米政権矛盾が米方針転換もたらす
植草一秀[経済評論家]
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トランプ大統領はMAGA(Make America Great Again)を掲げる。「米国を再び偉大に」と唱えている。
そのなかから出てきた高率関税政策。輸入に高率関税をかける。これは国内産業保護のため。製造業製品輸入に高率関税を課せば、当該産業分野での国内生産が増大する。
究極の保護貿易政策は「鎖国」。外からモノを入れない。外にモノを出さない。しかし、トランプが掲げる保護主義は違う。外にモノを出そうとしている。相手国には関税率引き下げを求めて、米国は高関税を設定する。自己中心主義と表現できる。国別の高率関税発動を90日間凍結した。この90日間に相手国の譲歩を求める。トランプ流の「ディール」である。しかし、「ディール」がうまく機能するか、不透明である。
世界は分業で成り立っている。自由貿易で分業を成り立たせた方が相互に利益が大きい。これが自由貿易のメリット。しかし、考えなければならない問題がある。それは、国内に置くべき産業があること。最重要の産業は食料生産産業だ。代表は農産物。世界的に飢饉が生じれば各国が輸出を停止する。自国内に農産物生産がなければ食料を調達できない。経済安全保障の第一は食料自給だ。
日本のTPP協議参加是非が論議されたとき、もっとも強い論議が生じたのが農林水産物の輸入自由化。海外の安価な農林水産品が流入すれば農林水産品の国内生産は消滅する。これを是とするのかが問われた。自民党は2012年3月9日に「TPPについての考え方」を発表。このなかに、「政府が、「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する。」と明記した。
関税撤廃に「聖域」を設けることが必要だと主張した。その「聖域」が重要五品目。コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物、である。経済安全保障の根幹が食料自給。日本の食料自給率が低下の一途を辿っている。これは日本国民にとっての死活問題。
いま、日本人の主食であるコメで大騒動が生じている。また、「コメ・麦・大豆」の主要農作物について、その優良な種子を安価で安定的に供給するために「主要農作物種子法」が制定された。その「主要農作物種子法」が廃止された。この法律が民間の種子事業を阻害していること、主要農作物の自給は十分に達成されていることなどが理由とされた。
しかし、コメの種子事業に参入した三井化学による「ミツヒカリ」事業に巨大不正が発覚して刑事事件として立件された。他方、コメの不足が重大問題として浮上している。トランプ大統領による「高率関税政策」提示を逆手に取って、日本政府は食料確保に向けた対応を示すべきだ。米国の主張は保護主義と自由貿易を同時に求めるもので矛盾を抱えている。矛盾あるものは必ず挫折する。
日本政府は論理的に整合性のある主張を米国に提示して安易な譲歩をすべきでない。
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