<想定外の機能?に注意>Facebookの機能で懲戒解雇の危険性


尾藤克之[経営コンサルタント]

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先日、ブラック企業大賞が発表されました。ブラック企業の存在を世間に知らしめた点では非常に意義があったと思います。しかし、昨今の過剰ともいえるブラック企業批判の流れには若干の違和感を感じています。

そこには、多くの労働者が働いていて、生活の糧としていることを忘れてはいけません。必要以上の企業叩きは、経営をひっ迫させ疑心暗鬼を引き起こします。むしろ、ブラック企業のなかでも、犯罪に近い企業を批判すべきでしょう。

私は、労働問題のなかでもとりわけ、悪質な事案について情報を収集していますが、今回は、Facebookの機能を利用した悪質な事例を紹介したいと思います。

●あまり知られていない、Facebookの機能とは?

A社は主にイベント等を手掛けている会社です。社員数は20名程度ですが顧客の多くは大手企業であり、仕事のクオリティは評価されています。ところが、リーマンショック以降の経営状況は芳しくなく、人員削減を含めたリストラが急務でした。

井上氏(匿名)は、A社の営業部所属の社員でマネジャーの職位にありました。ある日、人事担当役員に呼び出された井上氏は、日報が虚偽である指摘を受けました。その時のやり取りを整理すると次のようになります。

役員「君の日報はデタラメで全てが虚偽報告だ。よって懲戒の対象になる。」

井上「日報の虚偽報告などありません。」

役員「君は、Facebookを利用しているね。Facebookを見れば、君の仕事がいい加減でデタラメであることは明白なんだよ。本来あれば、懲戒解雇に匹敵するが、自らの罪を正直に認めるなら依願退職扱いとしよう。」

井上「何のことか意味がわかりません。」

役員「いまから証拠を見せよう。」

その後、管理部門の社員数名が部屋に入ってきて、数時間に渡って詰問をされて、強引に退職届を書かされました。その後、退職届を撤回したところ、横領と業務命令違反により懲戒解雇となり、現在、法廷で争っています。

まず、Facebookを利用するには、会員になることが前提です。これはFacebookの規約にも記載されています。いまから、MediaGong用に投稿した2枚の写真をお見せします。

[上写真(2014年10月22日0時00分に投稿)]

[下写真(写真1をログアウトした状態で強制的に読み込んだもの)]

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「上写真」は、2014年10月22日0時00分に投稿したものです。私は、Facebookの会員ですから、「上写真」のように表示されます。ところが、会員がログアウトした状態で同じページを強制的に読み込むと「下写真」のように表示されます。

2014年10月22日0時00分に投稿したものが、2014年10月21日8時00分と表示されます。つまり、ログアウトして強制的に読み込んだページは投稿時間が変わってしまうのです。これがFacebookの機能なのかバグなのかは定かではありません。

さて、先ほどの井上氏の場合は、次のように詰問をされました。

役員「君の日報では、〇月×日は23時過ぎまで幕張で仕事をしていたことになっている。そして会社は残業代を支払っている。Facebookでは、〇月×日は夕方から横浜で友人と飲み会を開いたことになっている。これが証拠だ!場所や投稿時間も履歴に残っているじゃないか!!」

井上「私は潔白です。これはなにかの間違いです。」

役員「まだシラを切るのか。いま眼の前でパソコンを使って証拠を見せよう。言い逃れはできないだろう。

井上「こんなはずはありません。」

役員「君は、みんなが頑張って働いている時に、飲み会をしているんだよ。恥ずかしいと思わないのか!日報とFacebookの記事と照らし合わせたところ、この半年で10回もこのような虚偽報告があったんだよ。これが証拠だ見たまえ。」

井上「こんなはずはありません。」

役員「業務命令違反のほか、残業代の不正受給、交通費の不正受給。君のやったことは横領なんだよ。横領は刑事罰だ。いまから警察を呼ばれたいのか!」

井上「・・・」

役員「私は、すぐに警察に突き出すように進言したのだが、社長が、君が会社のために頑張っていた頃の話しをされてね。会社から罪人を出したくない。穏便に対応してくれとのことだ。いま罪を認めるなら温情により依願退職扱いとしよう。」

井上「・・・」

役員「懲戒解雇になったら再就職は不可能だ。聞けば、君には家のローンもあり、子供も幼いそうじゃないか。家族のためにも社長の温情を受けたほうがいい。」

井上「・・・」

役員「依願退職に応じるなら退職金を払うように社長から指示をされているよ。懲戒をされたら全てを失うが認めるなら退職金まで払うと言っているんだよ。どちらを選ぶかもう答えが出ているじゃないか?ん。」

かなり割愛して書いていますが、このような詰問が数時間に渡りおこなわれました。当時のことを井上氏は次のように述べています。

「詰問は冷静な判断を妨げるのに充分すぎる効果があったように思います。家族を守るためには、身に覚えのない罪であっても、この場で認めて退職金をもらったほうが良いのではないかと思いました。私は辞めさせたい対象ですから、いま辞めた方が得ではないかと思い、気がついたら催眠術にかかったように全ての罪を認めて退職届にサインをしていました。」

●すべてを奪う悪質な懲戒解雇という技法

役員を含む数名に数時間も、詰問をされて、眼の前のパソコンで同じ画面を出されたら、大抵の人は動揺するでしょう。井上氏もおかしいと思いながらも役員相手には反論もできず言われるがままになってしまったそうです。その後、再就職が困難になり無収入になったことから、マンションを売却し、子供を母方が引きとり離婚が成立しています。

一般の労働者が懲戒解雇を受けると再就職は困難になります。離職票に履歴が残ることや、履歴書記入の際にも「賞罰有り」と書く必要があるためです。懲戒解雇とは、労働者にとっての死刑宣告を意味します。

後の人生にも影響が出ることが充分に予想される処分であり、会社に損害を与えたことが明白で無い限り無効になることが多いので、行使をしないことが一般的ですが、このような悪質な行為は後をたちません。

なお、労働問題について悩まれている方は、専門家に依頼したほうが良いでしょう。弁護士は得意分野が分かれますので、労働問題に詳しい専門家を探すことをお勧めします。労働問題を解決する方法として労働審判制度を例にとれば、調停成立率は7割を超えています。

私自身は、ジャーナリストの立場で、多くの人に対して、注意喚起を促すためにも悪質な事例や情報を可能な限り公表していきたいと考えています。また、本事案は多くのビジネスパーソン、企業関係者も知っておくべき内容であると考えます。

[参考]旬報法律事務所のHPには労働審判制度について詳しく説明がされていますので参照ください(http://junpo.org/new/page/page1.php)

 

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尾藤克之(びとう・かつゆき)経営コンサルタント。東京都出身。衆議院議員秘書、大手コンサルティングファーム、IT系上場企業等の複数の事業会社の役員を経て現職。障がい者と健常者の共同生活によりボランティアスピリットを培うための社会貢献事業(アスカ王国)をライフワークとしている。埼玉大学大学院博士課程前期修了(経営学修士、経済学修士)