<「モーニングバード」が相模川死体遺棄事件で誤報>番組スタッフが誰ひとり気づかなかったことに疑問

社会・メディア

藤沢隆[テレビ・プロデューサー/ディレクター

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昨年2014年11月に相模川で吉田綾奈さんの遺棄死体が発見された事件で元交際相手の神岡誠治容疑者が逮捕されました。
テレビ各局は神岡容疑者のインタビュー映像をたくさん持っていて、テレビ局がこの元交際相手を「アヤシイ」と疑っているのはミエミエ。逆に元交際相手は疑われているのを充分に承知しながら、マスコミ取材に応じるという奇妙な構図で二ヶ月が過ぎていた事件でした。
神岡容疑者は各社のインタビューに対して、

「吉田綾奈さんと最後に会ったのは10月26日の夜で27日の午前零時を過ぎていない」

と言っています。なぜか26日の夜であって、27日にはなっていないことに強くこだわっているようでした。
おそらく吉田綾奈さんのお母さんが、

「27日の午前零時過ぎに元交際相手の所に荷物を取りに行くと言って出かけた」

と証言しているのを意識してのことで、失踪は時間的に自分とは無関係であると言いたかったのでしょう。
吉田綾奈さんは10月27日午前零時過ぎまでは生存が確認されています。重要なのはその後の足取りです。この点の報道について、私は以前メディアゴンの記事「相模川・26歳女性死体遺棄事件の足取りとテレビの時間表記」でも触れました。
テレビ各局をはじめとしたほとんどのメディアの報道内容と違うことを、11月10日のテレビ朝日「モーニングバード」だけが伝えていました。これはスクープなのかそれとも勘違いなのか、と書きましたが、筆者は「モーニングバード」が伝えた事実を疑っていました。
吉田綾奈さんの足取りですが、同じ日のフジテレビ「とくダネ!」は失踪前日の10月26日の動きを、
[26日]

  • 午前1:00・・・カラオケ
  • 午前3:00・・・秦野のクラブでパーティ
  • 朝・・・友人に送ってもらって大和市の元交際相手(神岡容疑者)の家へ

[27日]

  • 0時すぎ・・・元交際相手の所へ荷物を取りに外出

と伝えています。他局も新聞も同様に27日午前零時以降は行方不明と伝えていました。一方で、11月10日のテレビ朝日「モーニングバード」が伝えた内容は肝心の27日午前0時以降が他社と違っていました。

「被害者の友人男性による新証言で新たな足取りが判明」

とし、取材したベテラン高村レポーターは、

「(被害女性は)26日から27日にかけて夜通しで遊んでいた。」

と報告した後、以下のように足取りを説明しました。
[27日]

  • 未明・・・元交際相手の所へ荷物を取りに行くと外出
  • 明け方・・・(秦野の)クラブ
  • 朝5時ごろ・・・(友人に)大和駅まで送ってもらった

「明け方」とは午前3時ごろから6時ごろまでを指します。どこもが27日午前零時以降の吉田綾奈さんの足取りは不明としている中で、「モーニングバード」だけが、「27日午前5時頃までの足取りが判明した」と具体的に伝えたのでした。
「モーニングバード」は「友人男性の証言が正しければ」と軽くエクスキューズを入れてはいますが、全体としては取り上げるに充分な価値のある新証言として扱っていたように思います。そもそも内容に疑いのある証言なら放送しなければいいはずですし、当たり前ですがふつうはウラを取ってから放送します。
筆者が疑問を持ったのは、「とくダネ!」の伝えた吉田綾奈さんの26日の行動と、「モーニングバード」が伝えた27日の行動があまりにそっくりだったからです。若い女性が2晩続けて遊びで徹夜、それも秦野のクラブで。そして朝になると大和市まで車で送ってもらったことも、その時間も同じです。こんなことがあるんだろうか・・・。筆者はひっかかりました。
それに加えて、当時、足取り情報は最重要で、各社は吉田綾奈さんの友人関係を片っ端から取材していました。
しかし、どの社も27日午前零時以降の足取りはつかめていませんでした。その中で、被害者が失踪した直後に秦野のクラブで遊んでいたという重大な事実を「モーニングバード」だけがつかんだのです。これはちょっとしたスクープです。
ですが、他社もさんざん取材したはずの「友人関係」からの情報であり、場所も人がたくさんいたはずの「秦野のクラブ」ですから、なぜ同じように取材した他社がこの情報をつかんでいないのか、この点もとても不思議だったのです。
それから2か月ほど経過した1月15日、テレビ朝日「ニュースステーション」は逮捕された神岡容疑者が警察の取り調べに対し、

「10月27日未明、車で被害者を迎えに行き、車で出かけたが、そのドライブ中にトラブルとなり綾奈さんが死んでしまった、と供述した。」

と伝えました。
まさに「モーニングバード」が「新証言」として伝えた時刻に、被害者はクルマの中で殺害されていたわけで、結局のところ11月10日のテレビ朝日「モーニングバード」が伝えた情報はウラの取れていない「誤報」だったということになりました。おそらく「新証言」は26日と27日を取り違えたまま放送されたのではないかと推測します。
筆者が知るかぎり、情報番組などではチェックシステムが働いています。「モーニングバード」にもそれは存在するはずです。
チェック過程に存在するスタッフ(デスク、チーフディレクター、プロデューサー、構成作家など)の誰かひとりでも、他社の伝えていないスクープだけに「新証言」が信頼に足りる情報かどうか確認しようという意識さえあれば、被害者の行動が二日続けてまったく同じだった不思議さにも気づいたのではないでしょうか。
誰かがちょっとした疑問を持ちさえすれば、担当スタッフに、

「友人男性の証言は大丈夫? 午前0時すぎって27日なのか26日なのか勘違いしやすいけど確認した?」

とひと声かければこのプチ誤報は防げたはずなのです。
きちんと確認された情報を流す信頼性が崩れるとテレビは見捨てられます。そんなことは情報を取り扱うテレビスタッフは百も承知のはず。それなのに単に視聴者の一人でしかない筆者ですら気になった疑問を「モーニングバード」のスタッフが誰ひとり疑問に思わなかったということが、筆者にとってはナゾです。
この件を「誤報」と声高に言う気はありません。しかし、筆者の経験上、なぜだかトラブルは多くの場合続けて起こりますので、「モーニングバード」のスタッフのみなさんは今回の件は大きなトラブルの前兆だと考えて対応されたらよろしいのではと老爺心から申し上げておきます。
神岡容疑者が逮捕された翌日の1月16日、フジテレビ「とくダネ!」はこの事件をトップネタで40分にわたって伝えました。テレビ朝日「モーニングバード」は番組の真ん中あたりのコーナーで4分ほど伝えていました。もちろんこのことにはふれずに。
 
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