<もはやテレビドラマのシナリオだ!>我が家にきた「オレオレ詐欺」完全レポート(その①)
藤沢隆[テレビ・プロデューサー/ディレクター]
***
キターッ! ついに来ましたわが家にも。友人たちのほとんどに来ていて、中には3回も4回もきたというのに、これまでなぜかわが家には来なかったものが。
それはある日の夜10時半ごろのことでした。昼間のセールスコール以外にめったに鳴ることもない固定電話が鳴ったのです。たまたま筆者は泊まりがけで不在でしたので、電話に出たのはうちのオクサンです。その電話はこんな会話で始まったそうです。
犯人「もしもし、オレ・・・」 (元気なく、かすれ声、もちろん名乗らない)
オクサン「ヨシヒコ?、こんな時間にどうしたの?」
犯人「風邪ひいちゃってさ、のどが痛くて、熱もあるみたいだし・・・」
オクサン「熱は計ったの? マサコさん(長男の新妻)はどうしたの?」
犯人「仕事で疲れたって、もう寝てる」
もちろんおわかりですよね、そう、オレオレ詐欺の電話です。あまりに典型的で、すぐピンと来そうなものですね。しかし、オクサンは夜遅くに固定電話が鳴った瞬間から、なにか良からぬ知らせではないかという気持ちになっています。
出てみれば案の定、大切な息子から病気という電話だったのですから心はすぐ心配で一杯になり、疑うことはなくなってしまいます。母にとって息子とはいつでも心配な存在なのです。
しかも大切な息子が熱を出しているのに、息子の世話担当を代わったはずの嫁のマサコは寝ているなんて・・・。かすかな怒りと心のどこかに悦びが・・・。息子は私を頼ってきている、ここは母である私が!・・・とオクサンは思ったに違いありません。
母性に嫁と姑の微妙な心理というスパイスまで加わって、常識的な猜疑心なら充分に持ち合わせているオクサンですが、わずか数十秒で電話の相手が息子であることをほぼ疑わなくなってしまったのでした。このへんが犯人が母親を狙い、警察がオレオレ詐欺を「母さん助けて詐欺」と命名した所以でしょう。
そして、わがオクサンはこの冒頭の数十秒間で、長男はヨシヒコで妻帯者、妻は共働きでマサコであるという情報をいとも簡単に犯人に与えてしまっていたのでした。犯人からみれば、まさに「つかみはOK、大成功!」といったところでしょう。完璧な起承転結の“起”だったのです。
さて、初動のジャブでオクサンの気持ちをつかんだ犯人はすかさず“起”から“承”へ巧妙な追い打ちをかけてきます。
犯人「あのさ、風邪じゃなくてさ・・・。ちょっと相談があるんだけど・・・」
オクサン「何? どうしたの?」
犯人「風邪もなんだけどさ、急に首の後ろに腫瘍っていうか、こぶみたいのができちゃってさ・・・。なんか気になって・・・。こういうのどうなのかなとか思って、相談っていうかさ・・・」
オクサン「えっ腫瘍? あなた大丈夫なの? 今日はお父さんも帰ってこないし・・・。困ったわね。」
時間は夜10時半、夫は不在、大切な息子は風邪どころか腫瘍・・・。心配が募るオクサンはもう疑う気持ちなどなくなっています。もちろんオクサンは自分に夫がおり、今は不在であるという情報を犯人に与えたとことにも気づきません。そしてとりあえずこう言うしかありませんでした。
オクサン「あした一番に会社にことわって、大きな病院で看てもらいなさい。それで検査の結果が出たらすぐに電話してちょうだい。わかった?必ずよ!」
まずは犯人の目論見どおりの進行でしょう。これはイケると思ったであろう犯人は重要な伏線を張ってきます。
犯人「うん、そうする。結果がわかったら電話するけど、いまスマホが故障しちゃって修理に出していて電話番号の控えがないからさ、そっちの携帯番号メモるから言ってくれる?」
こうしてオクサンは犯人に自分の携帯番号を教え、それにオクサンからは息子に電話できないという状況になりました。そしてオクサンはまたまた無意識に息子が会社勤めであるという情報も犯人に与えました。
犯人はここまでお金にからむ話はまったく出していません。この辺が巧妙なところです。ですから、オクサンにしてみれば疑うよりも、やはり息子は病気なのだ、それも腫瘍。いや「最悪の場合ガンだったらどうしよう」というような思いで、その夜は一睡も出来なかったのでした。こうして犯人はうちのオクサンの頭を息子の病気で一杯にするまで追い込み、次の展開が容易な状況を作り終えたのでした。
ストーリーは、息子が風邪をひいたという“起”から、もしかしたら腫瘍かもしれないという“承”へと深刻化しました。そして事態はさらに大きく“転”じて行くことになります。(その②につづく)
【あわせて読みたい】