<タレント重視より企画重視を>すぐそこまで来ている「民放がNHKに視聴率で完敗する日」

テレビ

高橋秀樹[放送作家]
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今、テレビ業界で一番、新しい番組企画が揃っているのはNHKである。
民放のバラエティでは『鉄腕ダッシュ』(日本テレビ)がひとり気を吐くだけである。視聴率の良い番組でも構造に飽きてきた番組や、工夫のないパクリ番組が並ぶ。
テレビ界は、ITなどの新しいシステムを導入するのが下手な業界である。これまでの処、業界で「偉い人」として威張っていたのは大体が昭和30年生まれ以前の人たち。この昭和30年という年は、コンピュータが使えるか使えないかの分岐点になっている年齢であるように思う。
筆者の友人に昭和30年生まれで、理科系バリバリの大会社で執行役員になった人物がいるが、彼はエクセルもパワーポイントも使えない。そういう資料は「部下が全部作ってくれたからなあ」と言っていた。
ゆえに、テレビ局でも、マーケティングが何かをわかっている人物はいかにも少ない。マーケティングは当然、統計の一種だが、統計が純粋学問への利用だとすればマーケティングは市場調査というより販売戦略の武器である。
よって、マーケティングは自分たちに都合の良いように改変できる。テレビ局で言えば、「この番組をやれば御社の商品の売上が上がります」というようなデータをメイクできるのがマーケティングだ。しかし、マーケティングをテレビ局がそういう使い方をしているというのは聞いたことがない。大体、マーケティングの元になるデータは広告代理店に丸投げでもらっていると思われる。
電通や博報堂といった広告屋さんはマーケティング使いの手練であるから、これらの人々に民放テレビの人が騙されているのではないかと不安でならない。
テレビのマーケティングでは、年齢層と性別ごとに以下のような区分になっている。

  • C層:4〜12歳の男女(Cは英語で子供を表すChildの意味)
  • T層:13〜19歳の男女(TはTeenager[ティーンエイジャー]の意味)
  • F1層:20〜34歳の女性(Fは英語で女性を表すFemaleの意味)
  • F2層:35〜49歳の女性
  • F3層:50歳以上の女性
  • M1層:20〜34歳の男性(Mは英語で男性を表すMaleの意味)
  • M2層:35〜49歳の男性
  • M3層:50歳以上の男性

そもそも、こんな大雑把な区分けで良いのか? という疑問がある。通常は、たとえばF1 でテレビを見た人(実験群)と、F1でテレビを見なかった人(統制群)の調査をして比較検討しなければ、なにも分からない、というのが統計の常識である。
民放はこんな「おざなりマーケティング」と、二匹目、三匹目を狙った安全策でばかり番組を作るから、どこかで見たような番組ばかりになる。その点NHKは、あの、悪しき噂の経営委員や、会長に反逆して逆張りすれば良い企画が生まれる。企画重視で番組が作れる環境があるのはNHKだけなのかもしれない。
民放の番組は、「企画より、タレント重視」という側面を持っている。もちろんタレントと企画が合致すればお化け番組が生まれる。ということは、結局、どんな大物タレントでも良い企画は不可欠なのである。制作費が少なく、大物タレントを使えない局があった。筆頭はテレビ東京、そしてテレビ朝日。これらの局は企画で番組を成立させるしかなかったわけだ。
テレビ全体の視聴率が下がっていく中、テレビ東京とテレビ朝日が、頑張っているように映るのは、企画で当てた番組が今も続いていて、まだ飽きられてないからである。視聴率が上がったわけではない。維持しているだけだ。
報道番組は今でもNHKの勝ちである。何しろ取材力が違う。金のかけ方も違う。民放がこれに伍すには、系列の新聞社の取材網と手を組む以外にない。NHKは民放の真似をして始めたキャスターニュースをやめればもっと良くなる。
情報番組は『あさイチ!』の一人勝ちで、NHKの存在感が出ている。テレビ番組には品行方正よりも破調が必要だが、この番組にはNHKで一番の破調アナウンサー・有働由美子が居る。
ところで、筆者の専門のバラエティ。これには不良っぽさがどこかしら必要だから、そこを思い切って、民放では今はもう作れなくなってしまった「テレビショウ」を作れば、こちらもNHKが勝てるのではないだろうか。しかしながら、筆者としては、民放が勝つほうが、日本はうまくゆくのではないかと思っている。
 
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