<超特急が銀行とタイアップ?>三菱UFJ銀行がZ世代「推し活」市場に参入

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岡部遼太郎(ITライター)

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「推し」の存在は、現在、日々の活力と言われる。推し活総研総研(株式会社CDG)が行った調査によれば、国内の「推し活人口」は約1384万人と推定され、その市場規模3.5兆円にも登るという(15〜69歳の日本在住男女23,069人対象)。

一人平均で25万円を超え、Z世代にとって「推し活」は特別なものではなく、生活消費の一部となっているといえるだろう。物価高な中でもZ世代が、推し活グッズに惜しげもなく万単位の出費を厭わないのだから驚きだ。

楽しい推し活の裏にはいつもリアルな「お金」の問題がついて回っている中で、国内で急速に高まる投資や資産運用といったことへも興味を持たざるを得なくなっているのがZ世代の置かれた現状だ。

そういった巨大市場、潜在的な顧客としての推し活Z世代をとらえた、ユニークなキャンペーンを展開しているのが三菱UFJ銀行だ。一言で言ってしまえば、推し活と口座開設を連動させたファン共創型のキャンペーンである。日本最大の預金総額を誇るメガバンクである三菱UFJ銀行による「推し活Z世代」をターゲットにしたあまりに潔いプロジェクトに注目が集まっている。

<三菱UFJ銀行と超特急のタイアップキャンペーン>

2025年12月1日にスタートした「口座開設で、全国開通!!!!!!!!! 超特急タイアップキャンペーン」と名付けられた三菱UFJ銀行のプロジェクトは、Z世代から絶大な支持を集めているダンス・ボーカルグループ「超特急」とのタイアップ企画だ。「超特急」とは9人のメンズで結成され、電車をモチーフにしたユニークなグループだ。

それに伴いファンは「8号車」と呼ばれている。彼らの最大の魅力は、圧倒的なライブパフォーマンスとエンターテインメント性と言われている。個性の強いメンバーのコミカルな振り付けや、8号車との一体感を大切にした熱いステージングと「見る人すべてを笑顔にする」というコンセプトで、TikTokでも絶大な人気を集めている今話題のグループだ。

三菱UFJ銀行のような「お堅い」イメージのメガバンクがこういった思い切ったタイアップを仕掛けてくるあたりからすでに面白いが、その内容がなかなかファンには刺激的だ。
この情報が解禁されると、SNS(X、Instagramなど)では瞬く間に「口座作りたい」「ほんとに凄い!」「すでに持っている方もキャンペーンに参加できるのね。ありがとうございます。」といった歓喜の声が溢れ、大きな盛り上がりを見せている。

このキャンペーンでは、ファンの「応援」という熱量を「見える化」する、全く新しい「ファン参加型」の試みだ。メガバンクの企画とは思いづらい、非常にユニークなプロジェクトであると言えるだろう。

具体的には、キャンペーンの期間中に、三菱UFJ銀行で初めて普通預金口座を開設し、エントリーする、という極めて単純なもの。この「8号車」の一つ一つのアクションが「応援」としてカウントされ、超特急への推し活として直結する、という仕組みだ。「応援」の数=エントリー数+口座開設数が目標に達するたび、特別な動画が公開され、3,234(ミツビシ)件達成すると超特急の広告が日本全国へと文字通り「開通」する。超特急としては自分たちのアピールやコンテンツ発信の拡大になるし、「8号車」としては自分たちの熱量がそのまま超特急の活動支援につながるという魅力なキャンペーンだ。

(編集部註:本画像は許諾得て利用しています。無許可での流用はご遠慮ください。)

 

具体的には、キャンペーン参加者(8号車)の「応援」が888件に達した段階で「超特急からのメッセージムービー」がリリースされる。そして、2,000件の大台に乗るとキャンペーンの「メイキングムービー」が公開となる。そして目標件数「3,234件」に到達すると、「超特急からのメッセージムービー」超特急の広告が全国47都道府県の交通広告をジャックする、というものだ。ファン(8号車)としては、いわば「特典コンテンツ」を獲得するチャンスである。地方に住んでいるファンとしても、こんな機会はめったにないだろう。

