<弁護士業界の革命児 ユア・エース正木絢生弁護士にきく>若き経営者弁護士が目指す市民ファーストの弁護士業界

社会・メディア

時田秀一(ライター)

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一般民事と債務整理を中心とした法律業務で急成長している弁護士法人ユア・エースグループが話題だ。代表弁護士を務める正木絢生弁護士は、20名を超える弁護士を抱えるだけでなく、司法書士法人ユア・エース、行政書士法人ユア・エース、ユア・エース エージェント(調査会社)、株式会社ユア・エース(不動産等)と法律隣接業の複数の法人を束ねる。

2018年の創業からわずか6年で急速な成長の原動力は、グループを率いる正木絢生弁護士の圧倒的な行動力であろう。テレビ、ラジオ「ゆっきーのCan Can do it!」、雑誌などの各種メディアに積極的に出演するだけでなく、自身でも身近な法律問題を楽しく学べるYouTubeチャンネル「マサッキー弁護士チャンネル」を開設し、法律に関する発信も手掛ける。
一方で、現在の弁護士業界や法律業務に対する規制やルールをよりよくしたいと積極的な意見を出していることでも知られる。

ただ、正木弁護士は、弁護士業界の改革や若手弁護士が活躍できるチャンスの拡大などを推し進めるという意図があって現在のスタイルでの情報発信をしているわけだが、誤解されることも多いのだという。
そこで本稿では、弁護士業界の革命児とも言える正木絢生弁護士に、現在の弁護士業界について忌憚なく語ってもらった。

(以下、インタビュー)

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本誌ライター・時田秀一(以下、時田):正木先生は様々なメディアで情報発信をされています。硬軟おりまぜ、さまざまな形でメッセージを出していることに、賛否両論はあると思いますが、その目的、真意はどこにあるのでしょうか?

正木絢生弁護士(以下、正木):多くの人に法律のことを知ってもらいたい、弁護士をもっと気軽に利用できるように敷居を下げたい、ということが目的です。しかし、それ以上にわたしが意識しているのは、弁護士業界そのものがもっとご依頼者様の利便に資することを最優先に考えて欲しい、 と感じています。社会通念や時代背景からも、もっと業界をよくしていく方法は多分にあると思います。そういった現状を広く知ってもらうことで少しでも改善が進めば、広く市民に寄り添える、より良い弁護士業界になっていくと思います。

時田:弁護士業界には、時代にあっていないことが多くあるのですか?

正木:はい、多いですね。わたしたち弁護士は各都道府県の弁護士会に所属しているのですが、その弁護士会が独自で設けているルールがあります。中には時代錯誤と言わざるを得ない古いルールや考え方もあります。そして、弁護士は保守的で、内部からそういったことを変えようという動きは感じられません。わたしとしては、最優先に考えるべきはご依頼者様の利便であり、害するルールは改善すべきだと考えています。それを弁護士会の中と外の両面からいろんなアクションを加えて変えていきたいと考えて情報発信しています。

時田: 具体的にはどのようなことがあるのでしょうか?

正木:代表的な例でいえば、わたしたちユア・エースが得意としている債務整理の業務に関してですね。債務整理のご依頼を弁護士が受ける時、ご依頼者様は原則弁護士と直接面談をして契約を結ぶ必要があります。これは債務整理に限った話です。弁護士による債務整理業務が浸透してきた15年前くらいにできたルールが未だに生きています。

時田:それはなぜなのでしょうか?

正木:最初にそのルールができた理由としては、債務整理の業務がビジネス的に扱いやすいということもあり、弁護士が不在で対応する、いわゆる非弁行為などトラブルの多い事務所が横行し、それを規制する目的があったとは思います。ただ、インターネットの普及によりご依頼者様は自ら情報を得ることができるようになり、そういった一時期の風潮が沈静化しました。また、コロナ禍以降の話ですが、裁判所もオンラインによる裁判を導入しています。時代がこれだけIT社会に変化しているにもかかわらず、15年も前にできたルールがいまだに残っている。そのこと自体がそもそも課題だと感じています。誤解がないように言うと、わたしたちは現行のルールを遵守しています。だからこそ、その必要性に疑問をもっているわけです。

時田:そのような現状において正木先生はどういった取り組みを考えていらっしゃるのでしょうか?

