<13年ぶりに復活した木村拓哉『HERO』が成功している理由>オトナの流儀も身につけず、結婚もしない13年間変わらない久利生公平


貴島誠一郎[TBSテレビ制作局担当局長/ドラマプロデューサー]

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舞台や映画はテレビよりも歴史が古く、脚本や作劇について様々の著作もある。

テレビドラマも基本は同じだが、大きく違うのは毎週放送する連続ドラマというスタイルである。また、劇場で見るか、家族もいてVTRも用意されている家庭で見るかも大きな違いだ。

連続ドラマには「シュチエーション・ドラマ」と「ストーリー・ドラマが」ある。

シュチエーション・ドラマとは、舞台が決まっており状況によって内容が変化しない。「太陽に吠えろ」などの刑事ドラマ、「金八先生」などの学園ドラマ、「救命病棟」などの医療ドラマなどである。事件や生徒、患者の毎回のエピソードは変わるが、舞台は変わらない。

シュチエーション・ドラマのひとつのジャンルとして、アメリカではシットコムとも呼ばれるシュチエーション・コメディがある。アメリカでいえば「奥さまは魔女」が典型だ。日本でいえば「てなもんや三度傘」、「寺内貫太郎一家」など。

メインの登場人物は成長しないし、いつも同じ行動で笑わせてくれる。アニメ「サザエさん」もシュチエーション・コメディである。

シュチエーション・ドラマは定点観測なので、エピソード(その回のストーリー)を料理する魅力的なキャラクターが必須条件である。主役よりも脇役に印象的なキャラクターが多い。「奥さまは魔女」でいえば、ダーリン。サマンサ家の、いつも魔法を目撃する隣のおばさん。

一方、ストーリー・ドラマは状況が変化する。登場人物の隠された面があらわにされたり、恋愛でふられて傷ついたり、レギュラー人物が死んだりする。連続ドラマが完結するとパートⅡは作られない。人物が成長するため、パートⅡがあっても同じ状況設定ではなくなり、失敗することが多い。

前置きが長くなった。

テレビ独自の連続ドラマというジャンルを、映画や舞台の技法で考えると錯誤が生じる。つまり、シュチエーション・ドラマとストーリー・ドラマは交わることがない。

成長してはならない主人公の恋愛は成就してはならない。フーテンの寅は、いつもフラレていなくてはいけないし、刑事コロンボの恐妻家は変わらない。恋愛で結ばれたり死別したり、コロンボは浮気はしても離婚しはならない。ストーリーを進展させることによって主人公が変化するのがストーリー・ドラマであるからだ。

シュチエーション・ドラマとストーリー・ドラマの合体を意図した連続ドラマを制作したことはあったが、ことごとく失敗した。視聴率を取ったドラマもあったが、パートⅡが作れなかった。魅力的なキャラクターが作れたとしても、成長したりステージが変わったりするのは、それはストーリー・ドラマだからである。わずかな成功例は、コメディの達人・三谷幸喜の「王様のレストラン」だが、パートⅡは制作されなかった。

13年ぶりに復活した木村拓哉の「HERO」が成功しているのは、久利生公平というキャラクターが13年間変わってないからである。結婚してもいけないし、オトナの流儀を身につけてもいけない。そこを批判している評論家や記者は、テレビドラマについて語ってはならない。

ただ、テレビドラマの制作者には失敗する権利はあると思う。(貴島誠一郎[TBSテレビ制作局担当局長/ドラマプロデューサー]

 

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貴島誠一郎

貴島誠一郎(きじま・せいいちろう ) TBSテレビ制作局担当局長、ドラマプロデューサー 山一證券を経てTBSに入社、現職。1957年、鹿児島県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。貴島がプロデュースしたテレビドラマは、山口智子、常盤貴子、松嶋菜々子、矢田亜希子ら、多くの女優の出世作となっている。『ずっとあなたが好きだった』(1992年)『ダブル・キッチン』(1993年)、『スウィート・ホーム』(1994年)、『愛していると言ってくれ』(1995年)『官僚たちの夏』(2009年)、『LEADERS リーダーズ』(2014年)など多数。