自分の「口座開設」が、単なる銀行手続きで終わらず、「推し」が全国の駅を彩るための、直接的な「力」になる。自分のアクションが、推しの夢に直結する。ファンとしてはなかなかに熱い体験だ。しかも、銀行口座は個人でいくつも作れるものではないため、水増しができない実数だ。ファンとしては、自分以外に口座開設をしてくれる「あらたな8号車」を開拓するための布教活動にも熱が入るはずだ。

<ファン心理をくすぐる二段階キャンペーン>

キャンペーンでは、「口座開設コース」と「お友達紹介コース」の二つのキャンペーンが用意されている。すでに口座を持っている人も参加できる仕組みである。

まず「口座開設コース」の条件は、2025年12月1日から12月30日までの期間に、アプリ経由で普通預金口座の開設を完了させ、2026年1月9日までにキャンペーンサイトからエントリーする、というたったそれだけだ。この2つを満たすことで、推し活に参加したことになるだけでなく、「オリジナルステッカーシート」がもれなくプレゼントされる。さらに、目標数である「3,234件」を達成すると、口座開設コースの参加者全員に「ポストカード」と「コインシリンダー」が追加でプレゼントされるというから驚きだ。

そして「お友達紹介コース」はさらに推し活性が強い。家族や友人などにキャンペーンを紹介し、紹介された人が1人でもアプリ経由で口座を開設し、エントリーすれば、抽選で「限定カレンダー」が当たるというものだ。間違いなく、ファンであれば家族全員にお願いするはずだ。

<「推し活」を支えるためのアプリワンストップ戦略>

今回のキャンペーンのZ世代に最適化されたプロジェクトであることは、「アプリ経由で完結」という点に見られる。銀行といえば、「平日の昼間だけ(しかもわりと早く閉まる)」「待ち時間がある」「毎度求められる書類が面倒」「印鑑や本人確認書類が必須」「近くに支店がない」といった煩雑さがあった。銀行窓口に並んでいる人は、ネットの手続きなどが苦手な人が多い・・・という印象だろう。

一方で、あらゆることをスマホで完結させたい/させているのがZ世代である。従来型の銀行の口座開設や手続きなどは一番後回しにしたいものであるはずだ。しかし、このキャンペーンは、アプリ経由での口座開設が条件となっており、三菱UFJ銀行のアプリ「スマート口座開設」だけで口座開設が完結するアプリ・ワンストップ型がうれしいポイントだ。口座開設自体、銀行の店舗窓口に出向く必要はなく、もちろん印鑑も不要だ。スマホ一つで24時間365日、申し込みが完結するという点は、Z世代最適化を徹底している印象だ。

さらに、口座開設が便利なだけでなく、アプリさえあれば、当落確認後のシビアな入金期限にも、ATMに走ることもなく迅速に対応できる。しかも、条件を満たせば、提携先コンビニATMで、月2回まで手数料が無料であるという、銀行の支店に馴染みがないZ世代やATMが近くにない地方に住んでいる人でも利用しやすい絶妙なサービスも組み込んでいるあたりも見事な建て付けだ。

<推し活「使いすぎ」抑止にも有効なデビットカード>

デビットカードは、クレジットカードと違い、原則15歳(中学生を除く)から審査なしで持つことができる。銀行口座と直結した「即時払い」であり、残高分だけ利用できるため、使い過ぎ防止の観点から、日本でも急速に普及している。

利用履歴がすぐにアプリに反映され、「今月、何に、いくら使ったか」が一目瞭然であるため、キャンペーンとは無関係に、推し活Z世代にとっては、明らかなメリットがある。また、三菱UFJ銀行のデビット履歴に関して、メモ機能を使えば、「遠征費」、「チケット代」など、推し活のなかでも具体的になににいくら使ったのかがわかりやすく管理することができ、家計簿アプリに入力する手間も省ける。年会費無料で0.2%が自動キャッシュバックされる点も、現金払いより確実にお得でもある。

今回の「超特急」とのキャンペーンは推し活と「お金の管理」を連動させつつ、Z世代の経済活動にリーチするというかなり手の込んだプロジェクトだ。推し活とお金の管理の両立という重要なスキルを身につける、最高の「きっかけ」になるだろう。

本誌ではこれからも、こういったZ世代など、新しい顧客層に向けたユニークで挑戦的な試みについて取材し、紹介してゆきたい。

 

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