<国会議員に欠席率はない>ガーシー議員への招状こそ活動実態の証
藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]
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当選してから一度も国会に登院していないガーシー参議院議員に対して、尾辻秀久参議院議長は1949年以来、実に74年ぶりとなる「招状」を発出するという。
前回、すなわち1949年の「招状」は、橋本保、西園寺公一、来栖赳夫、平野善次郎の各4名に発出されており、ガーシー議員は史上5人目。前回4名の欠席理由はいづれも「病気」であり、無断欠席ではなく「請暇の願い」が提出されている(が、認められなかったのだろう)。
ちなみに、西園寺公一氏はその名前からもわかるとおり、祖父は明治の元老・西園寺公望元首相で、名門貴族である西園寺家の嫡男である。戦中は、近衛文麿内閣のブレーンを務め、戦後の第1回参議院議員通常選挙に無所属で出馬して当選している。来栖赳夫氏は元大蔵大臣(財務大臣)、平野善次郎(元農林政務次官、元青森県副知事)と、前回の発出された「招状」の宛先は、なかなかのラインナップである。これは、当時の国会には、どんな議員に対しても等しく対応するという矜持があった、ということの現れだ。
一方で、同じ病気を理由にして国会(1986-1990年)を全て欠席した田中角栄元首相には「招状」は発出されていない。また、他にも毎回居眠り写真が拡散されているような「テレビに映る本会議には出席しているけど、実質参加してない常連居眠り議員」たちへは注意すらない。しかし、まだ国会期間が終わっているわけでもないガーシー議員に対しては、懲罰まで取り沙汰されている。同じような状態でも議員によって対応を変えるのが現在の国会運営のあり方だとしたら、フェアではない。
ところで、理由はどうであれ国会を欠席している議員は少なくないが、なぜかそれが話題になることは少ない。むしろ、ガーシー議員によって、初めて話題になったぐらいの印象だ。さすがに「本会議での居眠り常連議員」は国民を馬鹿にしすぎているので話題になるが、そもそも議員たちの「欠席率」の把握は難しい。
というか、国会議員の欠席率はそもそも表に出てこない。なぜなら、「国会議員の欠席率」を集計している統計が存在しないためである。この事実に驚く人は多いはずだ。
[参考]<国会の信頼性?>欠席常連議員・居眠り議員はガーシーを懲罰できるのか?
国会議員が参加しなければいけない会議はさまざまにある。言うまでもなく、それは国会中継で目にする衆参両院議場での「本会議」だけではない。むしろ、各種委員会や中小の会議の中にこそ重要な案件、私たちの生活に関わるような案件が山積していると言っても過言ではない。しかし、国会の事務局が、国会議員たちがどの会議に参加し、出席/欠席しているのか、ということを把握し公開する機能は見当たらない。もちろん、議事録は公開されており、誰でも検索可能であるが、そこに記載されているのは「出席者名」だけであり、欠席者名が記されることはない。つまり「欠席者名簿」はない。
欠席者名簿がないにも関わらず、なぜ、ガーシー議員は本会議の欠席率だけをカウントされ、懲罰されようとしているのか?
この理由は簡単である。
言うまでもなく、ガーシー議員の情報発信が大量かつ頻繁で、常にその一挙一動が注目を集めているためである。「ドバイに在住」していることも、「登院していない状態」であることも、動画や発言を通して、国民に対して広く公開されてしまっているからに他ならない。
一方で、ガーシー議員に「招状」が出された今も、もしかしたら、「視察」と称して長期の海外旅行を楽しんでいる国会議員はいるかもしれない。あるいは、過去にそういう議員はいくらでもいただろう。しかし、そういう議員たちが欠席を探知され、問題化することはない。なぜなら、有名でもなく、情報発信もせず・・・の状態であれば、その議員がいるか、いないかなど、誰も知りようがないからだ。欠席者名簿がない以上、政党や議員自身の情報発信がなければ、わたしたち国民は知る術がない。
言い換えれば、ガーシー議員は、自ら進んでい情報発信、情報公開をしているからこそ欠席が発覚(あるいは自ら公開)し、問題視される結果となっているわけだ。もし、当選後にダンマリを決め込み、情報発信を辞め、さも国会にいるような静かな態度をとっていれば、ここまで問題化することはなかったのではないか。予告なく飛行機で帰国し、直行で登院し、顔だけ出して出席をアピールし、即日直帰・・・のような荒技だって、やろうと思えばできたはずだ。それぐらいの旅費はNHK党は簡単に出せるだろう。
田中角栄元首相のように「当選後、病気になった」と言えば許されるのであれば、「招状」発出までの期間を大きく伸ばすことができたいのではないか。田中角栄氏の前例にならえば、少なくとも4年は伸ばせる。
しかし、そういう姑息な技を利用せず、まじめに国会議員として国民に情報発信をし続けた結果、欠席がやりだまにあがり「招状」発出になったのだとしたら、「国会議員は静かに黙っている方が得」「フェイク出席してれば無問題」になってしまい、悪い前例になりかねない。事実、岸田内閣が発足当初に支持率が高かった最大の要因は当初は「何も発せず、何もせず」だったから、と言われている。何かするごとに支持率を落としていったことは誰もが知るところだ。
悪い前例を作らないためにも、国会議員の出席率を問題にするなら、より正確な統計、データでチェックをしなければ意味がない。少なくとも以下の4つぐらいは平等に公開し、評価の指標にしなければフェアではない。そうでなければ、大きなバックグラウンドを持たない小政党イジメ、新人議員イジメである。
*国会内で参加している全会議数とその出席率の公開
*本会議とそれ以外の会議の欠席率の比較の公開
*会議における居眠りが発覚した回数の公開
*動画(総時間)、文章(総文字数)等による非対面での情報発信実態とアクセス数の公開
現在の法令では、国会議員のオンラインでの国会登院が認められていない。もちろん、技術的・システム的な問題がさまざまにあることは理解できるか、だからと行って、全面的に「オンラインで活動している議員=議員の仕事をしていない」と断罪するのは時代に逆行する。逆に、居眠り議員などは、居眠りしている時間分は歳費(給料)から差し引くべきではないのか? 物理的な登院だけが議員活動の実態だというのであれば、日本の国会議員は猿でもできるし、居眠り状態でも出席カウントというなら、仮死状態、脳死状態の人でも許されることになってしまう。
ガーシー議員は、オンラインでの議員活動や情報発信を積極的にやっているからこそ、その「欠席率」が明らかとなり、批判をされている。黙っていれば欠席率など誰も把握できない。田中角栄元首相のような有名人でさえ、「当選後、一度も登院しなかった国会がある」という事実は意外と知られていない。
「登院していない=欠席=議員の仕事をしていない」というロジックでは、国民の声も民意も永久に届かない。もちろん、1年生議員であるガーシー議員のやり方が全面的に正しいとは思わないし、今後、学び、成長することが期待されるが、それでも、ガーシー議員の登場が我が国の歪んだ国会運営・議員評価に与えたインパクトは大きい。
この現実を国会運営当事者だけでなく、わたしたち有権者も気づき、声を上げる時期に来ているのではないだろうか。ガーシー議員の欠席問題を通してそれに気づいてほしいものだ。
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