上機構(PEIO)なんていうのを作るのはどうでしょうか。
政治資金の使途について問題指摘があった場合、PEIOが本当の厳しい第三者の目で主体的に是非を検討し、その判断を公開、勧告します。その判断が倫理的、客観的で世論の支持を得れば、その政治家は法によらずとも世論により社会的制裁を受けることになります。
問題は資金です。BPOはNHKや民放各社が資金を拠出して運営していますが、PEIOに政党や政治家がお金を出すかどうか。本来、誇りある政治家なら政治活動の自由を守るために当然負担すべきコストとも思うのですが・・・。でも今の政治家さんたち、出さないでしょうね。
そして、そうこう言っているうちに忘れられ、「不適切であっても違法とは言えない」と政治資金は不適切に使われ続けます。虚しいことに、セコイ生け贄をひとり生んだだけで何も変わらないまま舛添騒動は終わりそうです。
 
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