正木:わたしたちユア・エースは、質のよいリーガルサービスを全国のご依頼者様に届けたい、選択肢の一つとして欲しいという思いで活動していますが、このような活動が、「弁護士らしくない」とか「地方の弁護士の仕事を奪っている」と、残念ながら一部の弁護士から批判的な見方をされているそうです。わたしたちは、債務整理業務を得意とし、スピード感を持って業務を処理できるスキームを確立しました。わたしたちが常に掲げているのは「顧客ファースト」で、ご依頼者様のニーズに応えられるように、優秀な弁護士を雇用し、常に全国を飛び回っています。また、ご依頼者様の求めるスピードに、より対応できるように、東京を本店として、福岡、名古屋、大阪と支店を増やしてきました。現在、金沢、沖縄への出店も決まっており、今後も支店を増やしていく予定です。

時田:それにしても時代がこれだけIT社会に変化しているにもかかわらず、原則直接面談といった15年も前にできたルールがいまだに残っているという現状を見ると依頼者の都合は無関係なんですね。

正木:無関係どころか、不利益になっているとわたしは認識しています。原則として直接面談義務を定めた規程が、債務整理の業務をやりにくくしている事実は間違いありません。例えば、弁護士がほぼいないような地域もあるでしょう。そんな中で弁護士を探すとなると、選択肢は本当に少なくなります。選択の幅が狭まれている、これはご依頼者様にとっては大きな不利益です。別の視点で、面談中に「この弁護士嫌だな」と思ったとしても、密室で2人きりという状況できっぱり断れますか?と思います。このようにご依頼者様の目線で考えるといかにおかしいルールだということがわかってもらえると思います。

時田:弱い人を守る、という弁護士本来の姿勢から外れたように思いますよね?

正木:その通りです。ご依頼者様にも弁護士を選ぶ自由があります。どこに住んでいても、自分が納得できる弁護士に依頼する権利は皆さん持っているはずです。しかし、このようなルールによってそれが狭められている。本来であれば、直接合わなくても、Zoomや電話などで相談できますし、実際、それで問題なく法律相談はできています。債務整理業務にだけ着目し、直接面談義務を課していることに、わたしはどうしても違和感を覚えます。そもそも、借金問題というのは、家族に知られずに解決したいと思っている人は多いです。債務整理以外の案件であれば、ご依頼者様が希望をすれば、インターネットで弁護士とマッチングして、電話で相談、ウェブで契約書を締結して完了することも可能です。しかし、なぜか債務整理だけは原則直接会わないと契約できないわけです。物理的に自分が外に出て弁護士と面会しなければならないというのは、周囲に知られずに契約をしたいというご依頼者様の利益も侵害しています。

時田:そうですね・・・一番、誰にも知られたくない問題です。

正木:ご依頼者様は返済のために仕事を頑張っている人が多いです。副業をして、土日も詰め詰めで仕事しているような人は、弁護士事務所が空いている時間に行くことなんてできないんです。有給を取るとか、無理をしないと面会できない。そういった不利益もあると思います。実際に、離島にお住いの方で、飛行機は高額だとして1日1本しかない船で移動するため、面談のためだけに2泊3日の行程を組まれているご依頼者様がいました。当然ですが、その間の仕事は休まれたと言ってましたし、わざわざお洋服も新調されたご様子でした。「どこで噂が立つかわからないから近くの弁護士には頼めない」と言っていたのが印象的です。せめて、ご依頼者様が選択できるようにするとか、弁護士会のルールには改善が必要です。

時田:生の声を聞くとより考えさせられてしまいますね。今後、債務整理の弁護士業務をオンラインやZoomなどで完結できるようにするために、どのように働きかけていきたいと考えていますか?

正木:弁護士会の中と外の二つの軸があると思います。外、つまり世間一般の常識からいえば、今、わたしが話したようなことを聞いてもらえれば、誰だって「変だよね」って分かって頂ける。この情報を確実に知ってもらうために、積極的に情報発信をしていきたいと思います。逆に弁護士会の内部については、かなり難しいですね。弁護士であれば、当然、このルールはみんな知っています。問題点を理解している先生も多いでしょう。しかし、知ってはいるけど声をあげにくい。まずは、弁護士会内で「それをおかしい」と言える空気を多数派に持っていきたいと考えています。これが大きなハードルです。

時田:なにかと発言しづらい雰囲気が弁護士会の中にはあるわけですか?

