日本のテレビで最も医療・健康情報を取り上げるのは「情報バラエティ」だ
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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先日、東京大学で行われた「メディア制作者と医療者がつながる座談会」に出席した。この会は、
- 医療系サイト「WELQ(ウェルク)」をはじめDeNA(ディー・エヌ・エー)が運営するまとめサイトで不正確な記事や著作権無視の転用が次々と見つかり、休止に追い込まれた事件
- 元フジテレビアナウンサーの長谷川豊氏の「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!」などの発言をブログ上で行い全番組を降板した事件
などが目を引く中、正しい「医療情報・健康情報」を医療者側からメディアに伝える方法を考える目的で設立されたものである。
この会には、お手本がある。UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のサンドラ・デ・カストロ・バフィントンさんらが実施しているGlobal Media Center for Social Impactである。Global Media Center for Social Impactの目的は病気や障害の正しい知識をエンターテインメントによって、世の中に知らしめることである。
「エンターテインメント」と、サンドラさんが言うのは、テレビドラマや劇映画のことである。彼女たちはハリウッドや、4大ネットワーク、ケーブル、オンデマンドのドラマ制作者たち、特にシナリオライターに無料で医療情報を提供し続けている。
サンドラさんたちがドラマ・クリエイターに情報を提供する時に決めているルールがある。
- エンターテインメントが1番、私達の発したいメッセージは2番目だと心得る。
- ドラマクリエイターは私達の情報からあくまでも自由である。最大限に尊重される。
- 目標は私達の持つ情報を使って人を惹きつけるストーリーを作る手伝いをすること。私たちはドラマクリエイターをインスパイアするだけ。指図はしない。
- ドラマに自分たちの名前のクレジットを出すことはない。私達の背後にはなにもないし、ある特定の企業や人の利益を代表することはない。
- 私達の情報提供は全てFree、無料である。
この方法は日本でも有効だと思われる。ただ、アメリカと日本、彼我の国ではドラマ制作過程の事情が違う。そこがハザードになるのではないか。
【参考】<映画「スポットライト」>いかにして「再現ドラマ」にアカデミー賞を受賞させたのか
サンドラさん達がシナリオライターをまず情報提供のターゲットにしているのは、アメリカのシナリオライターが厳しい独立性を持っているからである。
アメリカの場合、シナリオライターがまず脚本を書き上げる。プロットだけの企画書ではダメである。直ぐにでも撮影に入れる脚本の形になっていなければならない。
シナリオライターは手数料等を支払って、エージェントに脚本を預ける。預かったエージェントは映画やテレビのプロデユーサーに脚本を売り込む。この時のプロデューサーはメジャー映画会社や、4大ネットワークのプロデユーサーではなく、制作会社のプロデューサーである。制作会社のプロデューサーのプロデューサーは借金も含め様々なところから金を集めて、ドラマをつくる。
メジャー映画会社や、4大ネットワークのためにパイロット版を作るときさえある。金はかかるが、ヒットドラマはかけた金の何倍もの金を生み出すときがある。プロデューサーもシナリオライターもこのおこぼれに預かって暮らしを立てているのだから必死さが違う。おこぼれというのは適切な表現ではないだろう。
日本ならシナリオライターの取り分は60分のドラマ一本で100万円というところだろうが、多くの国に販売できるドラマをつくるアメリカでは桁が違う。
【参考】<UCLAが無償でドラマ監修>病気がテーマでもエンタテインメントが優先されるハリウッドの凄さ
というわけで、ドラマの設計図というべき脚本が、まず、シナリオライターの頭の中から生まれるアメリカでは、そこに向けて最初に、フレッシュな情報を提供することは取り上げて貰うにあたって大変効果的である。
日本ではそういう順序にはなっていない。
スピーカーとして登壇した脚本家の浜田秀哉氏(フジテレビ『ラストホープ』、『医龍4~Team Medical Dragon~』、NHK『破裂』など多数) の発言にもあったように、まず、主演俳優が決まる。米倉涼子、新垣結衣、堺雅人、木村拓哉・・・彼らに何をやらせようというところから、脚本づくりが始まるのが通常である。シナリオライターはプロデユーサーの使用人として働かねばならないことも多いのである。
つまり、医療情報などをドラマに面白く取り上げて貰おうとする試みにあっては、その試みが行おうとしている会にドラマプロデューサー、映画プロデューサーが参加していなければほとんど意味がないのである。キャスティング最重要と言うからには芸能プロダクションの社長にも参加して貰わなければならないかも知れない。
ただし、日本のドラマの主役は医者、医者、医者、医者、医者、医者・・・、刑事、刑事、刑事、刑事、刑事、刑事・・・だから取り上げられるチャンスは多いという利点もある。
こんな皮肉も一言述べておいて話を次に展開する。
筆者は、日本で最も医療・健康情報を取り上げてくれるエンターテインメントはいわゆる「情報バラエティ」と呼ばれる番組ではないだろうかと考えている。参加した会の司会はNHKの『ためしてガッテン』のディレクター市川衛氏であったが、氏がやっているような番組や、新感覚!病名推理エンターテインメント番組と名乗る『総合診療医ドクターG』などがエンターテインメントを兼ね備えた医療・健康情報提供者として最もふさわしい。
情報バラエティ、情報エンターテインメントという番組形式は日本以外にはあまりない形式である。日本人が情報好きなのと、何でもバラエティ化したほうが視聴率が取れるという状況から生まれた番組形式である。
ただし、情報バラエテイの制作者は玉石混淆でフジテレビの『発掘!あるある大事典』のような不祥事を起こす輩もいるから要注意である。
ドラマばかりがエンターテインメントではないのである。
さて、新奇な医療・健康情報が依拠する母体はどこに設けたら良いであろうか。これには様々な学会横断的な組織を作ることが必要だろう。厚生労働省の記者と言ってもNHK以外は人員も少なく、発表報道を垂れ流すのが精いっぱいで、相関関係と、因果関係を間違えてしまうほどの低レベルであることも少なくない。
「学会横断的な情報提供組織」と簡単に言ったがそこが問題である。事務局は誰が運営するのか、金は誰が出すのか。再びアメリカの例に戻ると、
- 私たちの情報提供は全てFree、無料である
・・・のだ。冒頭のサンドラさんの話によれば「UCLAが人件費や全ての必要経費を提供しています」。アメリカは、特にカリフォルニアはドラマ立国なのである。
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