<決定版・欽ちゃんインタビュー>萩本欽一の財産⑰笑いの「間」は「0.5」と「1」と「2」

エンタメ・芸能

高橋秀樹[放送作家]
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「笑いの『間』って、教えられるものじゃないんだけど、なんとか分かってもらおうと思って僕は考えた」

と、大将(萩本欽一)が言う。

「僕もわかりません、教えてください」

「演者で勘の良い人は、何度も稽古すればわかっていくし、稽古してもわからない人はわからない。稽古し過ぎると稽古場で受けたことをそのまま本番で出しちゃうことになって、絶対に良くないから、僕はいいとこで切り上げるけれどね」

「『間』の話でした」

強引に話を引き戻す。

「そうかそうか。演者の間はね、やれば完成するよ。でも完成しないのがカメラマンの『間』」
「でも、たった一人だけ『欽ドン!』の、TD(テクニカル・ディレクター。スイッチャーとも呼び、スタジオの5台[あるいはもっと]のカメラを切り替える権限を持っている。テレビは、映画と違いカットごとに取っていくわけではないから、取りながら瞬時に編集しているようなものである)さんが、僕のところに『間を教えて下さい』ってやってきたの」

カメラマンやテレビ技術者の集団ニューテレスのTD梅谷昌弘氏だ、今はニューテレスの社長である。

「梅谷さんにまず言ったのは、アップを撮らないでってこと、コメディアンは芝居してる時につま先から頭の天辺まで、色んな所に点を入れて笑いを撮る態勢を作っているんだから、それ、顔だけに寄られたら、台無し、だから、引きで撮ってって。チャップリンの映画見るとわかるけどほとんどがフルショット、だいたい、チャップリンはどた靴の先に点が入ってる」

「その点というのは、『間』と似てる気もするんですけど」

「まあ、体の『間』って言ってもいいか」

「『間』っていうくらいですから、時間ていうことですよね」

「時間よりむしろタイミング」

大将は梅谷さんと並んで舞台で始まっている代役の稽古を見ながら、『間』の説明を始めた。

「『間』は「0.5」と「1」と「2」の3種類ある。普通は「0.5」、カメラの人はこれを「1」で撮っちゃう。たとえば客の笑いを抜きたいなら『お客が笑(客の笑ってる画)った』になってて欲しい。「1」の方は『お客がQ笑った(客の笑ってる画)』これになっちゃうとまるでQがでて、指示されて笑ったみたい、しかもこれは笑った事実の事後報告になっていて気持ちが悪い。報告はつまり説明だから、説明は『なぜ笑ってるかというと』ということでこれはつまんないでしょう』
「カメラマンには客が笑うぞっていう予知能力が必要。予知能力がないならずっと引きで撮ってて、それなら客の肩が揺れてるとこまで入って伝わるから」
「「1」と「2」使うのは演者」

これから後は、僕の目の前で大将が演じて説明してくれたことだ。

「1」   はこうだ。

「お前汚いなあ」「1」「綺麗ですか」

「2」   はこうだ。

「お前汚いなあ」ずーっと静かになって、グラフでいうと、こう、線が下降線を描いていってポンともどって「綺麗ですか」

なるべく大将が言った通りを再現しているのだが、分かってもらえるだろうか。
大将の演じている様子は確かに笑える。

「お前、ちょっとやってみな」

突然振られる。大将が言う。
「お前汚いなあ」
僕は「1」を入れて、
「綺麗ですか」と言ってみる、自分では『間』がきちんと入って、おかしかったような気がする。

「まあまあだ。「2」は、ずっと難しいから、お前じゃ出来ない」
「な、こういう『間』を使う芝居ができれば『びよーん』とか変な言葉を使わなくても笑いが取れる。笑いは普通のセリフでとれるのが最上級」

わかったようなまだわかっていないような複雑な気持ちになる。ことを急いてはいけない。『間』についてはまた聞く機会があるだろう。そこで素朴な疑問を聞いてみる。

「コンサートのライブ中継を見ていて、お客さんが感動して泣いてるカットが入るとシラケるからやめてくれっていう人がいます」

「ああなるほどねえ。それさっき言ったみたいに『間』がずれてるんでしょ。桑田くん見て泣きたいんであって、お客さん見て泣きたいわけじゃないもんねえ」

「普通の言葉で笑う例を教えて下さい」

「ウチの詩村(博史=パジャマ党の作家)が書いた霊媒師のコント。あれは良く出来てるって詩村を褒めた」

僕はこのコントを見ている。久々に再結成したコント55号のコントをやる特番だった。霊媒師・欽ちゃんの元を訪ねてきた二郎さんが、「亡くなったお母さんを呼んでくれ」という。欽ちゃんは、「祈れば私の中にお母さんが入ってくるから、『お母さん』と声をかけなさい」と言う。
欽ちゃんがトランス状態になったのを見て、二郎さんが「お母さん」と声をかけると、欽ちゃんは「萩本です」まだ、降霊していない、この繰り返しである。(注。これを天丼とは言いません)二郎さんが「お母さん」と声をかけるタイミング、欽ちゃんが「萩本です」と答える『間』。それだけで成立している優れた設定だ。
その後の霊媒師・欽ちゃんのツッコミ「ちゃんと声かけないと壺売るぞ」と言う振り、買わされてはたまらないと言う二郎さんのこなしの顔、大人はそっちでも楽しめるコントだった
(インタビュー⑱につづく)
 
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