<フジテレビ覚醒の予感?>新コント番組『新しいカギ』の限りない可能性

テレビ

高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]

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面白い。笑える。上手い。そう思えるコント番組に久々にであった。フジテレビが1月3日の正月特番で放送した『新しいカギ』である。この番組が4月からレギュラー番組として毎週金曜日に放送されるという。コント好きとしては、嬉しい限りである。

この番組は今低迷しているフジテレビが覚醒するきっかけになるのではないかと、僕は思う。その理由を挙げて行く。

まず、この番組には、コント番組のレギュラー出演者キャスティングにおいて確かな目を持つプロデューサーがいる。

*チョコレートプラネット(長田庄平41歳 京都出身 :松尾駿38歳 箱根出身:吉本興業)

*霜降り明星(せいや28歳 東大阪出身:粗品28歳 大阪出身:吉本興業)

*ハナコ(菊田竜大33歳 千葉出身:秋山寛貴29歳 岡山出身:岡部大31歳 秋田出身:ワタナベエンターテインメント)

けっこう大切なことだが、若いし、出身地も全国に散らばっているし、プロダクションも混合だ。多様性は笑いに幅を与える。さらにもっと大切なことだがこの演者たちは皆、芝居(コント)が出来るのである。チョコプラは欽ちゃんが認めたほど、手足の裁きがきれいな芸人ある。和泉元彌の真似がさまになるのはそのお陰だ。ほかのメンバーもセット(舞台)に立っているときに、立ち姿が様になっている。

コント(芝居)の出来ない演者は何もせずに立っているときに棒立ちになってしまう。そのせいで、メインの動きとは関係ない余計な動きをしてコント(芝居)の笑いどころの邪魔をする。いらないしゃべりを足す。彼らにはそれがない。ところで、コント(芝居)という書き方をしているのは、コントと芝居は、結局は同じだと思っているからである。

フジテレビはコント番組をつくるのが大変得意な局であった。しかし2018年に『めちゃ2イケてるッ!』が終了して以来、その伝統は途切れた。あわせるように、全体の調子も落ちていった。だが『新しいカギ』のようなコント番組が復活すればそれをきっかけに再生するのではないかと思う。フジテレビはやはり『楽しくなければテレビじゃない』のである。

では、1月3日の放送から、それぞれのコントを見て行く。

「ドラマ「教場」の設定で、教官の粗品の出すお題を演じるコント」緊張という圧がかかっているので、すべっても何とか出来るという設定だが、演者達の上手なのは、その場の緊張という振りを芝居できちんと表現しているところだ、

「UzerEatsの配達員」連ギャグ。その1は、俳句でいえば「律儀なるUberEatsに冬の雨」という設定だ。ようやくやって来た配達の青年だが冬の雨でずぶ濡れである。家に上がり込んでハンバーガーをテーブルに置こうとするが、家人の永田は迷惑である。これこそ、コントの設定だ。この設定があれば、後は演者がどうにでも動けるのだ。マジですべって転ぶなど、笑いの神様も降りてくる。

面識はないのだが、台本を書いたであろう樅野太紀氏、酒井義文氏、谷口マサヒト氏、白武ときお氏のすばらしさである。連ギャグの一番目がありそうな設定で笑いが取れれば後は翔んだ設定(略語だらけのギャル・せいやの演じる太田光)でも自然にはいっていける、一つだけ、長田に注文。長田は普通の人の設定なのだからツッコミに類するセリフをしゃベってはイケない。普通のひとがその場に居たらどう嘆くかを考えて演じるべきだ。手なりでツッコむ(落としのセリフを言う)癖は直すべきだ。

「演歌歌手に番組終了の引導を渡すコント」せいやの独壇場。せいやは久しぶりに一人で演じて面白い逸材だ。ビートたけし以来というのは褒めすぎか。このコントではせいやに乗っけてチョコプラ松尾のお付きのヨイショが実に上手い

「ぶっとびの飛美男くん」女の子に優しくされたりすると、上がって(ホントに)ふわふわ浮いてしまうコント。アイディアのコント。やはり、飛美男役の松尾がうまく、宙に吊られて浮いてしまうところがおかしいが、それもこれも、粗品や女優陣が必要なとき以外は一切飛美男に目線を送ってはならないという規則を演出家がきちんと指示しているからのおかしさ。

「ボキャビルダー」マッチョの姿でやる言葉ゲーム。面白ければ時間を埋めるにはいいだろう。

「恋するせい子物語」美人の転校生に何とか失敗させてやろうと企むせいやのJK。だが、ことごとく失敗するという典型的な設定コント。ありきたりの設定だが、コント(芝居)が、上手いので面白くなっている。しかもせいやのJK役が、意外にも可愛い。オへチャだが可愛い。汚くない。これは、テレビでは大切なことだ。

さらに、イタズラが失敗したときのせいやのリアクションが、抜群におかしい。オチ(失敗)があって、次に来るリアクション、このリアクションをコントでは「受け」と言うが、このウケがきちんと出来る人を、ぼくは、今の芸人では明石家さんましかしらない。さんまは他人のトークを聞いた後、膝を折って崩れ落ちる、アレが「受け」である。

最後に、番組に対する筆者の希望も書いておこう。

今回はCOVID 19の影響でハナコの出番はほとんどなかったが、彼らが、留守を守った他の演者の精神をしっかり受け継いで演技してくれることを望む。

これは、余裕が出来てからでいいから、使って欲しい演者が居る。座組の相性などあるだろうから、それがクリアされるならばでよい。かもめんたる(岩崎う大 槙尾ユウスケ)。現メンバーより年上なのが難点だ。空気階段(鈴木もぐら 水川かたまり)。彼らも霜降り明星より年上だ。インパルス板倉俊之。もう43歳か。ゲストでたまに、なのかもしれない。

生放送をして欲しい。出来れば舞台公開で。なぜなら、テレビの優位はこれから同時間性しかなくなるからだ、ドラマやリアリティショーでネットメディアがいくら、視聴者を持っていこうが、今、その時間に違う空間でものがおこなわれている状態をつくり安いのはテレビだからだ。ネットでもやれることだから、ネットがやらないうちにテレビは同時間性を追求するべきだ。

生のコント、しびれますよ。

 

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