<舞台「ジャンヌ・ダルク」>ヒロイン・有村架純を際立たせる130名の出演者と白井晃の名演出

映画・舞台・音楽

熊谷信也[新赤坂BLITZ初代支配人]
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赤坂ACTシアターで、舞台「ジャンヌ・ダルク」を観た。
開幕より7日目。迫力。100名の兵士の戦闘シーン。総勢130名が舞台に上がっている。壮観な眺望。そして骨太の脚本。インターナショナルな音楽。繊細な演出。初舞台・初主演の有村架純の新しい挑戦とそれを支えるベテラン演劇人。
15世紀、神の声に引き寄せられた運命の少女ジャンヌ・ダルクと兵士100人が赤坂ACTシアターに立体化されている。アクトシアターの全通路を埋め尽くす兵隊の数、100人の兵士が客席を縦横無尽に走る、そこに舞い上がる風や、兵士の鎧甲冑の金属と金属がぶつかる音などのリアルが、まるで我々を戦場にいるかのような錯覚を見せてくれる。
リュック・べッソンが監督した主演ミラ・ジョボビッチの映画「ジャンヌ・ダルク(1999)」も、主演イングリッド・バーグマン、監督ヴィクター・フレミングの映画「ジャンヌ・ダーク(1948)」も、脚本・ジョン・アヌイ、蜷川幸雄演出、主演・松たか子の裁判劇でもある舞台「ひばり(2007)」も、皆、素晴らしいがどれを見ても、なぜか、しっくりこなかった。
その理由は日本人の宗教観と西洋キリスト教の宗教観が、どうも相容れない空ではないのか思っていた。ジャンヌ・ダルクは日本人には理解できないようなものなのかと。
しかし、直木賞作家・佐藤賢一の原案、劇団新感線の座付き作家・中島かずきの脚本は、その疑問を解決してしまった。
日本人にも、なるほどと思える秘密を用意した。もちろんこの秘密こそジャンヌ・ダルクの運命そのものの答えだと私も思う。この秘密があるからこそ、時の王・シャルル7世はジャンヌ・ダルクを見殺しにした。結果、この秘密ゆえに救世主である国民の英雄ジャンヌ・ダルクを魔女として火刑台に送らざるを得なかった。
ネタバレになるから、これ以上は書かない。何しろ肝心なところなので劇場に行って自分の目で確かめることをお勧めする。
この作品は赤坂ACTシアターで4年前、堀北真希が演じた。
堀北真希、初舞台の「ジャンヌ・ダルク」はあえて言うならば「孤高」のジャンヌ・ダルクだった。今回のジャンヌ・ダルクは大衆の中から生まれた「庶民」のジャンヌ・ダルクか。   客席に大きく突き出した縦使いの舞台。そこに大きな穴が2つ。きわめてシンプルな美術セット。
しかし、この穴が壁にも砦にもなる素晴らしい松井るみの美術プラン。音楽は演出家・白井晃のアイディアでブルガリアンボイスのレコーディングとなったという。 キリスト教の啓示、天使の囁き、奇跡とか奇蹟とか悲劇とか魔女とか宗教裁判とか異端裁判などの我々の日常にない世界を音楽は時間と場所を一気に飛び越えて感じさせてくれる。
この全ての音楽を作曲した三宅純は、今や世界中から注目されるパリ在住の音楽家。故ピナ・バウシュ、映画監督オリバー・ストーン、ヴィム・ベンダースとの近年の作品が光り輝いている。
「あまちゃん」で小泉今日子の学生時代を演じて人気を得た有村架純が神の啓示を受けたジャンヌ・ダルクから火刑台で魔女として処刑される瞬間までを体当たりで初舞台を演じている。  火刑台で燃やされる有村架純を見つめ続けていると涙が止まらない。実にすがすがしい、荘厳かつ厳粛な舞台となっている。演出の勝利だ。
舞台「ジャンヌ・ダルク」赤坂ACTシアター 10月7日(火)~10月24日(金)まで
 
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