<簡単だけど難あり?>話題のNFTアートを出品してみた

社会・メディア

藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]

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暗号通貨を利用したNFTアートが話題だ。

NFTアートとはNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)と、デジタルアート作品を組みあわせることで、デジタルコンテンツの改ざんや防止する仕組みである。いわばデジタルコンテンツに電子署名を施すことで、これまでデジタルコンテンツが苦手としていた「唯一性」を担保しよう、というものだ。

言葉だけを見るとなんだかよくわからないが、簡単に言ってしまえば、従来、コピーが容易でオリジナリティの確保と証明が困難だったデジタルコンテンツに、暗号通貨で利用する技術を組み込むことで、デジタルコンテンツに唯一性という「価値」を持たせることができる。

アメリカでは「Test」と手書きしただけの落書き?画像が、27万ドル(約2970万円)で落札されたり、8歳の子供が夏休みの自由研究で制作した作品が240万円で購入されたりと、とにかく最近のNFT市場はやたらと景気の良い話が多い。

これまでのアート作品の売買のように、アートディーラーやギャラリーを介する必要もなく、誰でもが自由に、いつでも出品でき、しかも、それが破格の値段をつけることもありうるのだから、アーティストならずとも興味を持つだろう。しかも「ほとんど落書き」のようなものさえ高額で売買されるといった話も多い。もちろん、現在の使われ方は、デジタルアートへの正当な価値の付与というよりは、投機性、ギャンブル性の方が高いのだろう。

そこで、デザイナーでもある筆者が、実際に自身の作品を出品してみたので、簡単にレポートしたい。

暗号通貨による売買が前提であるので、まずは、暗号通過の売買環境を整える必要がある。暗号通貨の口座開設や使い方などを紹介したサイトやYoutube動画は多いので、そちらを参考にしてほしい。コインチェックなどの大手以外にも、様々なサービスがあるが、どれも簡単に開設可能である。専門的に考えると細かい良し悪しはあるとは思うが、初心者的にはどれも大差はないだろう。

筆者はコインチェックを使い、「ややめんどくさい」と言われる法人での口座開設をしたが、それでも10分とかからずに完了した。銀行の通帳の写真や法人の登記証明書など、いくつかの証明書画像が必要になるが、政府の持続化給付金などを申請した際に用意していたものの流用だけで、そのまま完了できた。

個人情報(法人情報)の入力が完了すると「審査中」となるわけだが、深夜に作業を行ったが、翌日の朝には完了の通知が来ていた。しかし、それですぐに取引ができるわけではないことに注意だ。入力した住所が虚偽ではない、ということを証明するためだろう、入力した住所宛に書留郵便でハガキが届く。それを受け取らなければ取引は開始できない。2日ほど経ってハガキが届き、受け取ってから半日ほど立った段階で「受け取り確認完了」のようなメールが届き、取引作業ができるようになった。つまり、口座開設をしてから取引開始までは3、4日を要する、ということだ。

次にその口座に、暗号通過を購入するための日本円を入金する。コンビニ入金、銀行入金などいくつか方法があるが、銀行から指定口座に入金する方法が、アカウントへの反映も早く、手数料も安いので良いだろう。筆者はとりあえず3万円ほど入金した。

さて、口座を開設した取引サイトに入金した金額が反映されたことを確認したら取引開始である。NFTアートではイーサリアムという暗号通貨を利用するので、3万円でイーサリアムを購入する。購入した瞬間から、秒単位で相場が変動し、数百円程度は目まぐるしく変動する。3万円だから良いものの、これが数百万、数千万という額であれば、何十万円、何百万円という金額が秒単位で変動するのだから、なんとも恐ろしい相場である。

[参考]『パクリの技法』ジブリに許されて女子高生社長に許されないパクリの違い

NFTアートの売買には、大手サイト「opensea」を利用する。「opensea」で取引をするためには、ウォレット(バーチャル財布のようなもの)を用意して先ほど購入した3万円分のイーサリアムを移す必要がある。筆者は一番メジャーなMETAMASKというウォレットをダウンロードして利用した。この辺り、詳しい紹介サイトや動画がいくらでもあるので、わからない人はご参照を。

ここまで来ると、意外な盲点に気づく人は多いはずだ。暗号通貨は、交換したり、移動したりするたびに、こまごまと手数料が取られる。先ほど購入したはずの3万円分のイーサリアムであるが、相場が変動したり、ウォレットに送金しり・・・と細々としたやりとりをした結果、大きな取引をしたわけでもないのに、3万円を大きく割り込む金額にまで目減りしていた。

さて、今回筆者が出品するのは画像作品である。NFTは基本的に海外市場、英語文化圏市場であると思われるので、原則として海外を意識した作品にした方が良いだろう。「opensea」のトップページにある「Explore」というボタンを押すと、現在出品されている作品を閲覧することができるので、参考にしてほしい。

すでに出品されている画像作品を見ると、アニメキャラクターのようなものや、ゲームキャラクターのようなものが多い。ようはポップアートやグラフィックデザインが多く、写実的な絵画やファインアートの類はほとんどないという印象だ。あくまでも偏見だが、なんとなく「チープなポップアート」のような路線が主流であるように感じる。ニューヨークの路上に描かれたグラフティのようなノリなのだろうか。

