<弁護士広告は依頼者のため>弁護士法人ユア・エース代表 正木絢生氏が語る業界の課題と展望

社会・メディア

ノバック友里恵(ライター)

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弁護士と聞けば、何を思い浮かべるだろうか。弁護士資格はとってしまえば食うに困らない安定した資格。そんなイメージを持っている人だっているだろう。

しかし、今日の弁護士業界の実態はそれとは大きくかけ離れているとも言われる。安定した資格どころか、食うに困って資格を悪用した犯罪に手を染めてしまう映画のような悪徳弁護士も実際に存在している。

最近では2025年1月に、74歳の弁護士が非弁行為で書類送検された。逮捕された弁護士は、弁護士資格を持たない貸金業者から多重債務者の債務整理の斡旋を受けた、いわゆる「非弁提携(弁護士資格を持たない者が、弁護士と提携して違法に法律業務を行うこと。弁護士法第72条違反。非弁護士が弁護士と組んで違法に法律相談や代理業務を行うことなどが代表例)」である。

この弁護士の男性は自らの犯した罪を素直に認めているというから、全てわかった上でのこと。うっかりミスでも「提供業者に騙された」というわけでもないようだ。そしてこのような罪を犯してしまった理由として「マーケティングが難しく、貸金業者に頼らないと運営ができなかった」と述べていることからも、経営に行き詰まり、犯行に及んだと自供しているわけだ。

司法制度改革により、日本の弁護士人口は急激に増加している。2004年に2万人ほどであったが、2024年版弁護士白書によると4万5808人と、20年間で倍増している。先ほどのような事例は、実はいつどこで起きてもおかしくないのだ。

その意味では、弁護士事務所も積極的な顧客サービスや、専門性や得意分野を開拓したブランディングを推し進めていかなければならない、弁護士戦国時代に突入していると言えるかもしれない。

近年、弁護士実業家として急激にビジネスを拡大している代表的な人物といえば、弁護士法人ユア・エースをはじめとしたユア・エースグループを率いる正木絢生弁護士だ。2018年に自身の弁護士事務所を立ち上げ、急速に事業を拡大させ、現在では弁護士法人ユア・エースを核として、司法書士法人(登記、債務整理)、行政書士法人(行政書類作成)、調査会社(探偵、興信所)、株式会社(不動産・経営コンサル・広告)など、5つの法人を束ねる。

弁護士法人だけでも25人の弁護士を擁し、国内7拠点を構える。弁護士人口の増加による過当競争などはどこ吹く風といった印象だ。そこで本誌では、正木絢生弁護士に現在の弁護士業界のあり方について話を聞いた。

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(以下、インタビュー)

ライター・ノバック友里恵(以下、友里恵):アメリカでは、テレビでもネットでも、弁護士のCMをよく目にします。日本では2000年に弁護士の広告が自由化されましたが、このあたりについて正木先生のお考えをお聞かせください。

ユア・エース代表・正木絢生弁護士(以下、正木):日本でもここ数年でネット、特に動画サイトを中心に広告を出す弁護士は増えました。法律解説、事件解説などの動画配信をしている有名な先生は多いですが、これらも広告としての役割が大きいと思います。わかりやすい法律解説動画などで弁護士を知り、「この人なら・・・」と連絡をするケースは多いと聞きます。

友里恵:検索すると本当に多くの弁護士が出てきますので、いったい自分は誰に相談すれば良いかわかりませんからね。ネット動画はファーストステップとしては非常に重要だと思います。ユア・エースの場合、広告とはどのようにつきあっているのでしょうか?

正木:私たちユア・エースは積極的に広告を活用している事務所だと思います。Web広告を使ってマーケティングを行っています。

友里恵:弁護士のトラブルには広告が絡んでいるケースが少なくないとも言われていますが、このあたりはどうお考えですか?

正木:ごく一部の弁護士や法律事務所のせいで、広告を起因とする悪質な処理が話題になったり、事件化することがあります。こういう事例は非常にスキャンダラスでもありますので、そのせいで「弁護士広告=怪しい、悪」とみなす傾向は、弁護士業界の中にもあることは事実です。しかし、それは、トラブルを起こした弁護士が悪質な方法で広告を利用したからにすぎず、広告自体が悪いわけではありません。

友里恵:包丁の使い方と同じ理論ですね。犯罪に使ったからといって、包丁自体が悪いわけではない、と。

正木:その通りです。しかも、トラブルや事件の実態を見てみれば、問題の本質は広告ではない場合がほとんどです。もちろん、近年の急激な弁護士人口の増加も背景にはあるでしょう。人口が増えればそれだけ悪い人や不誠実な人も増えます。広告が誤解を生む・・・ということもありますので、広告は影響力がありますが、注意も必要です。

友里恵:ユア・エースの急成長の背景にも広告の影響はある?

正木:はい、そうだと確信しています。なぜなら、私たちが短期間で急成長できた最大の要因は、「多くのご依頼者様からの支持」にあり、そのご依頼者様と接点を持てたのは広告のおかげだからです。私たちは広告を売名とか誇大広告などではなく、「ご依頼者様にとって有益な情報、解決の糸口」のために出稿しています。ご依頼者様は、ユア・エースの最初の接点である広告の段階で、問題解決の第一歩になっていることになります。

友里恵:具体的には?

