黒田日銀政策失敗を確認 -植草一秀
植草一秀[経済評論家]
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金融政策に関する事実に基づく適正な論議が必要。日銀が2012年7月から12月の政策決定会合議事録を公表した。第2次安倍内閣が発足したのが2012年12月。第2次安倍内閣発足を契機に「アベノミクス」なる政策が提唱された。
その第一に掲げられたのが金融緩和だった。第二は財政出動、第三は成長戦略。安倍内閣は金融緩和政策を推進することによってインフレ率を2%にまで引き上げることを公約に掲げた。この政策の是非を適正に検証する必要がある。
私は2013年6月に『アベノリスク』(講談社)を上梓した。副題は「日本を融解させる7つの大罪」。アマゾン紹介に次のように記した。
第一のラッパが吹き鳴らされると、日銀の資産を大幅に劣化させてまで誘導される激しいインフレが、政府と企業だけを救い、国民は大いに苦しめられた。
第二のラッパが吹き鳴らされると、大増税が始まり、アベノミクスへの期待効果によって生まれたわずかな株高などは簡単に吹き飛ばされた。
第三のラッパが吹き鳴らされると、TPP加盟によって美しい国土は荒れ地と化し、米国市場原理主義の猛威が日本社会を荒廃させた。
第四のラッパが吹き鳴らされると、活断層の上の原発がいつのまにか続々と再稼働し始め、人々は原発事故の悪夢に怯える日々を過ごした。
第五のラッパが吹き鳴らされると、血税を食い荒らすシロアリ官僚がますます増殖し、再び増額された巨大公共事業・役人利権予算に群がった。
第六のラッパが吹き鳴らされると、権力の横暴を防ぎ止める役割を担っていたはずの憲法が、国家権力によって次々と都合よく改悪され、国民主権や基本的人権がないがしろにされた。
第七のラッパが吹き鳴らされると、憲法改悪によって戦争への道が切り開かれ、集団的自衛権の名のもとに日本が報復攻撃の対象とされ・・・
これは黙示録ではありません。近未来の日本の姿です。アベノミクスの次にやってくるのは、アベノリスクの時代なのです。『アベノリスク』が現実化してきたことはその後の歴史が証明している。
私は同書でインフレ誘導政策について論じている。要点は二つ。
第一はインフレ誘導政策が間違った政策であること。
第二はインフレ誘導政策が失敗する可能性が高いこと。
歴史を客観的に検証し、当時の論争、現在の政策評価を整理する必要がある。
第一にインフレ誘導政策が成功しなかったという事実を確認する必要がある。日銀が量的金融緩和政策を拡大すればインフレ誘導は可能であると主張した者が多かった。黒田日銀はこの主張に乗って大規模金融緩和政策を実行した。しかし、インフレ誘導は実現しなかった。
上掲書に詳述したが、日銀が短期金融市場に流動性を大規模供給しても市中銀行が与信を拡大しなければマネーストックは増大しない。マネーストックが増大しなければインフレは実現しない。私はこのロジックによってインフレ誘導が成功しないとの見通しを示した。
現実にこの見通しは的中した。黒田東彦氏が「異次元バズーカ」などと称して短期金融市場に過剰な短期資金を供給したが、マネーストックは増大しなかった。結果としてインフレ誘導は実現しなかった。
2022年に激しいインフレが発生したのは二つの要因による。第一はウクライナ戦乱等の影響で資源価格が高騰するとともに欧米で激しいインフレが進行したこと。第二はコロナ資金繰り対応で無担保無利子融資が激増し、マネーストックがバブル期以来の高い伸びを示すとともに、日銀政策を背景に日本円が暴落したこと。アベノミクスが成功してインフレが実現したのではない。
アベノミクスが失敗に終わった後に、世界的インフレと国内の過剰流動性供給、円暴落によってインフレが発生してしまったということ。日銀の政策失敗が連続している。10年前の論議において間違っていたのは黒田氏と安倍首相だった。
このことを明確にすることが重要だ。
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