[江川達也]<漫画「日露戦争物語」の真相>なぜ日本では自分の意見を作品にすると批難されるのか?
江川達也[漫画家]
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(前回記事はコチラ)
小学館の雑誌の読者はインテリだ。戦後インテリは左翼だ。
講談社の雑誌の読者は地方のヤンキーだ。ヤンキーは右翼だ。
というステレオタイプで見ると語弊はあるが、あたらずとも遠からずだと筆者は小学館と講談社で連載した経験から結論づけている。
最近、小学館の一部も右傾化しているが、左翼が偽右翼のふりをしているような気がする。まあ、その左翼も言ってしまえば、偽左翼な気もする。
小学館で歴史漫画を描くのは向かい風で進む帆船のようなものだ。中国や朝鮮の捏造情報を一生懸命描く漫画家が権勢を誇っている出版社だった。
だが、担当編集者が、「右寄り」な人だったので、思わず、乗っかってしまった。そして「海軍もの」の漫画はいつの時代を描くかという話になった。
筆者は迷わず、「日露戦争」を描きたいと主張した。人気のある戦争ものは、大体が、大東亜戦争(第二次世界大戦)ものである。
筆者が描きたいテーマは、
- なぜ大東亜戦争が始まり、
- なぜ敗戦し、
- なぜ今の日本の教育が事実がネジ曲がった歴史を教えるように(もしくは、何も教えないように)なってしまったか?
ということだった。
しかし、それは、大戦前のことを知らなくては、描けないのである。主人公の活躍とかメカのかっこよさとか、戦争の高揚感で人気を得ることが筆者の目的ではない。そういうことは、司馬遼太郎さんやその影響を受けた宮崎駿さんがやっていればいいことである。
「日露戦争」が物語り化(神話化)することで、人は現実の選択を間違う。
そういう意味で、新しい連載を「日露戦争物語」と筆者はタイトルとして名付けた。その前の「東京大学物語」も東京の大学が物語り(神話化)化することで、人は現実の選択を間違う。という意味合いなので、同じような設定だ。
陸軍中将・石原莞爾は、陸軍兵学校時代に、
「どうも、世間で言われている日露戦争の勝利の歓喜はおかしいのではないか。」
と疑い、日露戦争の実相を調べ、研究し、世間で流布されている日露戦争の物語(神話化)を否定するところから、戦史研究を始めたそうである。
そう、昭和の戦争の失敗は日露戦争の物語を信じてしまった人々の妄想が原因のひとつだったのだ。この結論から「日露戦争物語」を筆者は描こうとした。
次にどこから描き始めるかを考えた。筆者は迷わず「薩英戦争」だった。
本当に描きたい出発点はスペインのレコンキスタ(キリスト教がイスラム教に奪われた失地を回復する運動。そこを起点として大航海時代が始まり、西洋人による非西洋人の殺戮、疫病感染、奴隷化が始まる)からだったが、それは遡り過ぎなので、「日本海軍」ということだったら、当然「薩英戦争」となるのである。(明治海軍は薩摩藩「現鹿児島県」の武士が幹部だった)
そして、主人公は「山本権兵衛」と決めていた。「日露戦争、海軍」となれば「山本権兵衛」以外にはない、とまで思っていた。
明治の日本海軍を育て上げ日露戦争の異例な人事配置はこの「山本権兵衛」が一手に引き受けたのである。そう、主人公「山本権兵衛」の目線で海軍軍人を描けば、俯瞰で海軍の群像が描けると思っていた。その後の大正・昭和の海軍の劣化もまた、山本権兵衛の目線で描けば実情が分かり易く描きやすいのだ。
山本権兵衛の次の主人公は、日露戦争が物語だと看破した石原莞爾。そして、その後の主人公は戦後、新たな日露戦争の物語を流布して日本人の歴史認識をおかしくしてしまった司馬遼太郎。そして最後の主人公は新たなる日露戦争物語を描いている江川達也(笑)。
今までの「歴史もの」のダメなところは、江戸中期から幕末と明治、そして、大正、昭和の歴史が繋がって俯瞰で描かれなかったことだと思っていた。
未だに、そういう視点で描こうとしている人を見たことはない。庶民の目じゃなくて、あくまで俯瞰で描こうとしていないのは、「逃げ」にしか見えない。
何からの「逃げ」か。それは、様々な批難からの「逃げ」である。
そう、日本には自分の意見を作品にすると、必ず沢山の人々からの批難に晒される。特に「八紘一宇」という素晴らしい言葉と行為を表現すると鬼畜扱いしてくる凶暴なる無知の集団が存在する。
「八紘一宇」とは、大雑把に言って「人類は、お互い差別せずに仲良くしよう」という意味なのだが、凶暴なる無知の集団にかかってしまうと、「殺戮と収奪の合い言葉」になってしまう。頭がどうかしてるとしか思えない。ぶっちゃけて言うと、その凶暴なる無知の集団とは、左翼のインテリ集団とかなり重なっている。
こういう凶暴な集団から逃げずに作品を作り続けるのはかなりのパワーと編集部の協力と読者の後押しが必要なのだ。
だから小学館より講談社の方が「西洋列強からの有色人種の奴隷化に抗して昭和20年まで人類の平等共存平和(八紘一宇)のために戦って来た日本人の戦いの歴史を俯瞰で捉える漫画」を連載するのに適している、と筆者は判断していた。
だが、小学館の担当編集者個人の熱意を筆者が気に入ってしまったことから歯車が狂い始める。
(前回と続きはコチラ:https://mediagong.jp/?author=226)
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