<萩野公介とナショナリズム>アジア大会水泳200m自由型金メダルは何を感じさせてくれたか?


水留章[(株)ドリマックス・テレビジョン 代表取締役社長]

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9月22日、アジア大会で 萩野公介はとても素晴らしい追い込みで金メダルを取った、と謂うより「獲った」。ライバルは中国・韓国の北京・ロンドン両五輪それぞれの自由型の金メダリストだ。本人もコーチも周囲も、良いレースこそ期待したが、勝つまではなかなか難しいと思っていたそうだ。

レースは150mのターン、そして175mの通過までは、両雄の一騎討ちの体だった。ターンでは1秒遅れをとっていた。解説の北島康介も金メダルは無いと思っていたようだ。それが、残り25mの追い込みの凄さは、素人が見ると何がおきているか分からないくらいだ。

オマケにテレビはカットを変えるので、ゴール前で中国の…と萩野の大接戦と気がつくと、もうタッチの争いだった。4コースが僅かに早いように思えた。5/100秒差だ。萩野が勝った。(註:最後の50mは26秒とTVの解説者が言っていた)

鳥肌がたつ前に吃驚した。彼の笑顔見て、優勝が初めて実感できた。「すごい」しかも日本新記録、つまり自己新だ。中国の孫楊は萩野を讃え、少し遅れた韓国のパク・テファンは、何が起きたか良く分からなく呆然の体にも見えた。

テニス全米オープンの錦織圭が闘ったベスト8の試合を思い出した。最近の若者の一部は、昔の日本人選手のあまりにナイーブな面を乗り越えていると感じた。それはスポーツだけでなく感じていた。「自分」がある。錦織圭は勝ち進んで行く中で、日本の夕刊の一面で自分の名前が大きな文字で踊っていることを、露ほども考えていない。

萩野も歓喜は一瞬で、表彰台では次の100m背泳ぎのことを考えている。日の丸も君が代も余計とは思わないだろうが、金メダルを掛けながらストレッチしていた。

そんな彼らを、少しでもナショナリズムからの気持ちで応援したことを羞じた。今朝の日経朝刊で、ブレット・ラーナー氏(コーチ兼市民ランナー)が書いている。

(世界に伍してとか)世界の壁、世界に離されたという考えは日本人独自の思いだ。普通は世界に負けたくないではなく、あの選手に負けたくないというものだ。

荻野はインタビューで語っている。

「両雄にはまだ及ばないと思っている。が、今日勝てたことはとても嬉しい」

と、自分と水泳を一番に考えている。

このレースが水泳種目最初の決勝で日本チームに勢いをつけたこと、金メダル何個の立役者だから、その感想をと帰国後インタビューされても、彼は適当な言葉を見つけにくいと思う。

(メディアゴン主筆・高橋:註)「ガンバレ日本」状態にになるとどんなマイナー競技でも視聴率が跳ね上がる。それに僕は危惧を抱く。「ガンバレ日本」でなくても、スポーツの大会は概して視聴率が良い。そこには嘘が少ない(ほかのテレビ番組に比べて)からだと思うが、だとすると僕はテレビのあり方自体を危惧する。嘘のスポーツは最悪である。相撲とか、いくつかすぐに思いつく。

 

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水留章

水留章(みずとめ・あきら)1954年神奈川県出身。大学時代に野沢協氏の薫陶を受け、偉大な知性の存在に圧倒される。TBS入社後、制作で居作昌果氏に指導受け、仕事の肝要を教わる。その後編成、営業、人事、スポーツを経験、現在 (株)ドリマックス・テレビジョン代表。趣味…クロール、宝物…Gibson J45