<介護職30万人の不足>「もう、ヘルパーさんがいません」介護漂流の真相
山口道宏[ジャーナリスト]
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「保険あってサービスなし」が現実になった。
「制度温存のために生命を削るのか。高い保険料も収めているのに。これじゃ国がする保険詐欺だよ」。20余年が経つ我が国の公的介護保険制度だが、身近にも「イザというとき使えない、使わせないのが介護保険なのか」と怒りの声が噴出。国の十八番(おはこ)である「(保険)制度の維持」が、肝心の利用者と家族の「いま」を犠牲にしている。
厚生労働省は、2026年度までに、現在の213万人(2024.10)より27万人の介護職員増が必要だが2023年度には前年度より約3万人の減少がはじまったと発表。かつて451校あった養成校は次々と廃校し300校を割って2万7千人いた卒業生も今年度は外国人留学生を入れても6千人だけ。同省は2040年度までに、さらに32万人増が必要と公表してきただけに結果責任は重い。
同時に肝いりの「地域包括ケアシステム」は、2025年を目途に完成(同省)のはずだったがどうか?? 「第一次ベビーブーム」(1947-49生)は、806万人(現在600万人)全員が2025年に後期高齢者の75歳以上になる 。
介護事業者の倒産は過去最高という。前年の4割増は172件(2024)、うち81件は訪問系。休廃業、解散も最多の612件で、ここでも448件は訪問系だ。倒産は小規模・零細に多く訪問介護が崩壊寸前に追い込まれた。その結果、利用者(家族)へのしわ寄せは必至で介護難民があふれる事態が懸念される。
在宅支援の訪問系が多いのはなぜか。コロナ禍での利用控えではない。昨年の介護保険改定での訪問介護の介護報酬を引き下げたことの原因は大きい。ケアマネは「次のひと」(事業所)を探すのに連日奔走している。
2023年度の介護職の求人倍率は4.07倍、訪問介護では14倍。我が国では「要介護」(者)は在宅が7で施設が3の割合で暮らすから「ヘルパーさんがいません」はいよいよ深刻だ。
介護業者にとって介護報酬は唯一の収入源だ。国はその額を政策に沿って操作する。ノーとはいえない公定価格、だから事業者はそのなかで人件費を賄うしかない構造だ。
引き下げとはこうだ。身体介護20分未満167単位が163単位に、生活援助20分以上から45分未満183単位が179単位に、通院等乗降介助99単位が97単位に、といったふう。それぞれに0をつければ円換算だから、事業者は2%の引き下げに哭いた。日頃からギリギリの報酬下での運営がうかがえる。
「サ高住」(サービス付き高齢者住宅)が「数字を押し上げた」(関係者)という。というのは、訪問系といっても1件ごとの訪問に比べ「サ高住」は集合住宅だから利益率は当然高くなる。個人宅訪問と同じ土俵なのは最初から無理があるも「訪問系は儲かっている」(厚労省)と、その数字をもって訪問系の引き下げの根拠に使った。
直行直帰のヘルパーは一日平均数件の訪問を自転車での移動が多い。ただし移動時間は労働時間にカウントされないという拘束が制度発足からまかり通る。さらに「今日は体調が悪いので」と利用者宅から中止の連絡が入ることも。国はそんな不安定な就労実態を放置してきた。ヘルパーの7割は非正規雇用だ。
さらに介護報酬に「加算」を常態化した。「厚労省は(加算で)色をつけてやったよ、ですね」(事業主)と訝る。「介護職等処遇改善加算」など典型だが、「処遇改善」というのなら低賃金構造の打破のため、本来的な「基本報酬」の大幅な嵩上げではないか。
常勤介護職員の給与が、現在も全産業平均より7万円低い(月単位)事実を厚生官僚は知るだけに、その手口はあまりにセコイ。
また、施設系にも問題が。公的施設の「特養」は「要介護3以上」が入居条件という「ルール」(厚労省)をつくったことで、入居待機が懸案だった。しかし「特養」は医療系の施設ではないから、医療が必要な重度ほど居場所がないという現象も。受け皿は玉石混淆の「有料老人ホーム」か、「介護離職」の自宅が療養先でしょうか! に。
家族による介護から「介護の社会化」といい国策として始動したのが公的介護保険制度だ。少子高齢化における家族負担の軽減に、当該家庭ではなく、社会で、保険で、プロに依る介護の実現だった。しかし、介護現場の人材不足が叫ばれて久しい。窮屈な制度とシステムとメニューのなかで、被介護者(家族)の「いま」がある。介護保険料の全国平均6225円・月平均(2024年度)は、制度当初掲げていた「国民負担は3000円程度で」の2倍になっていた。
こうした実態を前に政府の思惑はどうか。財務省がある大手業者と連携して「センサー」「IT活用」で職員の配置基準の引き下げを目論む。経営の協働化、大規模化を謳い、介護プロの絶対的な人材確保ではなく、質の低下を誘う「基準緩和」で乗り越えようという。
「一人で4人のケアが可能になる」と言ってはばからない。なんと介護のプロとロボットを並列するから、現場知らずの呆れた考えとの指摘は正しい。一方で、転職・離職・転職を繰り返させて利ザヤを稼ぐ人材派遣会社も存在するがどうか!?
高齢者の在宅介護の必要は、「単身老後で」「老夫婦世帯で」(「兄弟」「姉妹」「親戚」など)「8050世帯で」「日中独居で」「ダブルケア世帯で」「ヤングケアラー世帯で」など。対象の世帯には貧困と孤立が背後に潜むこともあり、介護悲劇や共倒れも心配される。
高齢者の暮らしの支援に、国も地方自治体も介護保険に丸投げだ。
ただし、その使い勝手の悪さに「結局は家族に頼るしかない」から介護保険の理念など既に消滅している。「ヘルパーさんがいない」が、だれもが我が身の介護事情となったいま、国をあげての「制度疲労」の修復が急務になっている。
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