韓流BTS「パクリ疑惑」はフランスの写真家だけではない
藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]
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フランスの写真家ベルナール・フォコン氏が、自分の写真作品と韓国アイドルグループBTS(防弾少年団)のコンテンツが酷似している、「パクられた」と主張している問題が韓国では大きなニュースになっている。
ベルナール・フォコン氏は、BTSのアルバム『花様年華:Young Forever』の写真集および『Blood Sweat & Tears(血、汗、涙)』のMVの一部シーンは自身の写真作品を真似たものである、それを隠さずに認めよ、という主張をしているという。それに対し、所属事務所側は、それらが「よくあるアイデア」にすぎないと反論し、話し合いにも応じてはいない。
この報を聞き、パクリ疑惑とされる箇所のいくつかを確認してみた。筆者が見る限り、フォコン氏による「パクられた主張」にはいささか無理があるように感じられた。確かに似ているような気もするが、よくある構図と言われれば、その通りだ。ありがちな構図を採用しただけの作品、あるいは偶然の一致である可能性を考えた方が自然であろう。
韓国といえば「パクリ大国」「偽物本流」のイメージが強いだけに、パクられたと主張するフォコン氏のクリエイターとしての想いは容易に想像できる。それでも客観的に見て、それが盗作という意味でパクリに該当するかと問われれば、多くの賛同を得るには難いケースだろう。
【参考】『パクリの技法』ジブリに許されて女子高生社長に許されないパクリの違い
しかしながら、BTSに関しては「ここから影響を受けたんだな」「これ、パクリじゃない?」と感じるものは多い。少なくとも、今回問題となっている事例に関してだけでも、むしろフォコン氏の写真よりも似ている有名作品はある。
例えば、『花様年華:Young Forever』でメンバーが並んで歩いている写真は、指摘されたフォコン氏の写真よりも映画『スタンド・バイ・ミー』のポスターの方がはるかに似ている(図参照)。しかも『花様年華:Young Forever』の写真集では、これ以外にも『スタンド・バイ・ミー』を彷彿とさせる箇所が少なくない。もし偶然であるとすれば奇跡的だとさえ感じる。
同じくパクリを指摘されたMV『Blood Sweat & Tears(血、汗、涙)』に関しては、そもそもそのタイトル自体が、60〜70年代に活躍したアメリカのロックバンド『Blood, Sweat & Tears』の名前そのままである。そして、このバンド名もまた、ロカビリー歌手ジョニー・キャッシュが1963年に発表した曲『Blood, Sweat, and Tears』からの流用であると言われる。その意味ではBTSの『Blood Sweat & Tears(血、汗、涙)』はパクリの「孫引き」利用という可能性すらある。
MVの表現や描写についても同様だ。フォコン氏の写真よりも、日本で60年代、70年代に活躍した作家・澁澤龍彦らに代表される耽美系作品群、具体的に言えば澁澤龍彦が責任編集を手がけた雑誌『血と薔薇』系統のデザインが想起される。誤解を恐れず書いてしまえば、いわゆる「ゴスロリ」や「ヴィジュアル系」で多用される表現やイメージだ。BTSでも利用されているこういった耽美的な表現はヴィジュアル系バンドのMVを見てみればいくらでも似ているものがある。
【参考】<パクリ問題なぜ急増?>パクリティラミス、中国マリオ、アリアナ・グランデ新曲…
つまり、今回問題となっているパクリ疑惑に関してはいえば、指摘したベルナール・フォコン氏の作品ではなく、別の作品からのパクリを考える方が現実的だし、類似度も高い。その意味でも、今回のフォコン氏のパクリ指摘には無理があると筆者には思える。
もちろん、こういったパクリの痕跡が確認できるコンテンツは、BTSに限った話ではない。人気アーティスト、有名作家などの作品の中にもパクリは無数に散見される。
パクリに関する様々な事例については、拙著『パクリの技法』(https://amzn.to/2DhsPSg)でも具体的に解説しているので、ぜひご一読いただきたい。
クリエイティブにとって、パクリ自体は必ずしも悪いことではない。むしろ、過去の作品や他からのインスパイアをどのように自分の作品に取り込み、オリジナリティへと変換してゆくのか。それをどう利活用するか(パクリ疑惑を生まない方法を含め)といった「パクリの技法」は何よりも重要なことだし、ものづくりには不可欠だ。この視点は忘れてはならない。
これらを踏まえた上で、今回の騒動を考えてみると、結局はベルナール・フォコンという有名なフランス人写真家が、「韓国アイドルが自分の作品をパクって人気を得ている」と思い込んでいるだけなのかもしれない。もしそうだとすれば、フォコン氏の勇み足と韓国への偏見に物悲しさを感じる一方で、そういった先入観を生んでしまう背景の方にも大きな問題を感じてしまう。つまり、韓国がこれまで「パクリ大国」「偽物本流」であったという現実だ。
韓国が「韓流スター」という商材で世界に打って出ている今日、「パクリ大国」「偽物本流」という現実と伝統と文化がボトルネックになる可能性は高い。これは今後、韓流コンテンツの輸出量を維持してゆく上で、大きな足かせとなるようにも感じる。急激に成長する韓流コンテンツであるが、その実態はまったく安定したものではないのだ。
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