<トランプ会談>意味なし安保適用範囲で国益総献上の安倍外交 – 植草一秀


植草一秀[経済評論家]

***

安倍首相が訪米し、トランプ大統領の招きでフロリダの別荘を訪問している。夕食を共にしたが、国家元首を招いての晩餐会とは程遠い、ファミレスでの夕食に近いものだった。

トランプ大統領が当選したことに慌ててトランプ私邸に「はせ参じた」のは昨年11月のこと。文字通りの「土下座外交」になった。

トランプ大統領が就任すると、世界で何番目に首脳会談を実現できるのかを競う低次元の発想で、今回の首脳会談実現にこぎつけた。

しかし、夕食会の設営など、国賓級の扱いとはかけ離れた極めて貧相なものである。トランプ氏は日本を属国であると正確に認識しているのだと思われる。このような会談で、日米二国間協議の開始を提案するとは愚の骨頂である。

米国はTPPを日本が譲歩する「発射台」と捉えている。しかし、そのTPPは、日本が米国の要求を丸呑みしたもの、全面譲歩した代物なのだ。

何度も指摘しているが、牛肉・豚肉の輸入、乳製品の輸入で、日本はほぼ全面的に譲歩した。「聖域として守る」としてきたその他の農林水産品目についても「聖域」として守った品目は1品目もない。

「主権を損なうから合意しない」と公約した「ISD条項」も盛り込まれた。そして、日本の輸出主力品である自動車の対米輸出関税率については、乗用車は14年間、SUVを含むトラックについては29年間、関税率の引き下げがまったく行われないことを、日本政府は受け入れたのである。

この日本が二国間協議に引きずり込まれれば、さらに、米国の要求を次から次に吞み込まされることは確実である。トランプ大統領が安倍首相を呼んで、別荘に2泊もさせることなど、米国が獲得する果実に比べれば、ごみのような負担でしかない。

米国は「尖閣が安保条約適用地域」と繰り返すが、この発言に新規の価値は皆無である。米国側が用意する「土産」が皆無であるため、これをカムフラージュするために、何の価値もない「尖閣は安保条約適用地域」という空虚な言葉を繰り返しているのである。

安保条約は第5条で、日本施政下の地域を適用地域と規定している。沖縄返還の際に、米国は尖閣の「施政権」を日本に引き渡した。

だから、「尖閣が安保条約の適用範囲」というのは、大統領が発言してもしなくても、国務長官が発言してもしなくても、国防長官が発言してもしなくても、あたりまえのことで、付加価値はゼロの言葉なのだ。

日本が問題にしているのは、尖閣の領有権である。日本は尖閣の領有権は日本にあるとして中国と対立している。中国は中国で尖閣の領有権は中国にあると主張している。これが日中の対立点である。

この「尖閣領有権」について、米国のスタンスは明確である。沖縄を日本に返還し、尖閣の「施政権」を日本に引き渡した時点から、「尖閣の領有権」について米国は、「日本と中国のいずれの側にも立たない」ことを明言してきた。そして、いまなお、このスタンスを変えていない。

米国は日本に対しては、「尖閣の施政権は日本にあり、尖閣は安保条約適用地域」と繰り返す一方、中国に対しては、「尖閣の領有権問題については、日本と中国のいずれの側にも立たない」ことを繰り返し明言しているのである。

米国大統領が、「尖閣の領有権は日本にある」と発言したなら、これはビッグニュースだ。しかし、そんなことは一言も言っていない。しかも、安保条約5条の条文には、尖閣で日本が他国からの攻撃を受けた際に、米軍が出動するとは一言も書かれていない。

安保条約第5条の条文は次のものである。

第5条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。

米国の義務は、「自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動する」であって、「武力出動する」ことではない。

米国には「バンデンハーグ決議」があり、「相互主義」が採用されており、日本が米国のために軍事出動できない現状では、米国は日本のために軍事出動をしない可能性が圧倒的に高いのだ。

日本のメディアは、事実関係を正確に伝え、ニュース価値のないものを大きく取り扱うことをやめるべきだ。

植草一秀の公式ブログ『知られざる真実』はコチラ

 

  【あわせて読みたい】

The following two tabs change content below.
植草一秀(うえくさ・かずひで) 1960年、東京生まれ。経済評論家(日本経済論、金融論、経済政策論)。東京大学卒業後、野村総合研究所、大蔵省財政金融研究所研究官、京都大学経済研究所助教授、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、名古屋商科大学客員教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役社長。