<清原判決に見るメディアの嘘>傍聴席21席を求めて並んだ1713人って誰?

社会・メディア

メディアゴン編集部
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「テレビは嘘をつくか?」この問いに対する答えは「YES」であろう。それを「演出」というのか、「捏造」というのかといった差はあるにせよ、様々な場面で嘘はついているはずだ。
例えば、本来、嘘があってはいけないニュース報道でも、テクニカルな嘘が話題になることは珍しくない。少なくとも、私小説(作者自身の経験を元にした小説)の作家が作品でつく程度の嘘はついているのだろう。しかし、インターネット時代の今日、嘘も手軽に検証されてしまうから、すぐにバレる。そしてその事実が瞬く間に広く流布されてしまう。
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覚醒剤取締法違反の罪に問われた清原和博元被告(48)に対し、東京地裁は5月31日、懲役2年6ヶ月執行猶予4年の有罪判決を言い渡した。
テレビニュースのいくつかは、この裁判が大変関心が高い事件であることを示すために、次のように報じていた。

「東京地裁は、17日の初公判と同様に近くの日比谷公園で傍聴券の抽選を実施。判決を見届けようと、朝から多くの傍聴希望者が訪れた。一般傍聴席21席に対し、1713人の希望者が列をつくり、倍率は82倍だった」

これは事実ではあるが、嘘でもある。21席の傍聴席に1713人が並んだという数字は「事実」だが、一方でそこに並んでいた1713人の多くが「一般の人」として傍聴券を求めていた報道関係者だったはずだからである。
メディアや報道機関が、話題となっている裁判の傍聴券を手に入れるために、アルバイトも含めて多数の「並び屋」をつ使うことは一般にもよく知られていることだ。例えば、法廷画家、記者、リポーターと、最低でも3席は確保したいと考えれば、傍聴券の枚数とそれを求めるメディアの数から逆算して、「何人並んでいるのか」は、自ずと逆算できる。
もちろん、テレビは必死に傍聴に来た「一般の人」を探し出し、インタビューを撮る。しかし、このようなメディアによる「並び屋」の利用が知られるようになると、これが真実の声であったとしても、アリバイづくりのように見られてしまう。
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もちろん、「一般の人」であるはずの人が、実は雇われた「プロの一般人」であるという疑惑が指摘されるようなことも少なくない。同一人物が肩書きや立場あるいはルックスを変えて、メディアが望む「一般の人」の声を様々に代弁している事実を指摘する検証サイトまで存在している。
「こういう報道の仕方はもうやめようよ」という指摘は、視聴者ならずとも、制作の現場で何度も繰り返してなされてきたことだ。しかしそれでもなお、こういう報道が繰り返されているのが現状だろう。
傍聴券を求める人の列の長さでしか、関心の高さを表現できないということ自体が、「テレビは劣化している」ということなのかもしれない。もちろん、報道に限らず、テレビ作りには「誠実さと謙虚さ」も必要だ。
 
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