茂木健一郎「ジャニーズはへたくそな学芸会」は暴論だ
藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]
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脳科学タレント・茂木健一郎氏がジャニーズアイドルのパフォーマンスを「へたくそな学芸会」と酷評したことで炎上している。Twitterで茂木氏は次にのように書いている。
「歌も踊りもへたくそな若い男の子たちの学芸会のパフォーマンスを、『スター』というキャラ設定で垂れ流しして、番組のMCや大河の主役に起用して、日本のエンタメのレベルを落としてきた」(2023年5月12日@kenichiromogi)
ようは「アイドルなんて大した芸もないのに、ルックスだけで、能力もないのにスターとして祭り上げられている」ということが言いたいのだろう。そしてこの酷評がジャニーズファンだけでなく、多方面から批判を受けている。
もちろん、「アイドル=歌が下手」「アイドル=演技ができない」というステレオタイプなロジックは昔からある。本来であれば、才能と努力の頂点にある歌手たち、俳優たちとアイドルを対置させることで、芸能界批判・批評をすることも「あるある」だろう。アイドルや元アイドルが、有名ドラマや大きな舞台の主役に抜擢されると、露骨に敵意を剥き出しにする(地道に頑張る)俳優も多いと聞く。しかし、果たしてそれは批判的に議論されるべきことなのだろうか。そもそもアイドルに期待されている役割とは何か? ということを忘れてはならない。忘れている人が議論しているように思う。
残念ながら、芸能界に限らず、あらゆる世界で「コネ」や「権力」「政治力」が横行し、あらゆる場面で本来の実力とは異なる人選や配置がされてきたことは歴史を見れば明らかだ。そしてそれが現実でもある。例えば、茂木氏よりもはるかに有能で、素晴らしい論文を書く脳科学者は日本にゴマンといる。しかし、なぜか日本で脳科学者というポジションは茂木氏になっている。これもある種の「コネ」であり「政治力」だろう。
茂木氏のロジックは「よくある芸能界批判」をするためだけに、ジャニーズ性加害問題に便乗しつつ、ジャニーズタレントを「コネとルックスだけの、へたくそな学芸会」と評し、その存在と尊厳を侮辱しているに過ぎない残念なものだ。茂木氏も芸能界に身を置く存在なのだから、彼ほどの知性があれば、ジャニーズタレントを悪用しなくても、芸能界批判・批評の方法はいくらでもあっただろう。
しかも、ジャニーズアイドルのパフォーマンスは、一概に「へたくそな学芸会」と言い切れるものではない。90年代以降、カラオケの若年層普及や、インターネットによる表現チャンスの拡大、インディーズ(地下)活動の発展などにより、アイドルのパフォーマンスクオリティは飛躍的に向上している、ということはよく言われている。だからこそ、地下アイドルのような存在も多いだ。「昔に比べて、最近のアイドルは歌(演技・ダンス)がうまい」といったような発言が、頻繁にアイドル出身のタレントたちの口から出るぐらいだ。
「昭和アイドル」と「平成アイドル」と「令和アイドル」は、同じアイドルとしては一括りにできないほど大きな違いがある。それはジャニーズという小さな社会でも同様だ。昭和ジャニーズ、平成ジャニーズ、令和ジャニーズは、それこそ量も質も方向性も全く違う。事務所の是非や、良い・悪い・好き・嫌いという個人の趣味はさておき、とにかくアイドルたちには多様性があり、誰もが魅力的だ。ステレオタイプな属性判断で、ひとくくりにはできない。
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しかし、茂木健一郎氏は、そのような多様性や時代の変化を全てすっとばして、昭和型アイドル業界のステレオタイプな固定イメージだけで、ジャニーズタレントをひと括りにして「歌も踊りもへたくそな若い男の子たちの学芸会」と酷評した。今回の炎上騒動は、茂木氏のステレオタイプな暴論に対する反発なのだろう。実際、筆者も茂木氏の時代遅れの乱暴な意見には驚かされた。
茂木氏に問いたい。あなたは誰をさして「歌も踊りもへたくそな若い男の子たち」と言っているのか。どのパフォーマンスのことを「学芸会」と言っているのか。ジャニーズタレントとしてデビューしているのは何組、何名かご存知なのか。比較検証したいので、「下手くそな学芸会」をしている具体的なグループ名、タレント名、パフォーマンス名を書いてほしいものだ。
「『スター』というキャラ設定で垂れ流し」というが、数多いジャニーズジュニアたちの中で、「スター」と呼べるような存在になれる人が何人いるか、その確率を正確に知っているのか。スカウトされたジャニーズジュニアたちが、無条件に全員スターになれるとでも思っているのか。ジャニーズが無条件にスターになれるなら、今回の性加害問題は起きていない。
ジャニーズ事務所の性加害問題は社会問題として政治的・法的にも解決を目指さなければならないことだろう。今後ますます大きな議論や批判を生むはずだ。だからといって、ジャニーズタレントの愚弄し、ファンの想いを蹂躙するようなことで、ジャニーズ事務所批判、日本芸能界批判をすべきではない。ジャニーズタレントたちは「被害者」なのだから、むしろ守るべき存在あり、見せしめにしたり、批判の口実に利用すべき存在ではない。
言うまでもなく、ジャニーズ事務所の性加害問題には罪がある。しかし、ジャニーズタレントとファンたちがこれまで積み上げてきたコンテンツには否定されるべき罪はない。「罪を憎んで、作品を憎まず」である。そもそも茂木氏が「低クオリティ」という意味で「学芸会」という言葉を使うこ自体、学校教育の現場にも、それに取り組む先生・生徒たちに失礼だ。
スターを目指して必死に頑張るアイドルたちを「下手くそ」と罵り、蔑む表現として「学芸会」という言葉を使う茂木健一郎氏の発言と思考は、先生と呼ばれる立場で、学者・教員業を標榜する人間としては、あまりに残念だ。
ジャニーズアイドルたちが、キャラクターも能力もセンスもまったく異なる多様な「才能」を、努力によって花開かせ、ファンたちに夢を届けてきたことは紛れもない事実であり、そこに揶揄すべき要素はない。今回のジャニーズ事務所の性加害問題は到底許されるものではないが、それをアイドルたちへの批判につなげるべきではない。繰り返しになるが、ジャニーズタレントたちは、豊かな才能を持ち、必死に努力をしている貴重な日本のソフトウェアである。そして何よりも、今回の問題においては明確な「被害者」であることも忘れてはならない。
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