<STAP細胞問題と旧石器ねつ造事件>古い地層からLEGOブロックが出てきても「なるほど」と言えた?


水留章[(株)ドリマックス・テレビジョン 代表取締役社長]

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新聞に『STAP細胞「存在せず」濃厚』の見出しが出た。これを見て、すぐに14年前の「旧石器ねつ造事件」の毎日新聞のスクープを思い出しました。

生物学の常識を覆して再生医療に新しい可能性を切り開いたかのように見えたり、日本の旧石器時代のストーリーを根本的に揺さぶり、日本人のルーツの歴史を塗り替えるように見えたり。その発見はどちらも、これまでの常識を覆す、とても衝撃的なもので、多くの日本人にプラスの感情を沸き起こす発見であったことも似ています。

もちろん「①新しい事実が新発見される ②それが世間に発表され大きな反響になる  ③しかし虚偽疑惑が持ち上がる」という点でも同じパターンです。 STAP細胞は数ヶ月と短命でしたが、ねつ造旧石器は20年以上にもわたって信じられ、教科書の記述の書き換えにまで及びました。

旧石器捏造事件を忘れている人も多いかもしれませんので、ちょっと振り返ってみます。半世紀以上前には日本列島には縄文土器時代より以前は人類は存在していないと考えられていました。ところが昭和24年に岩宿遺跡から旧石器とみられる石器がアマチュア考古学者のよって採集され、その後、学者により発掘が行われました。

これは大きな社会的ニュースになり、時間はかかりましたが日本にも旧石器時代があったという通説が認められるようになってきたのです。ただし、それはヨーロッパの歴史区分で言うと後期旧石器時代のもので3万年前くらいと推定されています。3万年でも気の遠くなるような古い話ですが、ヨーロッパでは数十万年以上昔の石器が見つかっていました。

さらに中期(諸説ありますが約3.5万年前~13万年前)、もっと古く前期旧石器時代(約13万前年前~百数十万年前) は日本列島にはなかったのか? と議論されるようになり、発掘が積極的に進みました。1980年代の座散乱木遺跡あたりから東北の旧石器発掘チームが中心となり、以後20年余に渡り驚異的なペースで、しかも新しいものから年表で整列したように古いものへと、中期そして前期の旧石器を発掘し続けました。

そして日本列島の人類の歴史を書き換え続けてきたのです。日本列島に北京原人やジャワ原人のような人類が居た事になってしまったわけです。

一部にはあまりの奇跡的な出来事や発掘された石器の形状などからこの発見を大いにいぶかしむ学者も一部にいました。しかし、日本人のルーツを探るというムードに乗せられ、実際は原人ホモエレクトスは我々新人ホモサピエンスの直接の祖先ではないのですが、マスコミもそれを煽り、結局、数十万年前まで遡る石器も出てきてしまいました。

調子にのったある学者は「上高森遺跡は百万年前の可能性」とまで言いだす始末でした。捏造遺跡があった町では町民マラソンを「原人マラソン」と改名し、さらに「原人饅頭」まで作ったことは他人事として嗤える噺ではありません。

そして、2000年。毎日新聞のスクープによって、それらの旧石器はは、一人のアマチュア考古学者が全て一人で仕込んで埋めた「ねつ造」だとわかったのです。

当然、こんなに長きに渡りとても手品にもならないような簡単な手法により、日本中の人々、特に考古学者やマスコミを騙し続けたなどとは一瞬には信じがたいことです。しかし、これは実際に起きたことです。なぜこのようなことが起こったのでしょうか。

発掘された石器の年代測定方法は、

  1. 出てきた地層の古さ
  2. 石器の形状
  3. 「炭素14」年代測定法ような科学的な分析
  4. 他の地域の遺跡・石器との比較・考証

等々を総合的に判断して行うようです。

しかし、「層位は型式に優先する」(出土した地層の年代が石器の形より年代決定において重要だ)という外国の学者の学説の一部を鵜呑みにして、これをだけを金科玉条の物差しとして使ったために「ねつ造」を見抜けなかったということのようです。

実際には縄文時代と思われる他で拾った石器を周囲が期待するところに次々と埋めては見つけて、埋めては見つけて、「神の手(ゴッドハンド)」と呼ばれた人を作ってしまったのです。

古い地層からLEGOブロックや機関車トーマスが出てきても「なるほど」と言ったかもしれません。常識ではとても信じがたいことであっても、それが社会的にもブームアップされてしまえば、一部の学者が「それはおかしい」と声をあげたとしても、周囲からは抹殺されて、「嘘が真実もどき」になってしまうという典型的な例です。

今回のSTAP細胞はすぐに疑義が提出され、その存在が否定されようとしています。そのため、影響は大きいにしてもその「被害」は最小限におさめられたと見るのが良いのでしょう。しかし、夢の細胞という「薔薇色の未来」を夢見た気持ちと喪失感は心に残るのではないでしょうか。

STAP細胞という幻想が、どんな過程で作られたのかはとても興味がありますし、そこには初歩的なミス、あるいは思い込みも含めた、とても「人間的な盲信」あったのではないでしょうか。

個人を中傷する意味ではない視点で、今後、そのミスの過程を知ることは、STAP細胞を見つけることと同じくらいの価値はあるかもしれません。

 

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水留章

水留章(みずとめ・あきら)1954年神奈川県出身。大学時代に野沢協氏の薫陶を受け、偉大な知性の存在に圧倒される。TBS入社後、制作で居作昌果氏に指導受け、仕事の肝要を教わる。その後編成、営業、人事、スポーツを経験、現在 (株)ドリマックス・テレビジョン代表。趣味…クロール、宝物…Gibson J45