<バカリズム『もしも師』>「うんこ飽きさせ師」は倫理的に危ない心理学実験
高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]
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バカリズム司会の『もしも師』(テレビ朝日)は、ひねりによって始まった番組ではなく、企画の根本が『発明』によって成立した番組であった。バラエティで『発明』が見られるのは多くて3年に一回くらいだから久しぶりのことである。
公式HPには、「もしもこんな職業があったら・・・」芸人たちが新しいお仕事を提案し、実際にその職業になりきって街に繰り出し大検証。とある。意欲的である。
だが、中で一つ僕が危惧を持った企画があった。マジカルラブリー(村上、野田)が「うんこ飽きさせ師」になる。子どもを持つ親が抱える永遠の悩み「子ども『うんこ』好き過ぎる問題」。TPOをわきまえず『うんこ』で大騒ぎ・・・そこで、あえて子ども達に『うんこ』にまつわるショーを飽きるほど見せて必要以上に面白がらないようにする新職業だそうだ。
村上と野田は幼稚園のようなところに行き、子どもたちに、うんこラジコンや、うんこ手品、うんこクイズを見せ、ヤンヤの喝采を浴びる。しかし、それは前フリ。野田は、途中でこのショーをやめることなくこれでもかこれでもかと子どもたちが嫌になるまでうんこショーを見せ続ける。
するとどうだ、園児たちは次第に不機嫌になり、野田の出すうんこにブーイングするようになる。帰宅後子どもたちは、親からいまの気持ちを聞かれ「うんこは飽きた」「汚いことばを使うのは良くない」とまで話すのである。問題解決。「うんこ飽きさせ師」は職業としてありだ。ギャラクシー賞受賞作になる。これからもやり続けてほしい。という脳天気な感想である。
[参考]NHK「おかえりモネ」をフェミニズム批評とジェンダー批評の視座から見る。
しかし、この仕組は危ないと、心理学を少しかじったものは誰もが思うだろう。心理学の一分野である『行動分析学』の、条件づけ実験の要素が組み込まれているからである。例を示す。
「例えばサルに行った実験。LEDの点灯ボタンを押すとバナナを与え、LED消灯ボタンを押すと電気ショックを与える。すると、サルはLEDを点灯してバナナをもらうことを学習するのである」
簡単に言えば、これが条件付けである。サルの行動を強化するバナナを「正の強化子」、電気ショックを「負の強化子」というが、わかりやすいようにバナナを「好子」、電気ショックを「嫌子」とも呼ぶ。ちょっと考えればわかるがこの中での、「嫌子」を提示して、その後の行動をコントロールしようという方法は、ずっと批判されてきた。つまりこれは体罰だからである。遅刻したら、長時間正座のバツ。そんな事を行う学校は今やないだろう。
マジカルラブリー(村上、野田)が「うんこ飽きさせ師」は、「嫌になるまで」うんこをショーにして見せるのだから、園児たちに「嫌子」を提示して見せたことになる。だが、嫌子の出現は、その行動が良くない行動だとは伝えるが、適切な行動は教えない。
だから「嫌子」を使う行動分析の実験は近年行われないのである。
今はうんこが面白い対象だと思っている園児たちは、いずれうんこが大切なものだと学ばねばならない時期がくるのであるから、「嫌子」によってうんこを嫌いにしてはいけない。との考えは大げさすぎますか。
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