銀行は「雨の日に傘を貸さず、晴れの日に傘を貸したがる」


赤坂慎吾[ライター]

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旧知の工務店の社長に聞いた話である。

その社長は創業の頃から地元に本店を置く地方銀行と取引してきた。不況時も、金融引き締め時も、バブル期も、この地銀一行とメイン取引をしてきた。

一方、個人取引はその地方銀行支店では上得意先であった。名家に生まれた社長は大口預金顧客だった。所有資も厚く、自宅の他、別荘、賃貸マンション、駐車場なども社長名義だった。

「雨の日に傘を貸さず、晴れの日に傘を貸したがる」

・・・と揶揄される銀行にとっては誠に有難い、申し分のない顧客であった。何しろ、個人としての資産背景があり、会社の借金がその20分の1にも満たないから会社が事故を起こしても(倒産の意)、代表者の個人保証で十分カバーできる。しかも、会社の決算は一度の赤字もないと言う優良会社である。

こんな先は銀行側が「借りてくれ」とお願いするような先で、借り入れに頼る必要のない先だ。にもかかわらず、つきあい程度の借り入れがある。

ある日のことだ。そんな社長の元に、メイン銀行から、書留で完済の礼状と共に「金壱千万円也」と書かれた借り入れ証書が郵送されて来た。

【参考】<銀行のぞっとする話>ベンチャー起業家向けの「制度融資」を利用した詐欺

社長は疑いもなく「3年前の工事代金借り入れ時の金消(金銭消費貸借契約証書)だな」と呟き、完済したとの安堵感から、その金消をシュレッダーにかけた。メイン銀行の支店長が青い顔をして飛んで来たのはその翌日の事だった。社長の元に届いた金消は去年借りた車両購入代金一千万円の金消だったのだ。つまり、借りたばかりの借金の証文を債務者に返却したのだから、明らかに銀行のミスだ。

あの金消はシュレッダーにかけたと答えると支店長は、半泣きでおろおろし始め、自分の責任になると悔やむばかり。

社長はだんだん腹が立って来た。そもそも自分たちの起こしたミスなのに、解決策も立てずやって来てうろたえている。こんな銀行と取引してきたのが間違いだ。この先が思いやられる。

その後、この地銀は、社長が名前も聞いたことのないような他県の地銀と持株会社を設立した。

「いよいよ経営が傾き始めたのかな」

と思ったそうだ。そして、

「雨の日に傘を貸さず、晴れの日に傘を貸したがるような銀行なら、役に立たないから、取り引きはやめようか」

と、社長は今、考えている。

 

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メディアゴン 編集部

メディアゴン編集部(めでぃあごんへんしゅうぶ)2014年5月末日、東京生まれ。メディア批評・メディア評論に特化したメディア専門家によるメディアニュースサイト。キー局プロデューサー、ディレクター、イベントプロデューサー、放送作家、大学教授、評論家、ゲーム作家、弁護士・・・などなど、メディアの第一線で活躍する人材が活動中。