<チェーンソーYouTuber>メディアを勘違いした「SNSバカ」たちの狂騒


藤本貴之[東洋大学 准教授・博士(学術)/メディア学者]

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宅配荷物が自分の都合通りに届かなかったことの腹いせに、2016年12月16日の早朝、ヤマト運輸の集配所にチェーンソーを持って現れ、大声で恫喝するなどして従業員を脅迫した「ヤマト運輸チェーンソー脅迫事件」。

容疑者は、自身を「YouTuberだ」と自称。その一連の様子を動画に撮影し、動画サイトYouTubeに投稿・公開した(そして逮捕された)という愚かすぎる顛末は、今の若者たちのネット感覚を(悪い意味で)象徴しているようにも見える。

犯人の男性は暴力行為等処罰法違反の疑いで逮捕されたが、罪や事の大小こそあれ、非常識な行為をする様子を本人が動画や写真で撮影し、自らSNSや動画サイトに投稿するという信じ難い流れによって表面化する「バカ行為」がメディアを賑わせる事件は最近多い。

コンビニで販売中のおでんを、素手でつつくといった不潔な暴挙を動画で撮影し、嬉々として公開していた通称「おでんツンツン男」などは記憶に新しい。「チェーンソー男」は27歳で、「おでんツンツン男」は既婚で子持ちの28歳だというから始末に負えない。

学生や生徒が身元がわかる形で過度の悪質イタズラをしたり、アルバイトの若者が仕事中の飲食店で不潔な行為や食べ物を粗末にする行為をする。顔出し・名前だしで犯罪レベルの迷惑行為を嬉々として行い、それを写真や動画に撮影して自らのSNSに公開する、といった騒動はあげればきりがない。

もちろん、そこにはPV(閲覧数)によって収益得る「SNS更新」や「動画配信」が職業化した人たちが収益目的で過激に走るという場合もあるが、それに当てはまらない場合の方がはるかに多い。

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いずれにせよ、近年、動画投稿サイトやSNSを媒介として、自らの「バカ行為」を露出させる事例ががやたらと目に入る。・・・そう書くと、「最近の若者はバカが多い」といった短絡的な見解になってしまいがちだが、必ずしもそうであるとは言い切れない。

そもそもバカ行為者の存在は方法こそ違え、今に始まったことではない。何ら益のない明らかな「バカ行為」を公然と(しかも嬉しそうに)やってのける人たちは、地域や民族を問わず、歴史的にみても人口の一定比率存在してきたからだ。

よって、「最近、バカなやつが多いね」といった指摘は必ずしも正確ではない。バカ行為者が人口に占める比率が大きく上昇したとか、若者の良識や知能が近年急激に変化したというデータもない。にもかかわらず、なぜ近年「バカ行為」がやたらと目につくようになったのだろうか?

その理由は意外と単純だ。

SNSをはじめとした手軽なネットツールが普及したことで、誰でもが容易に自分のメッセージや情報を発信できるようになったためである。もちろん、これ自体は悪いことではない。SNSやYouTubeを起因としてビジネス的な成功をしたり、あるいは世に出たり・・・といった成功事例は現代のサクセスストリーとしては十八番だろう。

しかし、そんな「効果的な利活用」が威力を発揮している事実がある一方で、SNSなどのネットツールの多くが、バカ行為者が「バカ行為」を発動させるために都合の良い、最適化されたツールになりさがっている、ということも現実だ。

情報の拡散性に優れた現在のネットツールを利用すれば、嫌が応にも様々な情報が目に入る。その中に「バカ行為」も紛れている。もちろん、「バカ行為」はその犯罪性が高ければ高いほど、おもしろおかしく注目されるだけでなく、その社会的制裁の意味も含め、急速に拡散される。「バカ行為」の絶対数に変化はなくとも、それはタチが悪いものほど、私たちの目につく確率が格段に上がってゆく仕組みなのだ。

ではなぜ、実利もないのに自分のバカ行為をリスクを負ってまでも公開しようとする、いわば「SNSバカ」や「ユーチューバカ」のような存在が生まれてしまうのか?

