<責任者、出てこい!>「有料老人ホーム」の突然閉鎖で哭く入居者と家族
山口道宏[ジャーナリスト]
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終の棲家と信じて疑わなかった、「有料老人ホーム」の突然の閉鎖だ。
社長が逃亡、職員の大量退職、給料未払い、と報じたのは今年10月の初め。東京足立区の住宅型有料老人ホーム・ドクターハウスジャルダン入谷。グループ運営は全国に4カ所を有し「入谷」は2023年10月にオープンし「入居料1ケ月108000円は安かった」。入居者94人、そこで事件は起こった。入居者を残し30人のスタッフが一斉退職、「施設閉鎖」は張り紙が1枚というから驚きだ。1年すら、もたなかったことになる。同系列の他所でも閉鎖騒動となったが、新聞各紙は報じていない。
使い捨てのオムツが床に散乱し、白湯と薬が机のうえに放置、スタッフ詰所に人の姿はない。事件発覚で家族は「見捨てられた」と怒り、残った数少ないスタッフと東京都と足立区が入居者の受け入れ先探しに奔走した。面会のたびに「お水ちょうだい」と母はいい「また来てね、待ってるから」と娘の手を離さなかった。ブザーを押してもスタッフは来てくれない。面会に行くたびに職員は減っていた。
80代の「寝たきり」に近い母は入居してわずか1ヵ月で死んだ。その日の朝のこと。「今日一日、もつかな?」と医師はいった。「早く家族を呼んで」とも。しかし、家族のもとに施設から連絡が入ったのは夕方で、「もう息していないです」のスタッフの一言に愕然とした。毎日のように救急車が来ていたという。「死に目に会えなかった」と娘は哭いた。
「入谷」へは東京都と足立区は事件が分かって「現地調査」に入ったと伝えられる。が、本件ではそもそも「住宅型」にどうして「寝たきり」がいるのか?? と素朴な疑問がわく。というのも「住宅型」は「介護付き」と違い、いわば老人専用の賃貸マンションだ。ここでは職員が介護にあたることを想定しておらず、必要なら外部事業者と入居者と個別に契約となる(介護保険サービス)。事件のあった「入谷」の内部での介護サービス? が一体何に依ったかが不明だ。もはや最近のホーム間ではその違いがみえなくなっている。
「有料老人ホーム」には「住宅型」と「介護付き」と「サービス付き高齢者向け住宅」が代表的だ。全国で「住宅型」と「介護付き」ほかで17327ヶ所、546190人が居住するという。そこで、今日的な「有料老人ホーム」の経営に関して、構造的な問題点を挙げておこう。
(1)「住宅型有料老人ホーム」は自立型といわれ「サービス型高齢者住宅」に似るが住宅型の「入谷」では十分な介護体制がないのに「寝たきり」「認知症」の方も受け入れていた? 行政は知らなかった? 黙認していた? ここでは1ヵ月に7人から8人が死亡していた。
(2)行政の「指導監督」が形骸化していないか。厚労省は都道府県に定期的な立ち入り検査を、介護保険部局と連携し入居者の処遇の把握を求めている。転落死、虐待など入居者の安心安全が脅かされる事案が発生している、と。また入居は「契約」だから消費者庁も埒外ではない。消費者安全法による消費者保護が責務だ。 今回ケースは重大な契約違反だ。
(3)老人ホームの入居者の苦情申し立てはどう担保されているのか。施設側に苦情等相談部門は存在するのか、また外部は自治体の苦情相談窓口か、消費者センターか、民間の専門相談機関か、弁護士会か。「入谷」の入居者はひとまず一時的な受け入れ先に落ち着いたが「次の受け入れ先があればいい」という単純な話ではない。入居者は宅配の荷物ではない。人権問題だ。数々の賠償問題が残るは必然だ。入居者の受け入れ先で体調悪化があったら誰に訴えるのか。震災での仮設住宅への移動を想起するとわかりやすい。「閉鎖」だから一時的な転居では済まない。入居者の今後は一体どうなるのか。
(4)厚労省は事件化して初めて「通知」なのか。「有料」といえど公金(介護保険)が投入されている。しかし、多くの自治体では施設開設時の届出書類の形式審査にとどまっている。施設内の事故(介護中事故が多い)、事件があっても施設長が記す「事故報告書」を受理するだけが実情だ。当該の施設長では内々で「第3者性がない」ことの疑問がないのか?
行政は、内部職員には法律が定める内部通報、公益通報保護の徹底を、施設側には利用者や家族の苦情申し立てに際して契約書等に内部及び外部相談機関の照会先明記の義務付けを。「うすうすおかしいと思っていました。だけど『人質』を取られているようで文句を言えなかった」と語る家族がいる。行政は「契約当事者間のことなので」と逃げられない。確かな公的責任が問われている。