<テレビ朝日「モーニングバード」東京女子医大会見>司会者やコメンテイターの「理解不足」に起因する発言の問題
藤沢隆[テレビディレクター/プロデューサー]
ワイドショーのような番組のスタッフをやっていると司会者やコメンテイターの発言にドキリとすることがあります。少なからぬケースが司会者やコメンテイターの内容に関する理解不足からおこります。
東京女子医大で2才のお子さんが手術後のICUで禁忌の麻酔薬(鎮静剤)を投与され、その影響と考えられる状況で亡くなった事件について、東京女子医大の医学部長ら3名が東京女子医大病院に対して告発会見を行いました。これを取り上げた6月6日(金)テレ朝『モーニングバード』で、もし自分が制作者なら“これ少しマズイかも”と思えるような発言がありました。
ベテランである高村レポーターの事件プレゼンを受けて、司会者である羽鳥慎一さんはこう言いました。
「手術に麻酔は必要じゃないですか。そこで(執刀医と)連携がとれていないのは、驚きをとおり越して恐怖ですね。」
この発言を受けてコメンティターの長嶋一茂さんも『手術の時は麻酔医が大事で~』と続け、自分は手術の時は必ず事前に麻酔医に会って話をする、これは絶対に必要だ、とコメントされました。しかしこの事件は手術時の麻酔が問題なのではありません。
朝日新聞の記事によれば、
「~男児の首のリンパ管腫を取り除く手術をした後、集中治療室(ICU)に移し、気道に呼吸用の管を通した状態で経過をみた。男児が動いて管が抜けるのを防ぐため鎮静剤による全身麻酔を実施。この鎮静剤はICUで人工呼吸中の小児への使用が禁じられていたが、継続的に成人の基準の約2・5倍の量を投与した疑いがあるという~」
これでわかるように、問題は手術後のICUでの鎮静剤投与にあります。手術後ICUに移された男児が動いて気道確保用の管が抜けるのを防ぐため、体を動かさないようにするための鎮静剤として、15才未満には原則的に使ってはならない麻酔薬プロポフォールを、成人の基準量の約2・5倍も使用した、ということが問題なのです。
よって、手術時の執刀医と麻酔医の連携などを問題にした羽鳥さんや長嶋一茂さんのコメントはピント外れのそしりを免れません。それよりも、禁忌薬を成人の2・5倍、他にも60例、といったファクターが重要ですし、そもそも7分程度で済むごく簡単な手術の後に、管が抜けるのを防ぐために、2才の子どもに長時間の全身麻酔をするというのが驚きなのでは。
番組を制作した経験からすると、こうしたピントはずれ発言は事前に打ち合わせの時間が充分あればある程度防ぐことが可能ですが、長時間ワイド番組でネタの隅々まで打ち合わせする時間はありません。ですから、司会者やコメンティターには「スタッフが作ったVTRやレポーターのプレゼンをしっかり視てよ!」とグチりたくなるケースだったのではないでしょうか。
他にもスタッフ側が司会者やコメンティターの発言に困るケースがあります。未確認の事実を堂々と言われてしまうことです。この件でも長嶋一茂さんの発言にスタッフならヒヤリとするものがありました。
「病院にはノルマがあるんですよ。MRIは何回使わなければいけないとか、全部あるんですよ。もし(プロポフォールの使用が)その一環だとしたら~」(長嶋一茂)
長嶋一茂さんは病院には医療器具使用や薬剤使用にノルマがあると断定していますが、ホントでしょうか。少なくとも番組としては確認できていないのでは。もしほんとうに病院にはノルマがあるのならナイスなコメントなのかもしれませんが、万が一、軽はずみな断定だったりするなら、スタッフとしては止めていただきたい発言ですね。
感想ならともかく、事実についての断定は司会者もコメンティターもきちんとした根拠に基づいていないと、いつか大きな穴ぼこに落ちかねません。
ところで、このニュースで私がもっとも気になった重箱の隅は、この医療技術が高度に進化した世の中で、単に管を抜けないようにする方法が全身麻酔ということでした。管を抜けないようにするくらいのものなら、世界の技術力を持ってすれば何とかなるんじゃないですかね。
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