NHK朝の連ドラ「まれ」が出してきた「主題歌の歌詞募集」という変化球

水戸重之[弁護士/吉本興業(株)監査役/湘南ベルマーレ取締役]
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中島みゆき、絢香、ゆず、HY、SMAP、椎名林檎、平原綾香、いきものがかり、aiko、アンジェラ・アキ、竹内まりや。
さて、共通点はなんでしょう。
ご覧になっている方には言わずもがな。NHK「朝の連続テレビ小説」の主題歌を歌ったミュージシャンである。どの楽曲も当代の一流どころによる名曲。毎朝、観る者を元気にしてくれた。「あまちゃん」のマーチ曲(作曲・大友良英)も忘れられない。
今季のNHK朝の連ドラ「まれ」の主題歌「希空〜まれぞら〜」は、うってかわって合唱ソングだ。前作までの著名ミュージシャンによるインパクトのある曲と歌唱からすると、最初は少々地味な印象はぬぐえなかった。
だが、作曲はドラマやゲーム音楽を多数手がけている売れっ子の澤野弘之。平凡な曲であるはずがない。
ドラマが進むにつれて、視聴者は気付く。あれ、これ? 元気な主題歌をアレンジした、英語のスローバラードが女性の声で流れてくる。それも、演技に邪魔にならない程度の音量で、役者の陰からそっと。
4月29日、「まれ」のサウンドトラックCDがソニー・ミュージックエンタテインメントから発売された。英語曲が気になっていた筆者は、さっそく入手して聞いてみた。
このドラマのヒロイン・津村希(まれ)役の土屋太鳳(たお)は、朝ドラ前々作の「花子とアン」で、花子のけなげな妹「もも」を好演して評価を得、今回、みごとオーディションで主演の座を射止めた。その土屋が、主題歌の「希空~まれぞら~」の歌詞を書いている。タイトルも、<外からの文化を持ってきてくれる人を「まれびと」という>と聞いた土屋がつけた、という。
ドラマのオープニングでは、この主題歌に乗せて、ミューズ(女神)が着るような白い衣(ころも)を風になびかせて、能登の自然の中で華麗なダンスを披露するという多才ぶり。土屋は日本女子体育大学で舞踊を専攻しているそうだ。
その歌詞は-。

♪さあ翔(か)けだそうよ、今すぐに 未来が今は遠くても
♪風が強く冷たいほど 教えてくれる 出会うべき人のことを

なかなか、ですね。
英語バージョンを歌うのは、小林未郁(みか)。主題歌の冒頭の「さあ翔けだそうよ」にあたる部分の歌詞はこうだ。

♪Don’t say goodbye. Two birds are flying high(さよならは言わないで、2羽の鳥が高く飛んでいくわ)
♪Say goodbye to my drab and passive days right now(たいくつで流されていた日々に今すぐさよならしよう!)。

Don’t say goodbyeとSay goodbyeという、歌い出しの小林未郁の歌声が印象的だ。
さて、ドラマは、東京から夜逃げするように能登にやってきた津村家の物語。東京から地方へ、そして主人公はパティシエ(菓子職人)を目指して再び地方から東京へ。
このへんからすでに「あまちゃん」のニオイがする。「あまちゃん」では、頑固者のおばば(宮本信子)とその無骨な夫(蟹江敬三)がヒロインを支えたり、主人公の父親(尾美としのり)がダメダメながら家族愛が深かったり、母親(小泉今日子)がしっかり者だったり、主人公の親友が東京に行って芸能人になることを夢見ていたり(橋本愛)。
「まれ」をご覧になっている方は、誰が誰にあたるかはすぐに思い浮かぶだろう。こういうのをパクリなどと言ってはいけない。「正しいオマージュ」というべきだ。もしくは「NHK朝ドラ・勝利の方程式」とでも言おうか。
このドラマ、何より役者がそろっている。津村家が下宿する先の桶作元治(田中泯)・文(田中裕子)の夫婦、夢ばかり追って失敗続きの父・徹(大泉洋)、そのダメぶりに愛想をつかしているように見えるしっかり者の母・藍子(常盤貴子)、上司役の板尾創路、町のことなら何でも知っている清掃員役の根岸季衣などなど。
特に、頑固者の文(ふみ)を演じる田中裕子の演技は秀逸だ。希に息子夫婦と仲直りしろと言われて「家族、家族とうるさいわ!家族教にでもお入りですか?」と毒づいたり、押入れに隠れていたところを希に見つかって、相撲のつっぱりのような動きで出てきたり、いつからこんな技を覚えたのだろう。
そして怪優・大泉洋。徐々に本領発揮し始めてきた。
最初は、大泉洋のダメおやじぶりにイライラしていた視聴者も、気がつくと津村家と希が大好きになっている。朝ドラファンにとっては、「あまロス」ならぬ、「まれロス」が待っているかもしれない、と心配するのは気が早過ぎるだろうか。
そんなことを考えていたら、5月2日、主題歌の「希空」の二番の歌詞を一般公募することが発表された。選考は、音楽担当の澤野弘之、脚本の篠崎絵里子、そしてヒロインの土屋太鳳の3人が行うという。
改めて、主題歌の歌詞に聞き入るファンが増えるのではないか。
ドラマの「勝利の方程式」に「音楽」は不可欠だが、「歌詞募集」という変化球が持ち球に加わった。
 
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