万博にトランプさんを招待するって本当ですか?!

社会・メディア

山口道宏[ジャーナリスト]

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「大阪のひとはお人好しだよな。あの万博(1970年)の高揚感をもう一度という思いなのか」

これは東京都内での居酒屋談義だ。そして「あとは野となれ山となれ、残るは莫大な借金と負の遺産だろ」と遠慮がない。余計にも、善良な大阪府、大阪市民が「かわいそうだ」とも。

「政府は、トランプ大統領も呼ぶらしいよ」

「不動産業の(米国の)トランプさんにとって、あの産廃跡地がどれほど魅力なのかしら?」

と続いた。

万博は国策イベントだが国が大阪府に丸投げした時点で失敗していた。万博入場券を「ふるさと納税返礼品に充てる」という暴挙にもでた大阪府だが、それは趣旨が違う!と総務省は言うのか。東京五輪に倣えば、やがて大手広告会社や政治家の暗躍が明るみとなり、残った跡地と周辺は、多額の血税を使ったバクチエリア(IR)として新たな「遺産」になるのは必至のようだ。

大阪・関西万博の開幕が迫っている。カウントダウンまで1ケ月を切った。

赤字になっても大阪府と大阪市に5000億円の財政調整基金があるから使ったらいい、と豪語したのは橋下徹元府知事だった。そのときは大阪府と市が負担したらどうか、と吉村現知事に進言もしている。大阪では府・市民の税金が原資の行政預貯金は橋下氏の指示でどうにでもなるらしい。

「では、赤字になったらその通りしっかり実行してもらいましょ」

となるが、物分かりのいい大阪府市民はそれでも善良な納税者でありつづけるのか。万博の跡地は「IR(Integrated Relations :総合型リゾート、2030年開業予定)」に転用する。大阪は横浜と違ってIR推進の自治体だった。予算は初期投資額で約1兆円と発表(2023.4政府認可)。それだけでものけぞるが、万博後を見据えた「インフレ整備」を加えたら、なんと9.7兆円という驚愕な数字も報じられている。 これもまた、税金だ。万博の国民負担率は一体いくらになるのか。

「未来社会の実験場」が関西・大阪万博のコンセプトだが、大赤字覚悟の万博強行と並行して出口のないカジノ禍づくりに多額の血税投入という事実。日本国民全体、とりわけ大阪府・市民は「実験場」のために、まさかの自縄自縛の途を歩むことになろうとは。

馬場伸幸日本維新の会(維新)前代表は、万博で赤字が生じた場合、誘地してきた維新はどうする? の質問に「政治的な責任はある」「責任の取り方は維新のメンバーで協議して決めたい」「国と大阪府・市、経済界の3者で話し合ってもらわなければならない」と答えた(2024.1.16、日本外国特派員協会)。この責任の取り方発言は海外へ配信済だ。

「身を切る覚悟」が党是の維新だが、政党助成金の全額返還、議員報酬の全額不受理だけで、とうてい膨大な赤字補填を乗り切れよう金額ではない。

笛吹けど踊らず。大阪・関西万博(4.13〜10.13)は、膨大な税金の無駄遣いと、始まる前から責任論が噴出している。2月5日現在。前売りチケットの目標1400万枚は売り上げ770万枚と開催者が発表した。当初60ケ国の出店希望も47ケ国となり建物の完成はうち3ケ国(1月現在)、だから到底間に合わない。「おもてなし」どころか、ボロボロと脆さがみえる。

会場建設費だけで、当初1250億円が2350億円と2倍に膨らみ、大甘の想定の国家事業だ。国と大阪府・市と経済界が3分の1ずつの負担というが、国も府も市も税金に他ならない。大阪は、日本一高額の介護保険料負担と、圧倒的に高い生活保護受給率で知られ「万博どころじゃないよ」という町の声も聞こえる。ヘンな国家プロジェクトは、コロナでも強行した「東京五輪(2020)とそっくりだ」と。

また、入場券予約では、とんでもないことが起きていた。

入場券購入は基本的にネットのみ(電子チケット)で、日時指定、パビリオンは別予約といい、万博IDの登録では、SNSのアカウント、プロフィール、生体認証、パスワード認証など個人情報もとる?

2億円トイレが話題の一方で視覚障害者はチケットすら求められない。主催者はそれを「並ばない万博のため」と自慢してきたが、開催2ケ月前になって吉村大阪府知事から石破総理へ「当日券導入の要望」というから滅茶苦茶だ。予約者が怒っている。

地元の吹田市教育委員会も「万博遠足」を中止決定した。理由は「熱中症対策、災害時対応、救護所など、子供たちの安全を確保できないから」。賢明だ。また、会場となる埋め立ての人工島は有害物質が残りメタンガス発生の恐れが、と専門家から早い段階で指摘されている。建設現場では爆発事故も起きていた(2024/3/28)。

お膝元の大阪府からも抗議の声があがっている。強行突破の開催に向け大阪府庁内の引き抜き人事も活発で、労組が反発。これまでも人手不足で残留部隊の時間外労働の横行やメンタル不全の休職者が続出する事態に「(万博のために)ひとをとる」のはもう勘弁して、のようだ。

『大阪・関西万博「失敗」の本質』(松本創編著・ちくま新書)が話題になっている。

イケイケどんどんの体質と手法を旧日本軍の組織論にまで遡っての検証だ。タイトルの「失敗の本質」ではコロナ禍で強行した東京五輪の場合も引くから説得力がある。本書の背骨を成すのは、なんのための万博か。 この万博には哲学も理念もないとバッサリだ。
なぜこうまで迷走か。 産廃埋立地で危険がいっぱいの会場は、アクセスも悪い。むしろ今回の万博は「負の祭典」と呼ぶが相応しいか。さらに、通り一本隔てると件のIR(カジノ)建設を同時進行で、いよいよ本丸はIRあっての万博とわかるのだ。
古人は「瓜のつるには茄子はならぬ」といった。

石破総理。フェイクですよね。あのトランプさんをまさかの万博に呼ぶって。

 

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