<本当は何も変わらない>「エンタメ」は業界の「いかがわしさ」を消臭するための造語?


水留章[(株)ドリマックス・テレビジョン 代表取締役社長]

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「エンターテイメント」という言葉をいつから使っているんだろう? と考えてみました。そんなに昔のことではないと思います。自分がエンターテインメントの世界にいるのは間違いないでしょうし、最近では「エンタメ業界」なんて言葉で呼ばれています。

最初にこの言葉を聞いたのは、おそらく1970年代。トム・ジョーンズやエンゲルベント・フンパーテイングなどの当時の「大人の歌手」のことを「エンターテイナー」と呼んでいたように思います。歌が上手いだけではなく、文字通り「ショウ」として歌で人を楽しませることのできる歌手がそう呼ばれていた気がします。

1980年代になっても、映画もテレビも、またエンターテイメイントとは呼ばれていなかったはずです。当時はテレビゲームとされる娯楽も「ファミコン」くらいしかありませんでしたが、同様にまだ「エンターテインメント」とは呼ばれていませんでした。

MGM50周年記念のミュージカル映画「ザッツ・エンタテインメント(1974)」を見てしまっては、おこがましくて自分たちをエンタメとは言えなかったはずです。

ミュージカルの舞台や映画、ラスベガスのショウこそが「エンターテインメント」だった気がします。「ショウビジネス」という言葉もありました。まさに「entertain([人を]楽しませる)」ことです。

ただし、私たちが現在使っている「エンタメ」は、この系譜から来たものではないと思います。「エンターテイメント」がひろく口の端にの登るようになったのは、1990年代からではないでしょうか。それも最初は関係者から始まった気がします。

素地の一つはホイチョイプロダクションズの4コマ漫画「気まぐれコンセプト」(1981~)のヒットではないかと考えます。この漫画は広告業界を舞台にして、「業界」そして「業界用語」を、「ビッグコミックスピリッツ誌(小学館)の読者から若者へ世間へと広めました。今は垢にまみれた「プレゼン」「クライアント」「アドマン」「ケツカッチン」「ドタキャン」などという業界でしかわからなかったフレーズに市民権を得させました。

特に英語系の業界用語は最初はとても新鮮に感じて、新しいことを表現していると勘違いできる良さがあります。最近でも「スキーム」「シームレス」「マーケティング」・・・・・プレゼンは提案であり、クライアントはお得意さんで、アドマンは広告会社社員で以前と何も変わらなかったのに。

この風潮に乗って「エンターテインメント」が出てきたように思います。ようは、既存の日本語の言い換えだったのではないでしょうか。芸能界は興行界の匂いがまだ少しはしていた時代です。歌謡界も映画界もテレビ界も、勃興してきたゲーム業界の人たちも「エンターテイメント業界」と呼ぶことで、自分たちが持つ「いかがわしさ」が消臭される気がしたんではないでしょうか。

実際、当時の筆者も「エンターテインメント」という言葉にスマートさを十分感じましたし、会社やその制作部門を「○×エンターテインメント」と名付けするのも、この頃から流行りだしました。

そして完全に市民権を得るきっかけは「日経エンタテイメント」(1997~)の創刊だと思います。あの日本や世界の経済情勢を大所高所から報じる日経新聞が「業界」を認めてくれたんだという感じだったのではないでしょうか。

実際ある芸能プロダクションのマネージャーが、ビジネスマンがNIKKEIを読むように、「日経エンタ」の定期購読を始めて、会話の話題がいつも雑誌の特集絡みだったことはとても印象的でした。

今ではエンターテイメントといえば広い意味で使われます。メディア系でいえば、テレビ・ラジオ・アニメ・ゲーム。実演系でいえば、落語・舞台・コンサート・映画・お笑い、などなど。それはちょうど「日経エンタテイメント」がカヴァーするジャンルと一致します。それは言い換えれば「流行」と「人気」というキーワードで説明できる感じです。

しかし、お茶の間にエンターテイメントという言葉を定着させたのは何と言っても「エンタの神様」(NTV 2003年から現在不定期)でしょう。これは「言い換え」の成功例だと言えます。「漫才」が「THE MANZAI」になったように「演芸」を「エンタ」と読み替えて、漫才とコント以外にも波田陽区のギター侍、パペットマペットの人形、だいたひかるの呟きなど従来分類不可能芸を電波に乗せた功績は大きいです。

そして「エンタ」は小学校でも通用するようになりました。

アメリカで仕事する機会があまりないので詳細はわかりませんが、英語では業界を「entertainment business」と普段から使っているのでしょうか。使っていたとしても、今の日本で使われている「エンターテイメント」は極めて和製英語的な気がします。「業界」の「臭い消し」のための呼称のような気がして仕方がありません。

就活にはその方が業界全体では良いのかもしれませんが、入ってくる人たちが、変な勘違いをしなければよ良いと思います。活動屋とまではいかなくても映画界や芸能界の方が好みですし、放送作家も「ホンヤさん」だったわけなので。実際自分の周りには「自分の仕事はエンタメです」という人はホトンドいません。

There’s No Business Like Show Business.(ショウほど素敵な商売はない)

 

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水留章

水留章(みずとめ・あきら)1954年神奈川県出身。大学時代に野沢協氏の薫陶を受け、偉大な知性の存在に圧倒される。TBS入社後、制作で居作昌果氏に指導受け、仕事の肝要を教わる。その後編成、営業、人事、スポーツを経験、現在 (株)ドリマックス・テレビジョン代表。趣味…クロール、宝物…Gibson J45