<急成長するアナログゲーム市場>サイコロ振るだけの「ストライク」など海外から続々上陸
岡部遼太郎(ITライター)
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「ゲーム」と聞けば何を思い浮かべるだろうか? 多くの人は話題の任天堂Switchや、Sonyプレイステーション、あるいはスマートフォンアプリやパソコンのソーシャルゲームなどだろう。現在の日本のゲームコンテンツ市場は約2兆4000億円。これは前年比3.4%増と言われ、これからもますます成長することが見込まれている。(「ファミ通ゲーム白書2025」株式会社角川アスキー総合研究所)
その7割がスマートフォンゲームと言われ、「いつでも・どこでも」ゲームができる環境が市場の成長に大きな影響を与えている。しかし、その一方で、ポケモンカードに代表される「カードゲーム市場」も3000億円規模であり、巨大だ。その成長率も10%〜30%の勢いで加速しており、さらなる規模拡大が予測されている。カードゲーム、カード購入を目的としたインバウンドも登場している。
つまり、ゲームとはデジタルゲームだけではなく、いわゆる電源を用いない「アナログゲーム」も急成長している、というわけだ。これは国内に限った話ではない。例えば世界的に見れば、2025年のアナログ・ボードゲーム市場は158億3000万米ドル(約2兆3000億円)。日本のデジタルゲーム市場に匹敵する規模だ。いわば、ゲームがデジタルゲーム一辺倒から、非電源系のアナログゲームを含めて多様化している、ということだ。そしてその規模は年間10%以上の成長率で拡大している。
この背景にあるのは、デジタルゲームとアナログゲームとでは、楽しみ方が全く違う、という点があるだろう。決して、アナログゲームはデジタルゲームの下位互換ではないのだ。トランプや将棋や人生ゲームがそうであるように、デジタルゲームとはまったく異なる楽しみ方と価値がそこにはあるのだ。
とはいえ、スマホやゲーム機によるデジタルゲームの巨大さに霞んでしまうため、アナログゲームの情報はなかなか入りづらい・・・ということもまた事実。面白い、ユニークなアナログゲームが現在、海外の本場から続々と上陸しているという事実すら知らない日本人は多いだろう。
そこで本誌では、見落とされがちだが、急拡大しているアナログゲーム市場に着目し、最新のアナログゲームについてレポートしてゆきたい。
まず、最初に着目したいのが、「持ち運び容易で、無限にできる」というゲームだ。トランプのように、手軽で単純だけど電源入らずで、いつでもどこでも無限に楽しめる・・・そんな類のゲームこそ、アナログゲームの真骨頂だろう。麻雀や人生ゲームのようなボードゲームも楽しいが、いかんせん、持ち運びに不便で、「いつでもどこでもできる」というものではない。いつの間にやらそれらはデジタル移植が進み、多くの人がスマートフォンでプレイするようになっている。
世界的には急速なブーム到来といわれ、日本でもじわじわと盛り上がりを見せるアナログゲーム。本誌では、海外で流行しているアナログゲームの日本ローカライズ版を展開する業界大手のラベンスバーガージャパン株式会社(東京、代表取締役・上林治)に取材をし、今後のアナログゲームの動向について話を聞いた。Ravensburger (ラベンスバーガー)社は1883年に南ドイツで創業された世界的な舗だ。
まず、我が国のアナログゲーム市場は、予想以上に大きい。毎年5.0%程度の市場拡大を続けており、2024年現在の市場規模は11億3000万米ドル(約1700億円)。そしてその市場は2033年までに24億9000万米ドル(約3610億円)になると予測されているという。
日本のアナログゲームはポケモンカードのようなものが主流だが、むしろその巨大な土壌があるだけに、一度根付けば、急速に拡大する可能性を秘めているという。ラベンスバーガージャパン社では、ドイツだけでなく、スウェーデンやアメリカなどからも数多くのヒットゲームを展開しているが、その兆候は確実にあるそうだ。
同社広報によれば、今後日本で成長が見込まれるアナログゲームは、ボードゲームのようなフィールドパネルやマップを利用して細かいアイテム類を操作するものではなく、いつでもどこでも手軽にプレイすることのできるものだという。ラベンスバーガーブランドのゲームは数多くあり、その中には、パネル型や将棋型、キャラクター型などさまざまにある。しかし、現在話題になっているものといえば、やはり持ち運びやプレイが手軽なものである。
現在、同社が力を入れているゲーム「ストライク」も、その中の一つ。編集部でも遊んでみたが、驚くほどシンプルで、手軽であるにも関わらず、飽きのこない永続性のある仕組みだ。非常によく考えられているゲームであると感じた。この感覚はテトリスを初めてプレイした時に似ている。

この「ストライク」、遊び方の理解には1分もかからない。非常に単純だ。一言で言えば「サイコロを振って、ゾロ目を揃えて、最後までサイコロを持っていたプレイヤーが勝ち」というものだ。日本の丁半ゲームのような印象だが、基本的な構造は似ている。
「ストライク」が説明いらずで、やってみれば誰でもすぐに理解できるが、簡単にプレイ解説をしてみたい。
まず、使うのはサイコロだけ。26個ほどのサイコロが封入されているが、プレイする人数によって利用する個数は異なる。サイコロは「1」の面が「X」になっていて他は普通のものだ。2人で対決する場合は1人8個、3人であれば7個となり、最大で5人で5個のサイコロを使ってプレイする。