正木:私たちは、広告をマーケティングの手段というよりは、トラブルで困っている人たちに手を差し伸べるための手段として活用しています。ユア・エースの弁護士業務は、広告を見てもらうところから、すでに問題解決が始まっているのです。もちろん、結果的に私たちに依頼をしない、他事務所に依頼する、ということも十分にあり得ますが、私たちの広告がきっかけになって、問題解決の第一歩を踏み出してもらえればえれば、それで目的は達成しています。

友里恵:顧客のためを思って広告を出稿している、ということでしょうか。

正木:その通りですが、私たちはそれを「顧客ファースト」と称しています。これは弁護士会自体が完全に見落としている要素だと思います。私たちは、顧客ファーストで、どんな状況、どんな場面でも困っている人を救いたいと考えています。

友里恵:弁護士が「困っている人を救う」というのは当たり前のように思いますが、そのことが抜けている?

正木:これは実際にあった件ですが、ある地方の方から債務整理の相談を受けました。債務整理はなぜか「直接面談義務」というものが弁護士会で定められていて、電話やネットでの面談は許されていないので、受任するためには直接会わなければならない。その方は遠方で、すぐに伺うこともできなかったので、まずは、その方の住んでいる地方の弁護士会の会長宛に、誰か現地で弁護士を紹介できないか、私たちは料金はいらないので、対応してくれないか、と手紙で相談をしました。そうしたら、その会長でも弁護士でもなく、事務員から冷たい断りの連絡がきました。その時は本当におどろきました。

友里恵:テリトリー意識が強いのですかね?

正木:それもそうでしょうけど、弁護士会には「顧客ファースト」の意識が全くないのです。そして、そういう弁護士が、やたらと広告に批判的だったりします。

友里恵:弁護士が完全に地元での利権ビジネスになっているわけですね。

正木:そもそも適切にマーケティングをしないからこそ、ご依頼者様が事務所に集まらない。その結果、弁護士の働き口が少なくなるので、優秀な弁護士はいうまでもなく、そもそも若い弁護士や新規参入しようとする意欲的な弁護士はどんどんいなくなる。そうなると、救えるはずだったご依頼者様も救えなくなるわけです。

友里恵:完全に悪循環ですね。

正木:弁護士業界には、これまで「正しい競争による切磋琢磨」というものが存在していませんでした。それが2000年代になって、弁護士の広告が自由化されたり、動画配信やSNSが一気に盛り上がったりするなかで、弁護士業界に「競争による切磋琢磨」という黒船が登場してきました。多くの弁護士事務所がその荒波に果敢に挑んでいる一方で、黒船の到来自体を信じない、見なかったことにする、批判するという弁護士もまだまだいて、そういう人たちが足を思いっきり引っ張っています。私たちがまず目指していることは、「適切ではない事務所」がはびこらない様にも、切磋琢磨して業界全体のサービスを向上させたい、ということです。これは本来、弁護士業界全体が進まねばならない方向です。

友里恵:それが「顧客ファースト」というわけですね。

正木:その通りです。「顧客ファースト」であれば、そもそも広告は法律トラブルを抱える人にとっては、悩み解決のきっかけにはなっても、トラブルの要因になどなり得ません。広告トラブルが起きること自体、その出稿者が「顧客ファースト」ではない、ということの証明かもしれません。もちろん、「顧客ファースト」というのは、それこそご依頼者様の最初の接点である広告の段階から始まっています。例えば、私たちユア・エースは、スマートフォンで簡単に見ることができるような媒体に積極的に出稿しています。

友里恵:正木先生の「顧客ファースト」のお考えはまだまだ弁護士会には浸透していない?

正木:厳しいですね。先ほどの地方の債務整理で断られた話がわかりやすいのですが、弁護士が少ない、いないような地域で困っている人はいったい誰に助けてもらえばいいのか?地元の弁護士に断られ、遠方の私たちがオンラインでの対応は許されない、となったら、その人は救われることなく放置されてしまいます。本当に憤りを感じます。「顧客ファースト」に立てば、オンライン面談は必然ですから。広告も同様です。救えるべき人を救うために、私たちは広告を積極的に利用したいと考えています。

友里恵:将来的には弁護士会全体の改革にも進まねばならない話だとは思いますが、最後に、ユア・エースとして取り組みを聞かせてください。

正木:これまでユア・エースに蓄積してきた経験やノウハウを、積極的に所属弁護士に継承できるような仕組みを作ることで、弁護士の業務スキルやサービス能力だけでなく、顧客満足度も高めています。弁護士法人ではありますが、顧客ファーストに加え「サービスをより身近に」をスローガンに事務所を拡大し、事務所全体でサービスの向上に努めています。そういった取り組みをしているユア・エースがビジネス的にも成功し、規模も大きくなり、これまで以上に知名度があがってゆけば、後に続く事務所や弁護士も増えると信じています。そうなれば、弁護士会や弁護士業界全体も「顧客ファースト」へと変化していくと確信しています。

(以上、インタビュー )

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SNSや動画配信などデジタルを活用した新たな接点が生まれ、弁護士との関わり方が多様化している。しかしその影で、顧客確保に苦労している法律事務所や、十分な法律サービスを受けることができない依頼者の増加など、弁護士業界の二極化も進んでいる。

もちろん、訴訟大国アメリカのように、弁護士の過当競争が良いとは言えないが、逆に日本の弁護士業界には「正しい競争」がないこともまた事実。日本人の国民性や価値観に合った弁護士の在り方とはなんなのか。今回の取材を通して考えさせられた。

正木弁護士が推し進める「弁護士サービスをより身近に」するための広告利用と、顧客ファーストをスローガンにした事務所経営は、これからの日本の法律事務所にとって大きなヒントになるはずだ。

 

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