筆者は、本稿のアイキャッチ画像にあるファミコンのキャラクターのような「ドット絵」によるデザイン作品を作成した。テーマは「キリスト」である。欧米ではキリスト教をモチーフとしたポップアートは多く、美術館やギャラリーで目にすることも多い。それを意識して「イエス・キリスト」をモチーフにしつつ、「いかにもジャパニーズなドット絵」を制作した。この発想が正しいか間違っているのかは定かではないが、とりあえずこの路線で5作品を用意して、出品してみたいと思う。

「opensea」で自分のアカウントを作成し(ヤフオクやメリカリの操作程度の手間)、必要に応じて自分(自社)のプロフィールや紹介文、画像などを入力する。そのアカウント内に自分の作品をアップロードする、という方法で作品を出品(販売)する。ブログやSNSを利用している人であれば、容易に出品できるはずだ。ただし、市場そのものは英語圏だと思うので、全ての文章は英語で書いた方が無難だろう。よって、筆者も全ての情報を英語で執筆した。

作品をアップロードし、説明文などを書き加えたら、次はいよいよ金額の設定である。作品の売り出し方は、金額を指定して販売する方法とオークションによる販売の二種類があるが、とりあえず素人である筆者は、金額を指定して販売する方法にする。

筆者は自作の5作品に対して、0.3イーサリアム(約13万円)を2点、0.1イーサリアム(約4万4000円)を1点、0.01イーサリアム(約4500円)を2点という価格をつけた。この価格付けには特に意味や理由や根拠はない。既存販売作品を見ると、1ドル以下の0.000・・・といった価格になっているものも少なくない一方で、天文学的な価格で売り出されているものなど様々だ。既存のアート市場と同様、他の作品の価格は、値段付けにはまったく参考にならないので、あくまでも出品者の「思い入れ」で良いのだろう。

NFTアートの魅力の一つは「一度販売した作品が転売されると売り出した人にもパーセンテージが支払われる」ということだ。販売した作品は「売り切り」でなく、転売される度に利益を生むのだ。これはすごい仕組みである。このパーセンテージも最大10%で自分で自由に設定できる。筆者はとりあえずデフォルトの10%で設定した。

登録作業が完了し、「Sell(売る)」のボタンを押せば出品完了である。最初は少し戸惑うかもしれないが、慣れれば全ての行程は、1分とかからずに完了するはずだ。

しかし・・・ここで意外な落とし穴がある。

NFTアートの出品にお金はかからない(購入には手数料がかかる)と言われるが、最初の一回目だけ、初期化のために「ガス代」と呼ばれる手数料が必要となる(2回目以降は無料になる)。このガス代は、相場や状況と連動しており、秒単位で変動している。しかも、その振幅が異常に大きい。

ある瞬間に2万円ぐらいになったかと思えば、すぐに数万円になり、すると次は1万5000円になる・・など、常人には理解できない乱高下を展開している。筆者が出品を準備していた数日間では、安くて1万5000円ぐらい、高い時で数万円ぐらいであった。この金額を見て出品を取りやめる人、諦める人、参入意欲がくじかれる人は多いだろう。

筆者はそもそも、用意したイーサリアムが3万円にも満たない。手元に残った2万円ほどのイーサリアムで払えるガス代にならなければ出品さえできない。さすがに出品の初期手数料であまり高額な投資はしたくないので、払える価格になるまで様子を見る。しかし、とにかく乱高下が激しく、タイミングと適正価格はまったくわからない。なにか参考になる指針のようなものはないのだろうか?

頻繁に出品ガス代をチェックし、これまで見た中で一番安いと感じた金額1万6000円のガス代の時に、販売確認のボタンをクリックした。どのような処理かは不明だが、いろいろと読み込み作業が進み、出品を完了させているようで、少し安心する。ただ、数日間で一番安いと思しき金額で1万6000円。これはあまりに高い。当初入金した3万円は見る影もなく「残金ウン千円以下」にまで目減りしていた。

このガス代なる手数料は初期化以外でも、案外こまめに登場するので注意だ。まず、購入する場合は必ずかかるのだが、意外と高い。2、3千円の作品購入に2、3千円のガス代がかかるといった、本末転倒な現象さえある。つまり、売りに出す作品の価格設定は安ければ良い、というわけでもないことがわかる。どんなに安い価格で出品しても、ある程度のガス代がかかる。よって、「作品よりも高いガス代」のような状態は買う側からして見れば割高感がある。やはり、相応のガス代を支払っても良いぐらいの価格帯と、作品クオリティは必要なのだ。

また、一度出品した作品を取り下げる(削除する)場合もガス代が必要だ。筆者は最初、間違えた作品をアップロードしてしまったために削除処理をしたが、その際にわずかにのこったイーサリアムすら取り下げのガス代で消えてしまった。

YoutubeやTikTokなどの動画サイトではNFTアートの魅力として、高い収益性と取引の手軽さを強調した動画が多く公開されている。それらは「誰でも無料で出品できて、子供も落書きが高額で落札された」といったことばかりが取り上げられている。しかし、それは嘘ではないが、事実とは言い難い。

安心して出品するためには、数万円ぐらいの現金を準備し、暗号通貨にしておく必要はある。出品を完了した人間として言わせてもらえば、この金額ははっきり言って安くない。また、誰でも気軽に出品できるのは事実だが、簡単に売れるようなものにも思えない。「opensea」の作品ページには、その作品が何人に閲覧されたかという「View」という項目があるが、多くの作品が「1」となっている。つまり、作者本人以外、だれもアクセスしていない、というわけだ。

さて、筆者も無事、出品を完了させた。どうか入札されますようにと祈りつつ、本稿をしめたい。

 

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