正木:ものすごくあると思います。弁護士業界は、保守的で古い業界ですから、何かを変えようと意見することがものすごくしづらい空気感があります。

時田:そんな中でも、正木先生が声を上げ続けている理由は何ですか?

正木:一番の理由は、今、わたしたちユア・エースにご依頼を頂いている方々の利益のためです。現状ではご依頼者様は十分な利益を受けられないどころか、不利益を被っている。そこを変えたいですね。もちろん結果的には、ユア・エースの経営者として、事務所の従業員、メンバーを守るという狙いもあります。

時田:正木先生の考えに共感される弁護士の方というのは多いのですか?

正木:潜在的にはたくさんいると考えています。ただ、声を上げづらい、賛同しづらいという現実はあるので、このあたりが今後の課題と思っています。

時田:最近では、ご自身のYouTubeチャンネルを開設するなど、ユニークな発信活動もされています。まだ試行錯誤だとは思いますが、今後どのような発信を予定されているのでしょうか?

正木:Youtubeの立ち上げ当初は「借金問題はどうすれば解決するの?」とか「借金は放置するとヤバイよ」といったような身近な動画を扱おうと思っていました。しかし、最近ではより敷居を下げて、海外の変な法律の紹介とか、身近な豆知識を入れたコンテンツも発信しています。

時田:一般の方々からすると、法律はどこか難しくて、取っ掛かりづらいイメージがあるので、ユニークな話題から入ってくれると、見やすいですよね。

正木:わたしの理念として、弁護士の敷居を低くしたいということがあります。ちょっとした疑問や悩みも気軽に弁護士に相談していいんだ、と思えるぐらい、弁護士を身近に感じてもらいたいですね。

時田:一方で、正木先生の発信は一般向けではなくて、潜在的な仲間達の弁護士にも向けられていると思います。今後はYouTubeなどでも、弁護士に向けて発信するようなコンテンツを出していかれるのでしょうか?

正木:はい、それも考えています。将来的には、弁護士に向けた発信もしたいですね。

時田:現状の弁護士業界における債務整理業務に関するお話を伺いましたが、他にも正木先生が問題点、改善点だと思う箇所はどこでしょうか。

正木:弁護士は所在している都道府県の弁護士会に入らないと事務所を構えることができないという点も問題です。例えば、わたしがある地域で支店を出したいと考えたとします。しかし、支店を出したいと思えば、支店長となる弁護士がその県の弁護士会に入会をしなければいけません。しかも、いきなり弁護士会に入れるのかと言えば、ノーです。弁護士会によっては入会するハードル自体が高いところもあります。また、入会金が非常に高いケースもあります。

時田:それだと自分が希望する地域に支店を出せないこともありますね。

正木:それだけではありません。紹介者が必要、という弁護士会もあります。その地域の弁護士会に所属している弁護士2人を紹介者にしなければならない、などと言われるわけです。こうなると、もう、その地域に何かゆかりでもなければ支店を出すことはできません。これについては「その地域で働く弁護士の既得権益を守るためではないか」といった意見もありますが、わたしはそうは思いません。ただ、皆他人事で保守的な要素が強いのだと思います。ご依頼者様の声に耳を傾ければ、改善が必要であることは明らかで、どんどん声を上げていきたいと思います。

時田:業界の課題は山積みですね。最後に、正木先生が将来的に目指していきたい姿、実現したい未来についておきかせください。

正木:弁護士業界にも新しいものをどんどん取り入れることができるようにしたいですね。IT業界の成長と同じぐらい、弁護士業界もしっかりと新しいものを取り入れ、正しく成長していけるような体制を作りたいです。社会では利用者の利便性を高めるため、企業がすさまじい努力をして成長しています。弁護士業界もそうあるべきで、それが社会と弁護士業界のずれをなくして市民ファーストにつながり、本来の弁護士としての役割を果たせると考えています。

(以上、インタビュー)

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弁護士会の作るルールが、依頼者の不利益にも繋がっているといった現状をはじめて知った読者も多いのではないか。コロナ禍ですら、債務整理業務では直接面談が義務付けられていたことに驚かされる。

本誌では、市民ファーストの弁護士業界を目指し発信し続ける弁護士法人ユア・エースグループの経営者弁護士である正木絢生氏のインタビューを通して、今後も弁護士業界について考えていきたいと思う。

 

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