<ステップ1>フィールド(箱)にサイコロを1つ置き、ゲーム開始。
<ステップ2>一人目のプレイヤーが自分の持っているサイコロのうち1つを箱のフィールド(アリーナという)に投げ入れる。この時、アリーナ内のサイコロに当てても良い。
<ステップ3>アリーナ内のサイコロが「ゾロ目」になった場合は、そのサイコロをプレイヤーは手にいれる。「X」が出た場合は、ゲーム外に回収し、以降は使われない。サイコロの目が揃わない場合は、そのまま放置し、次のプレイヤーに移る。あるいはゾロ目が揃うまでサイコロを投入し続けることができる。
<ステップ4>アリーナ内にサイコロが残っている場合は、次のプレイヤーが、サイコロをアリーナに投げ入れる。もし、サイコロが残っていない場合は、プレイヤーは全てのサイコロを投げ入れる(オールインといいます)。もしこの時に一つもゾロ目がでなければ、この段階で全部のサイコロを投入したプレイヤーは脱落となる。
<ステップ5>ステップ3〜4を繰り返し、手持ちのサイコロがなくなったプレイヤーが脱落し、「負け」となる。最後までサイコロを保有していたプレイヤーが「勝者」となる。
つまり、サイコロのゾロ目をそろえ、最後までサイコロを保有していた人が勝ちとなる、生き残りゲームというわけだ。非常にシンプルで運試しのように見えるが、実は、どのようにサイコロを振り込むか、ゾロ目が揃うまでどのようにサイコロを振込み続けるかなど、そこには高度な心理戦や作戦が必要となり、単なる運だけの丁半ゲームでないことがわかる。
このゲームの面白いところは、「サイコロを振る」という極めて古典的で単純な手法だけを使っている点だろう。これにより世界中どこにいても、性別や年齢、文化など一切不問で、説明いらずに秒殺で盛り上がることができる。個人的には、海外旅行中に一人でバーに行った時、言葉も文化もわからないけど、現地の人とコミュニケーションしたい・・・といった時などに持ち出せば、すぐに打ち解けることができると感じた。
この「ストライク」はUNO世代の筆者にしてみれば、瞬時に盛り上がれる魔法のゲームであるように感じたが、スマホ世代はどうか? それを検証するために、複数の大学生にプレイしてもらった感想を聞いてみた。
<ポジティブな感想>
「海外留学とか旅行先では盛り上がるのではないか」
「仕組みは単純だけどプレイ時間は想像よりも長いので、盛り上がれる」
「サイコロの感触がスマホにない快感になっている」
「説明不要の単純さが良い」
「勝ち負けが分かりやすいので良い」
「1プレイが最長15分なのが最高」
<ネガティブな感想>
「ごくまれにサイコロ運が悪すぎて短時間で脱落するプレイヤーがいる」
「箱がフィールドなので、持ち運びは意外と大変?」
ポジティブ、ネガティブとも、「ストライク」のゲームとしての特徴をよく反映している感想であると思う。良い意味でも悪い意味でも、単純でシンプルであることが強調されていることがわかる。ポジティブな意見で特筆すべき点は「サイコロを振る」感触に魅力がある、という点だろう。確かにこれはスマホゲームでは難しいし、振動などの体感機能を有するゲームでわずかに体験できる程度だろう。
一方で、ネガティブな指摘として上がった2つに関しては、意外にもゲーム性とは一切関係ないものである。なぜなら、「サイコロ運が悪い」という点などは、ゲームの娯楽性の問題ではないからだ。スマホゲームでいえば、「いきなりメモリが消えたらどうしよう」のようなものだ。運が悪い人はどんな時にも、どんな場所にもいるのだから、そんなことを考えていたらキリがない。
そして「箱がフィールドなので、持ち運びは意外と大変」というあたりは一考の余地があるかもしれない・・・と最初は思ったが、実はこの点は容易に克服できる。外出で箱を持っていきたくない場合、どこにでもある丼で代用できるからだ。丁半ゲームチックにはなってしまうが、箱フィールドよりも、丼の方が傾斜が強いので、ゲーム性が高まるようにすら感じた。ちなみに筆者は、公式箱フィールドよりも、丼フィールドの方が好きなぐらいだ。
とはいえ、ここまでの記事を読むと「丁半ゲーム」と何が違うのかと思う人もいるかもしれないが、これは実際にやってみると、意外にも「まったく違う」ということがわかる。ようは「仕組みは同じだが、楽しみ方が違う」というイメージだ。サイコロを振るだけという極めて単純な仕組みの中に、戦略ゲームのような心理ゲームのような駆け引きがあり、「単なる運だめし」ではないからだ。これは実際にやってみないとわからない感覚なので、ぜひ一度プレイしてみるとことをおすすめする。
拡大するアナログゲーム市場は拡大だけなく、日々多様化が進んでいる。アナログゲームといえば、UNOと人生ゲームぐらいしか浮かばない日本とは大きくことなり、今世界ではデジタルゲームに匹敵する巨大な市場とユーザーを生み出している。中にはデジタルゲームよりもはるかに複雑なものから、「ストライク」のような極限までミニマムな仕組みのものまでその可能性は無限だ。
特に、電源不要、老若男女、いつでもどこでも即座にみんなで楽しめるという点はデジタルゲームにはない魅力の一つだろう。親族や友達とあつまりがちな年末年始のシーズンにはビデオゲームよりもはるかに有用だ。たまには気分を変えて、アナログゲームで盛り上がってみてはいかがだろうか。
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