映画『日本以外全部沈没』のススメ

映画・舞台・音楽

メディアゴン編集部

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パロデイの要諦は「元を知らない人でも笑える」ということだ。さらに「元を知っている人ならもっと笑える」ということでもある。その点において映画(ないしはドラマ)『日本以外全部沈没』においてはパロデイなのは、基本的にタイトルだけであるから、これほど適したものはない。小説や映画、ドラマを知らない人でもタイトルだけは知っているだろう。

筆者は、『アフリカの爆弾』を読んで以来、熱狂的な筒井康隆ファンであるが、1973年(昭和48年)5月に小松左京が小説『日本沈没』を発表してあっという間の1973年9月、筒井康隆さんが『オール讀物』に短編小説『日本以外全部沈没』を発表したときはウギャーと叫んで卒倒仕掛けた。速い。面白い。笑える。

「それに負けてはいられない」と当時のクリエーターの多くが思ったに違いない。第5回(1974年度)星雲賞短篇賞受賞作品が同作で、長編賞が「『日本沈没』というのはシャレている。小説も元気で、テレビも元気だった時代だ。

今回のテレビ化(TBS)以前にも『日本沈没』は、何回も映像化された。『日本以外全部沈没』も、河崎実監督により、2006年に映画化されているが、残念ながら内容は筒井作からのイマジネーションを上回るものではなかった。映画は斜陽で、金をかけられない、外国人俳優のキャスティングができないなど、同情すべき点がたくさんある。

しかし今、環境は変わった。ネット配信がある。出演者は本物でやりたいのは山々だが、そうはいかないので、似ている演技のできる外国人俳優を大量にオーディションでキャスティングせねばならない。その金も出してくれるに違いない。何しろ、地球上で唯一地上に顔を出している日本列島めがけて、世界の富豪、セレブな婦人、有名映画俳優、著名歌手、あの大統領もこの大統領も、王様も、女王様も、あの宗教指導者もにっくき独裁者も日本に大挙してやって来るのだ。しかも命からがら。

その時、日本にどんな騒動が巻き起こるか。見せどころはそこだ。筒井さんが『日本以外全部沈没』を書いたときとは、世界の情勢はガラリと変わっている。新たな設定と、新たなギャグが必要になる。

どんな人がやってくれば楽しいか。筒井作の冒頭はシナトラが冴えないクラブで東海林太郎ナンバーを歌うというギャグ。もうわからない人も多いだろう。さて今回はどうするか。

[参考]ドラマ『日本沈没』と『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』に感じる「没入感」の差

BTSが『世界に一つだけの花』を歌うのはどうか。

プーサン大統領は小樽にできたカジノで北方領土と北海道をかけて勝負しろと叫ぶ。金正恩総書記はSLBM型のバナナボートに祖父を乗せた木造船で米子沖に松茸をもって現れた。ローマ法王は長崎に行くかと思われたが。羊皮紙の古書を抱えて青森の戸来村に直行。その頃新しくなったばかりの半島の大統領は新大久保に巨大なシネコンを建設、日本人観客で大入り。

ハナフダ元大統領は在日米国人だけで選挙をやり直せと大演説。ライアン・ウッズは千葉のカントリークラブでキャディに。ロナウドの大木と名を変えたサッカー選手はJ3選手になって15得点。

レース・ペイジ、セルゲイ・プリン、ビル・ゲイシ、マーク・ラグビーバーグ、イーロン・カメン、孫不正、ジェフ・ヘソス、ローレン・パフェーの10人は、全員で、わらしべ長者ゲーム。

ミック・タイガーとポール・マックロトニーは二代目ぴんから兄弟を襲名。アップルボーイズはご長寿早押しクイズに出演。スティービー・サンダーは辻井伸来さんと共演で大喝采。習遠平主席は、一帯一路を一進一退と言い間違えて発言、SNSでバズる。

エリザベス女王は淡路島をタックスヘイブンにと叫ぶ・・・などなど。

もっと危ないギャグになりそうなのでこのへんで。後は人生の隠喩たる全体の物語だ。

 

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