<戦後70年の今だからこそ知る必要性>アンジェリーナ・ジョリー監督映画『アンブロークン』は反日映画ではない。

映画・舞台・音楽

岩崎未都里[ブロガー]
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[メディアゴン編集部・註]
まず、以下の産経新聞ネットニュースからの要約を読んでいただきたい。

「米女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが監督を務める映画『アンブロークン』をめぐり、配給元の米大手映画会社、ユニバーサル・ピクチャーズが日本と中国での公開について思案しているもようだ。ロサンゼルス・タイムズ紙が報じた。映画は全米で25日から公開される(た)が、主役の米兵を日本兵が再三虐待する場面があり、日本では抵抗感が強く、中国では反日感情をあおりかねないためだ。さらに問題視されているのはベストセラー作家、ローラ・ヒレンブランド氏の原作で、「捕虜たちが焼かれたり、人体実験で殺され、(日本の)古来からの人食いの風習で生きたまま食われた」などと捏造(ねつぞう)されたストーリーが史実のように描写されていることだ。」

この映画をメディアゴン執筆者である岩崎未都里氏がロサンゼルスで観た。以下はそのときの模様のレポートである。
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年明け2日の午前、筆者はロサンゼルスのホテルにいました。寝起きにTVを流していたところ、気づいたらテレビにはアンジョリーナ・ジョリー。ザッピングしてもアンジェリーナ・ジョリー。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)親善大使の会議や、去年エリザベス女王より名誉大英勲章を受け取った際に着ていたようなラルフ&ロッソのグレースーツに、長髪のブルネットを緩くアップスタイルにしてとても優雅。
司会者へ終始穏やかな笑顔で静かに質問へ答える。彼女が話していたのは、日本では問題作扱いの映画「アンブロークン」について。「彼の強靭さや許す力」について語る彼女の「彼」とは、モデルとなった元オリンピック選手で、元捕虜のルイス・ザンペリーニ氏のこと。
「アンブロークン」は昨年12月クリスマスに公開、12月25日には全米1位となり、年始は3位ながらも、2週間経つ今現在も米TOP10内、興行成績も想定外に高いことには米映画業界も驚いています。なぜなら、オスカー前哨戦、ゴールデングローブ他、世界中の映画賞から完全無視をくらっている作品でもあり、ノーノミネートゼロの状態です。
筆者が1月3日に観に行った時の入場客は5割ほど。家族ではなく、夫婦・カップルもしくはひとりで観に来ている観客が多いように思えました。
予告編でもわかっていたとおり、後半部分に米兵への拷問シーンがありました。筆者が一番確かめたかったのは次の点です。
「この非人道的拷問シーンのある」、しかも「反日映画と日本では刻印を押されたかのような映画」だから、観客のアメリカ人はこの映画を観たかったのであろうか? ということです。
そこで、映画を観終わってから、隣席の女性に話しかけてみました。すると女性は、

「This movie isn’t harder than “Schindler’s list”.It’s under the wartime.Is this movie a Japanese criticism movie? Did you think so, too?」(「『シンドラーのリスト』より悲惨じゃないわ。戦時下で起こったことよね。この映画は日本では反日映画なんですって? あなたも、そう思ったの?」)

と答えたのです。
筆者は「絶対にそうは思わない。戦争だから起こったことですよね、全部」と、同意しました。少なくとも筆者と、その時に隣に居合わせたアメリカ人女性は、「『反日』映画とは思わなかった」のです。
戦争の極限の精神状態は尋常ではない。
「アンブロークン」を反日映画と決めつけて、日本での公開を見合わせるのは、「自らの過去から学ぶ機会が奪われている」と、徳留絹枝氏(米NPO US JAPAN DIALOGUE ON POWs代表)は語っています。この意見に筆者も賛同しています。
戦争を知る80歳代以上の層が減少してゆく分岐点である「戦後70年」の今だからこそ、知ることが必要です。今から、50年後、例えば自分の子供がおじいちゃんおばあちゃんになった時に、「日本が戦争をせずに120年も過ごせたって幸せだよ、世界で一番幸せな国だ」と言うためにも、です。
2013年8月6日、被爆2世の筆者は「広島平和式典」に参列しました。その際の広島市長「平和宣言」に次の様な一文があります。

「地球を愛し、人々を愛する気持ちを世界の人々が『共有』するならば戦争を続けることを避けることは決して夢ではない」

 
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