<お水と課長と工場のオヤジ>やしきたかじん人気を支えたファン層を考える


柴川淳一[郷土史家]

***

歌手のやしきたかじんさんが逝ってから、少し時間が過ぎた。しかしながら、読売テレビの『そこまで言って委員会』は、未だに『たかじんの』という言葉をタイトルから外さない。番組そのものが、やしきたかじんのファンだったのだろう。それは視聴者として大変好ましく思う。

やしきたかじんは、サラリーマンにも人気があった。「サラリーマンにも」と言うのは、一番人気は、女性、それもたかじんの歌の歌詞に出てくるような人生経験の豊富な化粧姿の美しい自由業の女性達、すなわち「お水の女性たち」である。

それに次ぐのが、「普通のサラリーマンたち」である。上司に反発したいのにできない中堅どころのサラリーマン。中間管理職というしがらみでよれよれの中高年サラリーマン。部長だ、執行役員だと持ち上げられ、その実、経営者のイエスマンでストレスに苛まれているサラリーマン。要は「サラリーマンのおっさんたち」にも人気があった。

三番目は、「社長」とは名ばかりで月々の資金繰りに汲々としている「中小零細企業の経営者のおっちゃんたち」だった。まだ、たかじんがコンサートを精力的に行っていたころ、会場で見かけたのは、花束を抱えた美しい女性。スーツ姿のサラリーマン。中年夫婦と見受けられるカップル(?)、であった。つまり、やしきたかじんのファン層というのは、「がんばる大人の日本人」そのものであったように思う。

だからこそ、ファンは皆、やしきたかじんの言いたい放題と時折見せる優しさが好きだった。こんなエピソードがある。

高校の同級生だった堀内孝雄と再会した時、たかじんは堀内に説教をした。

「堀内!フラフラしとらんで、まともな仕事に就けや。」

堀内さんは素直に応えたそうだ。

「そうやな。お前の言う通りや。」

その時、堀内さんは『アリス』のメンバーで、これからまさにスターになろうとしていた頃だった。たかじんは流しをしたりアルバイトをしたりしていた下積時代だった。友達思いの優しいやしきたかじん。素直で偉そうにしない堀内孝雄。なんとも面白い関係である。

関西人はやしきたかじんが大好きだ。今でも、どこかて飲んだくれて、ひょっこりテレビに復帰するような気がしてならない。それは、彼の番組にとっても、コンサートの客にとっても、ミナミのクラブで働く女性にとっても、そして何より私たち視聴者にとっても同じ思いなのである。

 

【あわせて読みたい】

The following two tabs change content below.

柴川淳一

柴川淳一。郷土史家。1954年香川県生まれ。明治大学卒業後、地方銀行に37年間奉職。