<銀行ドラマの卵「事実は脚色するほどに奇なり」>利息を払ってくれるうちはつぶれそうな会社でも銀行にとっては神様だ


柴川淳一[郷土史家]

 

2009年当時の亀井静香金融担当大臣らによる「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」、いわゆるモラトリアム法案は実施から5年が経った。

この法案は返済の苦しい借入者(個人、法人)に返済期限を延長する、つまり、借金を返せなければ数年間は利払いだけで待ちますからと言うものであった。

この法律の実施の何年も前から、ことあるごとに、返済猶予の方法をとっていた金融人がいた。知り合いのN君と言う青年である。聡明で物腰穏やかで、顧客には元々人気があった。が、こういうタイプは管理者からすると扱いにくい。金融機関は国策には絶対服従である。

だが、N君が返済猶予、期限延長手法をとっていた頃はモラトリアム法案が国会を通過する何年も前である。歴代の支店長や本部行員は、口々にこう言っていた。

「Nは、仕事のできない男じゃないのになあ。なんで、あんなに潰れかけの事業者の返済条件緩和ばっかり取り組むかなあ。それだけの手間隙あれば、いくらでも、新規顧客開拓や融資量の拡大が図れるのになあ。」

「銀行の収益拡大や自分の営業成績には興味がないんだな。」

そうではない。彼にはポリシーがあった。債務不履行、そして倒産と言う自分の顧客の不幸を見るのがいやだったのである。

彼の叔父が大きな果樹園を営んでいた。羽振りの良かった叔父の口利きでN君は某地方銀行に入った。そして、N君は叔父がメイン取引をするその支店に新入行員として配属された。しかし、叔父は手形詐欺事件に巻き込まれ、不渡り手形を出した。二回目の不渡り前に、N君の勤める銀行は叔父に対して貸出金の引き上げにかかった。急激に支えを失った叔父の会社は倒産した。

叔父は自殺した。

N君の金融モラトリアムは、不幸から救えなかった叔父に対する悲しい思いと決意が込められていた。叔父のような不幸な目には、誰もあわさない。穏やかで、物静かなN君が一度だけ、部下を大声で叱責した事がある。

N「なんで、S社の返済期限延長の稟議を出さないんだ?」

部下「S社は元金支払が3ヶ月遅延です。債務不履行ですよ。延長したっていずれ潰れるよう会社に情けかけてもムダです。」

N「ドアホ!!!お前みたいな若造が偉そうに言うな!金利払ってくれてるうちは、ワシらは、乞食で、お客が神様じゃ!よう覚えとけ!!」

数年後、このS社は、急速に業績回復し、金融庁検査でも正常先となり、その支店の看板取引先となった。盆暮れの頭取による表敬訪問先序列一位だが、社長は毎回、頭取に言う。

「御行が当社を見殺しにしようとした時、わしらを救ってくれたんは、N課長やった。」

 

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柴川淳一

柴川淳一。郷土史家。1954年香川県生まれ。明治大学卒業後、地方銀行に37年間奉職。