<芸名?自称?>日本最後の「助教授」成田悠輔氏の謎

社会・メディア

矩子幸平[ライター]

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最近よく見る研究者系タレントといえば、イェール大学助教授・成田悠輔氏だろう。歯に衣着せぬ発言や鋭いツッコミに思わず聞き入ってしまう人は多いのではないだろうか。

一方で、少しでも大学やアカデミズムの世界を知っている人であれば、成田悠輔氏を見るたびに、気になる違和感があるはずだ。もちろん、あの「丸と四角のメガネ」のことではない。

「イェール大学助教授」という肩書きである。

大学のことを少しでも知っていれば、日本の大学に「助教授」という肩書き・職名がないことは言うまでもないだろう。「イェール大学にはあるんじゃない?」という人がいるかもしれないが、そもそも「助教授」という対訳がないのだ。より正確にいえば「なくなった日本語」だ。

大学の肩書き・職名は現在、上から、以下のような構成になっている。カッコ内は、海外での一般的な英語名称だ。

教授(Professor)
准教授(Associate Professor)
講師(Lecturer *大学によりAssociate Pofessorもケースもあり)
助教(Assistant Professor)
助手(Research Associate)

もちろん、国によって、上記とは異なる肩書きや表記も多少はあるが、大きくは概ね上記のラインナップに収斂されている。つまり、対訳として「助教授」に該当する職名は日本には存在していない。日本では2007年4月の「学校教育法改正」により、国際的に「Associate Professor」とされる職名の対訳として、助教授は消滅し、全て「准教授」となった。日本で「助教授」を名乗る大学教員は、成田氏ただひとりだろう。

[参考]4億円踏み倒し「ひろゆき氏」の統一教会批判に感じる違和感

さて、そんな「日本に存在しない肩書き」を持つ成田助教授であるが、所属であるイェール大学での彼の肩書きは「Assistant Professor of Economics」である。「Assistant Professor」と書かれている。旧・助教授を意味する現・准教授の「Associate professor」ではない。「Assistant Professor」つまり、彼の日本での正式な肩書きの対訳は「助教」である。「助教授」ではない。

つまり、どこをどう読んでも、成田悠輔氏は「助教=Assistant Professor」であって、助教授でも准教授ではないのだ。もちろん、悪意はないのだろうが、最近の成田氏の露出量を見ると、まるで日本に「助教授」がいるかのような間違った情報が浸透してしまう危険性すら感じる。

自身のホームページでも、「イェール大学助教授」と書いているので、メディアが勝手につけた肩書きや、うっかり勘違いでもないようだ。成田氏は、2011年に東京大学大学院経済学研究科修士課程を修了しているので、彼が日本の大学に在学中には、すでに日本に「助教授」は存在していない。よって「助教授という職名が存在しないことを知らなかった」・・・という無知を理由とした言い訳も使えない。

もちろん、成田氏ほどの知性が、経歴詐称をするような愚かな真似をするはずはないだろう。にもかかわらず、訂正もせずに「助教授」を標榜しづつけることには謎しかない。もちろん、「イェール大学」という名称がついていなければなんら問題はないし、音楽家・坂本龍一氏のニックネームが「教授」であったのと同様に、「助教授」という芸名なのかもしれない。

とはいえ、彼がメディアに登場する時の肩書きは常に「イェール大学助教授・成田悠輔」である。使い方としても、芸名やニックネームでもなさそうだ。成田氏の知性から理解し難い謎である。

成田氏の鋭い分析で、ぜひ、自分が助教授である理由について、すっきりとした説明をしてほしいものだ。

 

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