<政治を儲からない職業にする方法>日本の議員劣化を防ぐための現実的処方箋
高橋秀樹(放送作家)
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<「政治家は儲かる」という幻想>
いまや多くの国民が、政治家という職業に一種の「特権臭」を感じている。給与、文書通信交通滞在費、政党助成金、政治資金パーティー、天下り先―。どの制度も一見は公的に整備されているようでいて、実際には自己増殖する利権の温床になっている。
本来、政治とは「損をしてでもやる仕事」であるはずだ。にもかかわらず、日本では「儲かる仕事」に変質した。だからこそ子が継ぎ、孫が継ぎ、同じ家が代々政治を“所有”している。もし政治が赤字職業であれば、誰も好き好んで継がないだろう。政治家の劣化の原因は、能力や倫理の問題ではなく、構造的に“儲かる仕組み”に放置されていることにある。
<なぜ政治は「儲かる仕事」になったのか>
なぜ政治は「儲かる仕事」になったのか? これは制度を三層に分けてみるとわかりやすい。
*金の出入りの不透明さ
政治資金報告書は形式的な提出義務にすぎず、実際の流れはブラックボックスだ。パーティー券収入は「顔を売る営業」と化し、派閥が企業献金を吸い上げる構造。利権を得たい企業と、資金を欲しい政治家の相互依存関係が完成している。
*世襲構造の固定化
親の地盤と後援会を継ぐだけで、当選が約束される。「政治は家業」という感覚が政治的努力を奪う。これでは政策よりも地元の冠婚葬祭への出席率が能力指標になる。
*制度の形骸化
定数削減などの「人気取り改革」が繰り返され、結果として少数政党や新規参入の声を押しつぶしてきた。政治家の“中身”を鍛えるより、“数”を減らすことに夢中になったのだ。この三つが合わさると、政治は再生産される「利権システム」となる。そこでは理念よりも人脈が、政策よりも資金力がものを言う。
<政治を「儲からない仕事」に変える三つの改革>
まずは政治を「儲からない仕事」に変えること。そのためには三つの改革があると考える。
(1)政治資金の透明化と罰則強化
裏金問題の根源は、規制ではなく「見える化の欠如」にある。すべての政治資金を四半期ごとのオンライン公開にする。AI監査と市民監視を導入し、虚偽報告には連座制と公民権停止を適用する。金の流れが追える政治には、「裏の報酬」が存在しえない。
(2)世襲制限と公募制の拡大
同一選挙区での「親族連続出馬」を10年間禁止する。政党交付金の一部を、「若者・女性・非世襲候補」の比率に応じて配分する。入口を広げれば、政治は“血筋”ではなく“意志”で選ばれるようになる。
(3)政治の“副業構造”を断つ
現職議員の企業・団体顧問、政務三役OBの天下り、後援会主催企業の取引。これらを利益相反の公開義務+収入上限で縛る。政治を“もうけの延長”にしないためには、「政治家として得られる金銭」は歳費だけと明確に線を引くことが必要だ。
<「損をしてもやりたい人」だけが残る社会へ>
もし政治が儲からない職業になったら、残るのは「理念で動く人」か「社会を変えたい人」だけになる。そこには派手なスーツも、親の遺産も、企業献金も必要ない。代わりに必要なのは、知性・誠実・勇気の三つだけだ。
儲からない政治は、堕落した政治よりずっと健康的だ。むしろそのほうが、国民は政治家を信じられる。なぜなら、そこに私利がないからだ。政治が利益を生むかぎり、政治家は劣化し、政治は腐る。政治が損を生むとき、初めて政治は人間の尊厳を取り戻す。
「政治家を減らせ」と叫ぶより、「政治家を貧しくせよ」と言いたい。豊かさが腐敗を生み、貧しさが誠実を呼ぶわけではない。しかし少なくとも、利益を生む制度からは倫理は育たない。政治を儲からない仕事にすること―。それが、政治家の劣化を止める最短の道であり、同時に、民主主義の尊厳を取り戻す唯一の処方箋である。
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