<「笑い」ではなく歌が聴きたい?>クマムシ「あったかいんだからァ」に待ち構えているイバラの道


高橋維新[弁護士]

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お笑いコンビ「クマムシ」の芸は、笑いとしておもしろいからヒットしたわけではないと思う。

あれをお笑い的に分析すると、「ハゲ」と「若干デブ」というフラ(笑いの対象になるような、外見が放つ面白みや明白な特徴)を持っている強面の兄ちゃんが、アイドルのように乙女心を歌うというズレが、看取される。そこに、一応のツッコミが相方から入る。

ただ、この程度のズレは、「男が女の恰好をしている」と同レベルの非常に古典的で基本的なズレであり、誰でも思いつくし、過去に類似のコントはいくらでも作られている。そのうえ、ネタ中に提供されるズレは、ずっと、フラ持ちがアイドルのように乙女心を歌うというもの一つであるため、笑いもワンパターンになる。

あれは、お笑いとしてウケたわけではなく、単純に歌謡曲としてヒットしたのではないだろうか。もし、そうだとすれば、なぜあれが歌謡曲としてヒットしたのか? は筆者の専門分野の範疇ではないため、分からない。ただ、筆者も個人的に歌としての「あったかいんだから♪」は好きである。

歌謡曲のヒットにおいては、歌い手の声と見た目は重要なファクターになる。これにメロディと歌詞がうまいことマッチしないと、ヒットは生まれない。おっさんが乙女のように恋心を歌ってヒットした例は過去にもないわけではない(槇原敬之など)。

しかし、やはり強面のハゲに歌わせたアイドルソングを真面目に歌として売り出すというのは、常識的な感覚を持った人であれば躊躇をせざるを得ないだろう。そういう意味では、クマムシが芸人として露出ができたことはある種の幸運であったように思う。

そう考えると、逆に「あの芸」を今後もお笑いとして売り出そうとすることは、「イバラの道」が待ち構えているのではないだろうか。前述の通り、そこにあるズレはワンパターンで、早々に飽きられることは想像に難くない。この手の芸が飽きられて、視聴者からそっぽを向かれてしまうと、往々にして次に打つ手がなくなる。

だから、クマムシは、早めにシンガーソングライターの路線に変更するか、別の芸を作るか、のいずれかの道を選択すべきである。そして、筆者としては、前者の路線、すんわち「シンガーソングライターへの転向」の方がいいと思っている。誰が詞と曲を作っているのか知らないが、それこそマッキーのような感じで売り出していくのは現実的だと思う。

クマムシを見ている視聴者は、歌が聞きたいのである。相方によるツッコミは、言葉のチョイスにもセンスがないし、「ワンパターン」なズレを延々と指摘するだけなので、面白くないばかりか、むしろ邪魔である。

この点は「おもしろ荘」(日本テレビ系列「ぐるぐるナインティナイン」におけるネタ見せ企画 )でこの芸を見た有吉が早々に指摘していた。

しかしながら、彼ら自身、芸人で食べていきたいという強い思いがあるのだとしたら、「歌手をやれ」というのは、仮にそれで売れたとしても、非常に残酷なことである。ただ、表現のプロの世界においては、表現者がやりたいことと客が見たい・聴きたいものの乖離というのは常について回る問題である。

貧すれば鈍するとも言うので、歌手路線で一定の成功とお金を得てから好きなことをやる、というのも一つの手ではないだろうか。もちろん、歌手として成功することも生半可なことではないのだが。

 

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高橋維新(たかはし・いしん)弁護士、コラム二スト。1987年、東京生まれ。2006年、東京大学法学部入学。2010年より「マヒ郎」のペンネームでファミ通町内会へ「ハガキ職人」として投稿を始める。現役ハガキ職人を続けながら、2012年に司法試験合格。2013年、弁護士登録(函館弁護士会)。ファミ通町内会長(第5代)。