回転寿司迷惑動画は「性善説ビジネス」を崩壊させる産業テロ

社会・メディア

藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]

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回転寿司店での迷惑行為動画問題が注目を集めている。それに伴い、同じような事例、すなわち回転寿司店での迷惑行為(と呼称される偽計業務妨害容疑、窃盗容疑の犯罪)を撮影し、公開していた動画がさまざまに探知され、拡散され、炎上している。現在問題になっている動画だけでなく、回転寿司店でくりひろげられている様々な迷惑行為動画を、最近、SNSで多く目にする。こんなにあるのか?! と驚かされた人は多いはずだ。

中には、話題便乗的な炎上商法をねらった「明らかな悪質いたずら動画」もあるが、「見つかり、晒されてしまった犯罪記録」としての動画もある。程度の差こそあれ、同様の迷惑行為を動画にして楽しんでいる悪質客層が、回転寿司には一定数存在していることが期せずして明らかになったかたちだ。

言うまでもなく、回転寿司は、安価で手頃な値段でお寿司を食べることができるだけでなく、一種のゲーム性、エンタメ性もあり、わたしたち庶民が家族で楽しむことのできる代表的な外食産業のひとつだ。一方で、客の目の前をむき出しの寿司が通過するのだから、客の善意、客との信頼関係がなければ絶対に成り立たない、いわば日本らしい「性善説ビジネス」であると言っても過言ではない。例えば、海外で回転寿司店に入ると、多くの場合、寿司の皿が透明なカプセルで覆われているなど、「性善説ビジネス」としては成立していないことを感じさせる。

もちろん、最近では、回転寿司といいながらも、回転レーンには多く寿司が流れておらず、注文して持ってきてもらう、というパターンの店も増えている。しかし、レーンを流れている寿司を食べないにしても、客に届ける段階で、レーンに流すという方法をとる店もある。今回騒動になっている動画の中には、真偽はさておき「他の客が注文して、それを届けるためにレーンに流れている寿司」を食べたり、触ったりしていることを匂わすものもある。回転寿司への信頼性の低下は著しい。

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回転寿司の信頼性を揺るがすこの犯罪は、寿司業界に止まらない。

回転寿司以外にも、ビュッフェ形式、無人販売所など、客との信頼関係に基づく「性善説ビジネス」は少なくない。特に、日本では「性悪説」的な取り締まりをしなくても、「性善説ビジネス」は成り立ってきた。日本人は「性善説ビジネス」を成り立たせる素晴らしい民度を持っていたわけだが、今回の騒動はそれを完膚なきまでに揺るがせている。

日本ほど、至る所に自動販売機が乱立している国はない、とはよく知られた話である。多くの国では、自動販売機を置くと、すぐに破壊され、中身やお金が盗まれてしまうから、安心して自動販売機を置くことができないのだ。

今回の騒動の最大のポイントは、「迷惑行為動画の犯人は、たまたま発覚した氷山の一角なのだろう」ということだ。見つかっていない、動画を公開していないだけで、同様の行為をしていた悪質犯人がどれだけ存在するのか? もはや想像するだけで恐ろしくなるレベルだ。普通の感覚であれば、開店寿司への足は鈍くなってしまう。

今回の回転寿司迷惑行為問題によって、回転寿司店が被った実質的な利益損失は莫大だが、回転寿司業界を中心に、数多くの「性善説ビジネス」が受けた機会損失は天文学的な額にのぼるだろう。これはもはや「産業テロ」といっても過言ではない。

犯人たちを迷惑行為といった軽い言葉で扱ってはならない。他に呼称がないのが悩ましい点だが、実態は「迷惑行為」などではない。これは被害にあった回転寿司店からみれば、連続放火や連続強盗に匹敵する重犯罪である。

犯人たちは、問題となっている企業の破壊だけでなく、日本の巨大産業であった「性善説ビジネス」を崩壊させた、いわば「国賊」であり、「産業テロリスト」でもある。これを「迷惑行為」などといったレベルの話で終わらせるのではなく、「産業テロ」としての厳正な処罰を望む。

 

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