その背景には2つのポイントがある。

まず第一に、「SNSバカ」や「ユーチューバカ」たちが使っているツールは、小さくても「メディア」である、ということだ。その拡散性ある環境を利用して、検索すれば誰でもが目にすることのできる情報を、誰の許可や支持を得ることもなく、自分の意思で、好きな時に、一方的に発信できる。

そして第二に、SNSや個人ブログのようなものであっても、それらは「ネットメディア」であり、「メディア」という意味ではテレビや新聞といった既存メディアと同等に巨大なメディアの一部を構成している、という事実。テレビや新聞に出たり、関わることは容易ではないが、ネットメディアであれば、個人でも持つことができる、という点だけが違う。

しかし、「ネットがテレビを超える」といったようなメディア再編論やテレビ凋落論が噴出している今日、ネットメディアの「価値」はその実態以上に大きく、そして高く評価されがちである。少なくとも「SNSバカ」や「ユーチューバカ」にとってすれば、勘違いや過剰評価も含めて、「自分もメディアを持ってる/関わっている」と「勘違い」している場合は多い。

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もちろん、実際にSNSから一気に知名度を上げたタレント・GENKINGや、一般社会では無名でもインスタグラムの中だけでは圧倒的な知名度を持つ「インスタグラマー」のような存在を生み出していることも事実である。

しかしながら、その確率は「0」ではないものの、AKBの新規メンバー選考の最終審査に残ったり、「年末ジャンボ宝くじ」の3等に当たるぐらいの確率である。多くの一般人にとっては現実的な数値ではない。それでもなお、

「自分は、自分の主張を、自分の好きな時に、自分が好きな様に発信できる『メディア』を持っている。」

と思い込んでしまう勘違い状態こそ、「SNSバカ」や「ユーチューバカ」たちに共通したメンタリティであるように思う。実際に、チェーンソー男は、映像の中で、次のようにがなり立てている。

「YouTuberなめとったらあかんぞ!」

「全世界配信やぞ!わかっとんな!」

「伊賀市2位のYouTuber! 覚えとけよ!」

これが何を意味しているのか。自分はインターネット上に動画配信をしている「YouTuber(=メディア)」であり、世界に情報を配信できるツールをもった特別な存在である。そんな自分を舐めてはいけない(=他の普通の人と一緒にするな)、ということなのだ。

自己満足や自己顕示欲という言葉ではまとめきれない、支配感や万能感をも併発した強烈な「勘違い」だ。

チェーンソー男は「伊賀市2位のYouTuber」と自称しつつも、そのPVは必ずしも多くはない。今回の事件を起こして、報道され、逮捕までされて作った動画でさえも12万ビューほどだ。それ以外は、数百ビューから数千ビュー程度が多数を占める。

1再生0.03〜0.05円程度と言われるYouTubeの収益で換算すれば、こんな事件を起こしてさえも、得た利益は数千円がせいぜい。その現実を本人が知らないはずはない。それでも、この程度のPVで「全世界配信している舐めてはいけないYouTuber」を自認させてしまうのだ。

もちろん、メディアが威力を持ち、権力を持ち、暴力でもあるということは言うまでもない。しかしそれは、幾重にも重ねられた仕組みや法律、そしてその上に更に積み重ねられてきた長い蓄積の上で初めて発揮されているものだ。同じ「メディア」だからといって、今の段階では、YouTuberやインスタグラマーがテレビや新聞などと同じ様な「チカラ」を簡単に持てるわけでも、追いつけるわけでもない。

コンテンツが動画化し、コミュニケーションがSNS化する今日のネット社会。そこには、様々な問題点や課題以上に、大きく広範な可能性が広がっていることは間違いない。しかし、そこで成功を収めることの苦労や努力や確率は、従来のメディアで成功する場合のそれと、さほど違いがあるわけではないのだ。

少なくともチェーンソーを振り回したり、コンビニのおでんを素手で触ったり、毎日大食いしている動画を配信したり、借金してまでセレブのフリをするだけでは絶対に達成できない。

そんな簡単な現実にも気づかない「SNSバカ」たちが引き起こしている狂騒こそ、近年目にするSNSや動画サイトから垂れ流される「バカ行為」の数々に他ならない。そう考えれば、SNSやYouTubeは、極めて高性能な「バカ探知機」でもあるのかもしれない。

 

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藤本貴之(ふじもと・たかゆき) 東洋大学総合情報学部・准教授(情報デザイン論・メディア構造論)/北陸先端科学技術大学院大学・教育連携客員准教授/藤本情報デザイン事務所・執行役員/JAGDA正会員/最先端のメディア研究・メディア技術の知見から、アカデミズムの枠を超え、企業や自治体などを対象としたメディア設計や情報発信戦略など、数々の実践的なプロジェクトを手がけている。主な著書に『情報デザインの想像力』『脳にアイデアを思いつかせる技術(講談社)』『映像メディアのプロになる!(河出書房新社)』など、多数。