<専門医から緊急提言>再生医療・幹細胞治療の前には必ず全身がん検査を

ヘルスケア

岡部遼太郎(本誌ライター)

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今、再生医療・幹細胞治療が注目されている。幹細胞とは、血液や皮膚のように、短く入れ替わり続ける細胞組織を維持するために、失われた細胞の再生する能力を持つ細胞のこと。さまざまな疾患の治療に効果があると言われ、特にアンチエイジング、関節治療、美容医療等の分野で急速な注目が集まっている。

一方で、この治療法に潜むリスクについては、まだ十分に知られていない部分は多い。新しい治療方法である以上、やむを得ないことではあるものの、決して小さくはないそのリスクに警鐘を鳴らす医師も多い。特に、幹細胞治療について調べていて一番目につくのが、もし体のどこかにがん細胞があった場合、「幹細胞治療によってがん細胞の増殖を促進してしまうリスク」があるということだ。実際に有名美容クリニックで行われたエクソソーム治療により、わずか1か月でがん細胞が通常では考えられないほどの速さで肥大化し、投与前には確認できなかった部位にもがん細胞が増殖している様子が確認されるという事件が大きく報じられた。

いかに魅力的な医療だとしても、その治療行為に対して、患者の側がリスクを十分理解しておくことは不可欠だ。その意味では、「がんリスク」は幹細胞治療を検討する患者が必ず理解しておくべき重要な問題であると思われる。

本誌ではこれまで、我が国で盛り上がる先端医療の現在について取材をしてきた。本稿では、幹細胞治療についての基本的な理解から、「がんリスク」を事前に検出するために有効な新技術として注目されている「マイクロCTC検査」について取材をし、その可能性について、我が国の「予防治療」「抗老化治療」の第一人者である「辻クリニック東京」の辻直樹院長に伺った。

(以下、インタビュー)

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<幹細胞治療の仕組みと注意点>

本誌ライター・岡部遼太郎(以下、岡部): 幹細胞治療は具体的にはどのような仕組みなのですか?

辻院長:まず、現在行われている幹細胞には「臓器幹細胞」と「間葉系幹細胞」があります。臓器幹細胞の代表は白血病の治療のための骨髄移植に利用される造血幹細胞で、他人の骨髄から採取した細胞を移植し、造血能を回復させることを目的とした治療です。もうひとつの間葉系幹細胞は、脂肪や歯髄、胎盤などすべての臓器に存在するのですが、それを移植することで、様々な細胞の再生を促すもので、一般的にはこれが『幹細胞治療(幹細胞移植)』と呼ばれています。この細胞は直接細胞を再生するわけではなく、各臓器に存在する臓器幹細胞に対し「再生命令」を送る細胞だと言われています。

それとは別に、エクソソームや幹細胞上清液という言葉を耳にすることも多いと思いますが、これは幹細胞そのものではありません。幹細胞を培養した過程で出る上澄み液である幹細胞上清液、そして、それに含まれるのがエクソソームです。エクソソームは命令物質を内包する運搬カプセルのようなもので、成長因子やRNA、タンパクなどを内包しています。上清液からエクソソームだけを取り出し濃縮したものを「エクソソーム」と呼んでいることが多いです。

エクソソーム、幹細胞上清液などを利用した治療は「幹細胞刺激治療」であり、人体に存在する各臓器幹細胞を刺激し、細胞再生を促す治療です。先に述べた「間葉系幹細胞移植」もこの「幹細胞刺激治療」に含まれます。これら幹細胞刺激治療は、幹細胞の「分化能力」と「自己複製能力」を活用した技術です。幹細胞は、身体を構成するさまざまな細胞に変化する能力を持っています。これを利用して損傷や老化で機能が低下した組織を再生するというわけです。

いろいろな言葉あってややこしいと思いますが、まとめると、幹細胞治療、幹細胞上清液、エクソソームはそれぞれ違うものですが、全て幹細胞の特性を利用した幹細胞刺激治療といえ、それらを総称して『再生医療』と呼んでおります。

岡部: なるほど、非常によくわかりました。幹細胞刺激治療(幹細胞治療・幹細胞上清液・エクソソーム)は、メリットの大きい反面、がんを引き起こす可能性があるとも聞きます。その点についても詳しく教えてください。

辻院長: 幹細胞刺激治療は損傷した組織を修復するためには非常に有効です。しかし、その刺激は体内に潜在している「がん細胞」にも同じような効果を発揮してしまいます。つまり、幹細胞刺激治療を行うことで、がん細胞が元気になってしまうわけです。よってがん細胞の増殖を促進してしまう、というリスクが懸念されています。がん細胞は正常な細胞と比較して異常な増殖能力を持っているので、幹細胞刺激治療による刺激が加わることで、分裂と増殖が制御不能なレベルに達するリスクがあります。特に、微小ながん細胞が体内に存在する場合、従来の検査では見逃されることが多く、これが幹細胞治療を進める上での課題となっています。

岡部:そのためには、幹細胞治療を受ける前に、がん細胞の有無を確認することが非常に重要ですね・・・。

辻: その通りです。幹細胞治療、幹細胞上清液、エクソソームなどの幹細胞刺激治療を行う前に、患者さんの体内に、従来の検査では見逃されがちな微小ながん細胞が存在していないことまでを含め、注意深く確認しなければいけません。

<従来のがん検査の課題>

岡部:幹細胞刺激治療でがんリスクを回避するために不可欠ながん検査ですが、微小ながん細胞の発見は、従来のがん検査では難しいと言われています。その対処法には何があるのでしょうか?

辻院長:まず、従来のがん検査には、いくつかの課題があります。第一にCTやMRIといった画像診断では、腫瘍が一定以上の大きさにならないと検出することが難しい、ということです。

岡部:具体的には、どれぐらいの大きさが必要なのですか?

