NHK「あさイチ」の悔しくなるほどの絶妙なキャスティングのバランス
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
***
9月28日放送のNHK「あさイチ」を見た。スタジオにいるのは有働由美子アナウンサー、井ノ原快彦(V6/20th Century)、青木さやか、坂下千里子、山崎マリ(漫画家)、柳澤秀夫解説委員の5人である。
この5人の選び方が非常にセンスがある、と筆者は思う。キャスティングというのはこうありたいという見本のような人選である。以下、その理由を記す。
- 見ていて嫌悪感や生理的に受け付けないという反応を示される人が全くいない。朝の番組では大切なことである。私はそうは思わないという人が必ずいるから書いておくが、嫌悪感や生理的に受け付けないという反応を示される割合がきわめて低い
- 役割の棲み分けがきっちり出来ている。青木さやかはトゲを刺す人、山崎マリはこの人なら意見を聞いてみたい人、坂下千里子は思ったことを躊躇しないで口に出す人である。いったい、番組出演者には「仕切る事で価値のある人」と「存在することで価値のある人」の2種類しか必要がないというのが持論であるが、この「存在することで価値のある人」を複数番組に置こうと考えたときに、その棲み分けが上手くいくことは滅多にない。ひとりは枯れ木も山の賑わいになってしまう。それが、9月28日の「あさイチ」にはいない。
- 坂下千里子が良い。坂下千里子はTBS「王様のブランチ」のリポーター出身である。番組立ち上げ当初、この人は、性格のよい子だとは分かるのだがリポートはできなかった。ある日、チーフ格の女性ディレクターが「女の子が2人でリポートする」と言う方法を発明した、これは偉大な発明である。掛け合いにすることで、リポートの下手さが消えた。坂下千里子の何でも躊躇なく発言する特性も生かされることとなった。ギャラは2倍かかるが、複数リポートという形が番組を安定させた。その坂下千里子が、お母さんになってさらに良くなっているのでびっくりした。
- 山崎マリが珍しい。あまり他の番組では見ない。しかも、発言すべてが的を射ている。
民放の朝の情報番組と比べると、ギャラの必要な人が3人も出ているのは、予算上NHKだからできるのであって、民放では無理と思う人がいるかも知れないが、青木さやか、坂下千里子、山崎マリの3人なら、そんなに莫大なギャラはかからない。
ところで「あさイチ」を見ていると、僕は少し悔しい気持ちになることがある。なぜなら、筆者はTBSの「はなまるマーケット」をやっていたからである。
「はなまるマーケット」はMCのコンセプト、内容のコンセプト、すべてを持って行かれて、その上でNHKの制作能力に負けて退場するしかなかったからである。
もうひとつ、「はなまるマーケット」には精神のコンセプト、志のコンセプトというのもあったのであるが、近頃、番組を見ていると「あさイチ」には、それもバレているのではないかとさえ思う。
どういう志のコンセプトだったかは悔しいから書かない。それは最後の頃はTBSでは、忘れられていたコンセプトだった。
【あわせて読みたい】