辻院長:通常、腫瘍が1センチ以上のサイズと言われています。その大きさで既に約10億個のがん細胞があると推定されます。

岡部:ずいぶん大きくならないと見つからないんですね・・・。

辻院長:はい。最先端の画像診断でもこれが限界なのです。画像診断の場合は、患者さんへの身体的・精神的な負担が大変大きいという課題もあります。また、時間と費用というコストの面でも大きな負担となっています。例えば、自由診療で全身がん検査を行う場合、1日以上の時間がかかり費用は30万円以上になることも珍しくありません。

では、もっと簡単にかつ微小ながんまでチェックできるものはないのか?ということで、遺伝子や尿・唾液などの検査、また腫瘍マーカーなどが候補として浮かびますが、残念ながらそれらの検査ではどれも有効な解決策になっていません。

それらは「がんならこんな因子が増えますよ」などと、全てがんの間接的な傾向値を測り、そこからリスクが高いか低いかを出すだけのものとなりますので、そこでリスクが高いと出たからと言って、幹細胞治療を止める判断に繋がるかといえば、正直難しいでしょう。また腫瘍マーカーも前立腺がんのPSA以外は全く意味がありません。そもそも腫瘍マーカーというのは、がんがあるかないかを発見するものではないのです。

岡部:そうすると幹細胞治療は有効なのに、もしかしたら存在するかもしれない微小ながんを恐れて、実施できないということになってしまいますね?

辻院長:はい、ですのでこれらの課題を解決するには、新しい検査技術の導入が欠かせません。代表的な例ですと、最近、注目されている技術として「マイクロCTC検査」があります。この検査技術を活用することで、従来の課題を克服し、より安全に幹細胞治療を進められる環境を整えることが可能になります。

<マイクロCTC検査の革新性>

岡部:マイクロCTC検査について、素人にもわかるように教えてください。

辻院長: マイクロCTC検査は、血液中に存在する微小ながん細胞(CTC:血中循環腫瘍細胞)を検出する技術です。これまでの検査では困難だった微小ながん細胞の検出を可能にし、特に早期発見や悪性化したがん細胞の浸潤・転移リスクの評価において画期的な方法とされています。

岡部:これまでは発見できなかったような、小さながん細胞を発見できる、というわけですか?

辻院長:はい、一言で言ってしまえばそうです。従来の検査では、腫瘍が大きく成長しないと発見できませんでしたが、マイクロCTC検査では目に見えない段階のがんでも細胞レベルで発見できます。しかも、1回の採血だけですみますので検査にかかる時間はわずか5分です。1日がかりだった従来の全身がん検査と比べて、患者さんの身体的・精神的負担は大幅に軽減されます。

岡部:その検査精度はどのくらいなのですか?

辻院長:マイクロCTC検査は、全米No1で世界でも有数のがんの研究・治療施設の米国MDアンダーソンがんセンターが開発した特異度94.45%を誇るCSV(細胞表面ビメンチン)抗体を利用して、浸潤・転移の高い能力を持つ悪性度の高い『間葉系のがん細胞』を捕捉します。 がん細胞そのものを捕捉しますので、それが検出されたら幹細胞刺激治療はやめるという明確な判断材料として使えるのです。

岡部:これが手軽に受診できるのであれば、画期的ですね!
辻院長:はい、マイクロCTC検査は徐々に普及していて既に全国で約170のクリニックが実施しています。特に幹細胞治療やがん治療を専門とするクリニックでは、事前スクリーニング検査として積極的に活用されはじめています。

岡部:辻クリニック東京でも検査は可能なのでしょうか。

辻院長:はい、もちろんです。先ほどもお話ししましたが、安心して最先端のアンチエイジングや美容医療を受けるために欠かせない幹細胞刺激治療で、唯一といってもよい懸念点が「がんリスク」でした。今後、予防治療や抗老化治療に携わるクリニックにとって、マイクロCTC検査は不可欠なものになると思います。

岡部:その検査で、血液中にがん細胞が検出された場合、幹細胞刺激治療を見送る・・・といった流れですか?

辻院長:はい、おっしゃる通りです。まずはがん治療を優先することを提案しています。アンチエイジングや予防医療も基本的には他の医療となんら変わることはありません。ですから、健康な心身を取り戻すことをまずは優先するのが当然です。

岡部: 実際に検査を受けた患者さんの反応や感想などはいかがなのでしょうか?

辻院長: 私たちのクリニックでも最近、受診者が急増していますが、大変に好評です。健康診断などでは十分に発見できないような本格的ながん検査への関心は世代や性別を超えて非常に関心が高いです。それでも身体的負担や時間、コストの面から躊躇してしまうケースがこれまで大変に多かったです。しかし、マイクロCTC検査ではそういった懸念事項が大幅に改善されていますからね。特に予防医療では、効果的な幹細胞刺激治療を安心して受けるためには、不可欠だと思っています。

(以上、インタビュー)

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近年、急速に拡大している再生医療・幹細胞治療。医師やクリニックの数が急増しているだけでなく、その技術も急激に向上している。また日本の高い医療サービスによるインバウンドも盛り上がっている。

一方で、「がん細胞」までをブーストしてしまうリスクには不安や懸念を持つ患者は少なくない。そう言った中で、手軽に「がんリスク」を検査でき、幹細胞(移植)治療、幹細胞上清液、エクソソームなどの最新の幹細胞刺激治療への不安を軽減できる技術の登場は、日本の医療をさらに高めるだろう。

今後も本誌では、医療に関する最新の情報を取材しつつ、専門家、識者へのインタビューをご紹介してゆく予定である。

 

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